村沢走さん

村沢走と申します。現在、月に一度のペースで執筆中。

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将来の夢 恐竜になる事
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約束

18/12/21 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:2件 村沢走 閲覧数:110

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「大人になったら504号室に住むんだ」と言っていた。
 其処に憧れていた君香ちゃんが住んでいたからだ。
 十二年経って僕は其の事を忘れてしまっていた。
 久々に帰郷すると其処に未だマンションは存在していて、其れで興味本位で足繁く通った。
 表札には僕の名字が掲げられており、ひょっとして何かの偶然かな、と思った。チャイムを押してみると中からは女性の声が聞こえて来る。其れでいて、僕は急いで身支度を整えた。
 緊張の一瞬。辺りは静寂に包まれている。
 果たして――現れたのは年端も行かない餓鬼だった。
 眩暈を覚え、次いで其れが真美だと知る。
 彼女が「と、徹君?」と、表札を隠したからだ。
 真美は餓鬼の頃からの親友で、僕に取っては此の街との接点だった。
「大きくなったら、御嫁さんにしてね」と、御願いされた事が有る。
「云。良いよ」と述べた僕は、真美に「504号室を買おう」と告げてしまっていた。
 まあ、餓鬼といっても、僕もなんだけど……。と。僕は、視線を逸らす。
「上がって。上がって」と忌憚なく述べた彼女は何処か大人びていて、昔の面影は無い。
 僕は、「今でも此の街に住んでたんだな」と、当て所もない事を述べ、真美は「云。約束の地だからね」と流麗だ。
 常若の国は疾うにスリッパを履き、僕の分も用意してくれる。
「さ。遠慮なく」と言った月虹は、成長するに連れ、小さくなって行く生物がいる事を思い出させてくれる。「私。御嫁さんになるって言ったよね」と 詳述する彼女は、何処か胡乱で物寂しげだ。
 僕は言った。「其んな事、昔だし覚えてないよ」。嘘だった。
 本当はバレンタインをもらったのも真美からだったし、指切りしたので良く覚えていた。
 確かに其れは嬉しい事だった。
 真美は言った。「正直、引いたでしょ。男の人と住んでないと、危ないからって、両親が」と言って、僕に詳述を繰り返す。
 表札の件はとんと知れなかったが、此処に来て漸く意味が分かった。僕は言った。「何も僕の名前じゃなくても……そうだな、桂木さんとか、如何?」「そうだよね。何も実在する人を採用しなくても良かったんだよね。嗚。矢っ張り迷惑だった?」。二度程頷いて、僕は彼女へと告げた。
 正直、綺麗になっていて、吃驚したよ。後、約束の件だけど、忘れて良いからな。あれは餓鬼の頃の約束だ。君程綺麗になったら、周りも放って置かないだろ? 烈火の如く怒って告げた。「何言ってるのっ!? 徹君っ!! 徹君はもう、忘れてしまったのっ!? あの約束をっ!!」。と、結んで。
 真美は遠慮なく、此方へとしな垂れ掛かって来た。胸の辺りを指で掻き、其れでいて、何処か退屈そうであった。「私……。私ね……。ずっと。ずっと約束覚えてたんだよ……?」。其の声に抑揚は無くって、其れで逆にドギマギする。情けない。僕は、両手で掴むと、彼女の方へと告げた。「僕は今は彼女が居るんだ。だから、君と此処で暮らす事は、出来ない」。嘘だった。咄嗟に出た出鱈目に、又も激昂する真美。其の瞳には心火の炎が燃えており、其れでいて僕は安心した。
 君香ちゃんへの想いは疾っくに過去の物になっていて、其れで此処で遣って行くと決めた。「引っ越ししようか」と、告げると、「云。良いわね。私、毎日料理して上げるよ」と、返す。僕は、浮かれて「へえ。得意なんだ。料理」。と真美を誉める。「云。へへへ」と結んで、真美は早速御玉を取った。カバーオールにティペットという奇妙な出で立ちであったが、理由は直ぐに理解出来た。
 此の504号室では、冷房が利いており、其れで人目も憚らず、奇天烈な格好をしていた。真美は言った。
「実はねえ。君香ちゃんの事、知ってたんだ。でも、取ったの。本日、やっと願いが叶いました」。際限なく出て来る料理に浮かれた彼女の気持ちを知ると、僕は満更でもなくなって、其れで結んだ。「なあ。あの約束、他の男じゃ駄目なのか?」「云。此処が良い。だってずっと夢だったから」。真美は最後の料理を振る舞うと、御玉を取った儘、告げた。
「徹君。先刻ちょっと嘘吐いたでしょ? でも此処からが、スタートです」。表札は映えていて、其れでいて僕は一気に料理を掻っ込んだ。或る夏の日の午後。日曜日の事だった。


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このストーリーに関するコメント

19/01/02 雪野 降太

拝読しました。
懐かしさからマンションに足繁く通い、呼び鈴まで鳴らす主人公の行動力に驚かされました。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/02 村沢走

 すみもてわたる様、毎度毎度有り難う御座います。自分も此の主人公位行動力が有ったらなあ、という今日此の頃で御座います。又、宜しく御願いします。

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