hayakawaさん

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故郷

18/12/23 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:1件 hayakawa 閲覧数:112

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 少年は森の奥地で生まれた。村では火をおこし、川の水をくみ、野生動物を採り、野菜を栽培していた。
 彼は東京にやってきた。初めて東京に来た時、いったいここはどこだという観念に襲われた。
 東京駅から山手線で新宿駅まで向かった。彼はそこで日本語を学んだ。古びたアパートの504号室に住んでいた。
 隣人とはすぐに仲良くなった。彼は中国人の女性だった。
「初めまして」と少年は言った。
「初めまして」
「日本は初めてですか?」
「ええ。ここからすぐ側の日本語の学校に通っています」
「そうですか。私はこの国で中華料理を作っています」
「へえ。凄いですね。今度食べにいきますよ」
「あなた日本語が上手ね」
「ありがとうございます」
 少年は照れ臭くなりながら、自分の狭い部屋の中に入る。
 夜になると星を眺めた。自然と涙は流れた。故郷の父の顔、母の顔、兄、妹達の姿が星空に浮かんでくるようだった。
「どうしてお兄ちゃんは日本に行くの?」
 妹が少年に聞いた。
「日本で学びたいことがある。工業の発達した国だ。そこでプログラミングを学ぶんだ」
「プログラミング?」
「そう。プログラミング」
 少年は持っていたパソコンで、それも日本製だったが、プログラミングについて知っていた。高等教育を終えた少年は日本へ留学した。
 翌日、少年は中国人のアパートを訪ねた。503号室だった。
「僕を働かせてください」
「君、まだ仕事がないの?」
「ええ」
「わかったわ」
 その日、少年は中国料理店で皿洗いをした。次の日には料理を教わった。少年は日本語学校の入学式の日まで一生懸命バイトし、学校に通ってからも夜にそこで働くことになった。
「ねえ、今夜君の家に行ってもいい?」
「もちろんです」
 自分より少し年上の中国人の女性は化粧をいつもよりして少年のいる504号室まで来た。
「お酒は好きですか?」
「ええ」
「これ、買ってきたんです。ビールっていうみたいです」
「あなたビール飲める年齢だっけ?」
「少しくらい年齢をごまかしても大丈夫ですよ」
「そうね」
 二人はビールを飲んだ。テレビで野球中継を見た。読売ジャイアンツと中日ドラゴンズが試合をしていた。
 ビールの酔いが体に回ってくる。少年は買った布団に横になる。
「僕は最近、日本語の小説を買ったんです」
「どれ?」
 彼女は少年の手元をじっと眺める。
「日本語って凄く美しいと思いません」
「そうね」
 彼女はぼんやりと天井を見上げる。
「ラーメンでも作る?」
「いいですね」と少年は言った。
 彼女はアパートに戻り、麺と鍋に入ったスープを持ってきた。
 手慣れた手つきで麺をゆでる。
「おいしそうですね」
 少年は言った。
「ラーメンは中国発祥だからね」
「中国料理ですね」
「ええ」
 彼女はとびっきりおいしいラーメンを作った。
「そこらの日本人じゃ真似できない味でしょ?」
「ええ。凄くおいしいです」
 ビールを飲み干し、ラーメンを食べ終えると、二人で公園へ出かけた。
「私の家は料理屋だった。村では有名な料理を作っていた。私は日本のアニメが好きで、ここへやってきた」
「アニメを作らなかったんですか?」
「アニメは見るほうが、料理は作るほうが好きなの」
「あなたのラーメンは凄く上手かったです」
「ありがとう」
 中国人の彼女と少年は芝生の上に寝転がった。
「東京から見る空も悪くないわね。故郷の家族を思い出すわ」
「僕もこの前にここに来た時思い出したんです。思わず泣いてしまいました」
「あなたは将来どうするの?」
「日本の大学でプログラミングを学ぶんです」
「いいわね。頑張って」
「僕たちここでずっと生きていくんですかね?」
「私はそのつもりよ」
「なんだか寂しいな」
「あなたにもそのくらいの覚悟があったんでしょ?」
「ええ」
 少年には辺りの草木や風の匂いが故郷を思い出させた。
 






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このストーリーに関するコメント

19/01/02 雪野 降太

拝読しました。
『僕たちここでずっと生きていくんですかね?』というところで、ああそうだったんだ、と驚きました。
読ませてくださってありがとうございました。

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