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つつい つつさん

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余計な気遣い

18/12/22 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:1件 つつい つつ 閲覧数:134

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 アルバイトから帰ると、部屋の中に六、七歳くらいの男の子がいた。俺は部屋を間違えたかなと思って部屋の入り口を確かめるとちゃんと504号室だった。
「あの、どっから来たんだ? ここ俺の部屋なんだけど」
 男の子はこくりとうなづくと答えた。
「ああ、ごめんなさい。居心地良さそうだったので、少しおじゃましてます」
 見かけの割にしっかりとして大人びた態度だった。だけど、髪の毛はおかっぱで、立縞の藍色の着物を来た、なにか昔の時代の子供みたいだった。
「迷子だったら警察でも呼ぶぞ」
 俺が尋ねると首を振った。
「いえ、いいんです。自分の意志で出てきたんで」
 俺は家出してきたのか、ややこしいことになったなって思わず顔をしかめた。
「心配ご無用です。迷子というよりボイコット、まあ、出社拒否ってやつです」
 俺の頭はますます混乱した。どうしたらいいのか悩んでいると男の子は詳しく事情を説明してくれた。
 男の子が言うには自分は座敷わらしで東北のとある民家に住んでいたんだけど、最近座敷わらしとしての自分に疑問を感じて民家を飛び出してきたとのことだった。そして、自分はご飯も食べないしお風呂も入らないし特に迷惑はかけないので少しの間ここにいさせてもらいたいとお願いされた。断っても良かったけど、俺もこのアパートに越してきて六年ずっとひとりで退屈だったからしばらく一緒に住むことにした。
 一緒に住みだしてしばらくは行儀良く部屋の隅に座っていたけど、一週間も経つと慣れたのか足をくずし始め、十日経つ頃には、寝っ転がってテレビを見ていた。いくらなんでもくつろぎ過ぎだって注意しても良かったんだけど、俺は昼間アルバイトの休憩時間に知ったある情報が気になっていて、それどころじゃなかった。
「そう言えば座敷わらし君、君の住む家って繁栄っていうかお金持ちになるんだって?」
 俺が心臓をドキドキさせながら聞くと、寝そべっていた座敷わらしは起き上がり正座をした。
「実はそうなんです。そして、それが僕の悩みなんです」
 俺はよくわからず「えっ?」と尋ねた。
「ただ僕が気に入って住んだだけで、その家の人がなんの努力もしていないのに繁栄するのって、それでいいのかなって悩んでるんです。だから、家出してきたんです」
「え、ああ。まあ、それはそうだよね。だけど、君が今ここに住んでるってことは、つまり、俺も金持ちになるってことかな?」
 俺は期待に胸を膨らませながら聞いた。毎月月末になるとカップラーメンも買えないこの貧乏生活ともいよいよおさらばかと思うと、熱いものがこみあげてきて、泣きそうになった。
「いえ、今はプライベートなので、安心して下さい。あなたの生活は一切変わりません」
 今日昼からずっとそわそわしてたけど、それを聞いて一気に体の力が抜けた。怒りがこみ上げるかと思ったけど、世の中やっぱりそんなうまい話はないんだなと、がっくりしてその場にへたりこんだ。そんな俺を見ていた座敷わらし君はなにもなかったようにまた寝ころんでテレビを見始めた。
 それからの座敷わらしは、ますますだらけていった。いつのまにか和服を着なくなって、どこから用意したのかTシャツにハーフパンツな今時の子供の格好になっていた。完全に座敷わらしに戻る気はなさそうだった。
 月末になると案の定お金がなくなった。給料日まであと二日もあるというのに、三五円しか財布に入っていなかった。いつもならカップラーメンが二つくらい買える金額は残っているのに、今月はさらに苦しかった。
「なんか電気代増えたな。誰かがテレビばっかり見てるからな」
 むしゃくしゃして俺は座敷わらしに八つ当たりした。
「そんなはずないですよ。僕が見てる分は電気代なんてかからないないようになってますから」と、座敷わらしは不機嫌そうに答えた。
「それでも前よりかかるようになったんだよ」
 俺のイライラは治まらなかった。
「そうですか」と言うと、座敷わらしはテレビを消した。
「あーあ、自分探しなんて、贅沢な身分だな」
 俺が吐き捨てるようにつぶやくと、「それって、大切なことじゃないんですか?」と、座敷わらしは真剣な目で聞いてきた。
「アイデンティティがあるだけで幸せなことだぞ。俺を見てみろよ。そんなもんないから、こんな生活だよ」
 座敷わらしはそんな俺を見て、うんうんと深くうなづいた。俺は、全く否定されず、あっさり肯定されたことに軽くめまいを覚えた。
 それからしばらくすると座敷わらしは「お世話になりました」と律儀に挨拶すると帰っていった。しばらく泊めてやったことへのお礼か、座敷わらしがいなくなった後、部屋の掃除をするとなぜか百円玉が見つかるようになった。俺は、そんな気遣いしなくていいのにと思いながらも毎月月末になると掃除をして、なんとか生きている。


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このストーリーに関するコメント

19/01/02 雪野 降太

拝読しました。
『僕が気に入って住んだだけで、その家の人がなんの努力もしていないのに繁栄するのって、それでいいのかなって』と悩む座敷童子。だから『居心地良さそうだった』主人公の部屋に『プライベート』で居座ることに。結果、主人公に『アイデンティティがあるだけで幸せなことだ』と説教されて、出て行くことに。
『自分探し』と称しても、何の挑戦もせず、時流に身をまかせ、結局は「人を富ませることが己のアイデンティティである」という以上のものは手に入らない。何だか、哀しいお話でした。
読ませていただいてありがとうございました。

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