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文月めぐさん

第144回時空モノガタリ文学賞【事件】にて、入賞をいただきました!拙い文章ではありますがよろしくお願いします。コメントもできるだけ書いていこうと思います。Twitter→@FuDuKi_MeGu

性別 女性
将来の夢 作家
座右の銘 失敗したところでやめてしまうから失敗になる。成功するところまで続ければ、それは成功になる。

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天国へ続くカフェ――504号室の秘密

18/12/21 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:2件 文月めぐ 閲覧数:218

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 「4」という数字がつくだけで縁起が悪いと思われてしまう。そういう理由で私が店を開いているこの504号室も家賃が他の部屋と比べて安くなっている。おそらく他の階の「4」がつく部屋もそうなっているのだろう。
 五階建てのマンションの一部屋を借りて営んでいるこの「ブックカフェ・アダージョ504」はお客さんが十人も入ればそれでいっぱいになってしまう。しかし、一人で営む店だから、それが限度だ。
 チリンと玄関にぶら下げているベルが音を立てて、お客さんが来たことがわかった。今日は今村さんが来ると言っていたから、彼かもしれない。常連客であれば気が楽だ。「いらっしゃいませ」とにこやかに微笑んだ先にいたのは、見慣れない若い女性客だった。
 きょろきょろと辺りを見回しながら、テーブル席に一人で腰かけた。壁には一面、亡くなった友人が好きだった書籍がずらりと並んでいる。ここに来る者は皆本好きだ。彼女もコーヒーを飲みながら読む本を探しているのだろう。
 椅子に座った女性客に、静かに水を差しだす。彼女は「カフェオレとベイクドチーズケーキをお願いします」と思ったよりも低い声で告げた。なんだか、変わった雰囲気のお客さんだ。どこが変わっているのかと聞かれれば返答に困るが、独特のオーラを放っている気がする。それは、どことなく人を寄せ付けないオーラだと感じた。
 注文されたカフェオレはボタニカル柄のマグカップに、ベイクドチーズケーキは四角い皿に入れてキャラメルソースをかける。トレイにそれらを乗せて、再び彼女の元へ向かう。
「見えていないんですね」
 あまりにも唐突なその言葉は一瞬、自分に向けて放たれたものだとはわからなかった。しかし、この空間には私と目の前の女性客しかいない。どうやら彼女が、私に話しかけたらしい。
 しかし、文脈が全く見えてこない。私は「失礼ですが」と彼女に疑問を投げかけようとした。それよりも一瞬早く口を開いたのは女性客だった。
「三村智也さんとおっしゃるんですね、亡くなった方。お友達だったようですね」
 女性客は相変わらずの無表情。しかし、私は雷に打たれたような衝撃があった。
 三村智也は、確かに私の友人だった。このブックカフェを一緒に開こうと二人であれこれと話し合った。しかし、開店を数日後に控えたある日、事故に遭って亡くなってしまったのだ。
「三村智也さん、いますよ。たぶんずっといたんだと思います。カウンター席に座っていますよ」
 いや、こんな怪しい人の言葉を簡単に信じてたまるか。しかし、嘘ならなぜ、彼女は三村のことを知っているのだろうか。
「4がつく部屋って昔から嫌われてますよね。病院でも4と9の部屋はないこともあります。それって語呂合わせってわけではなくて、本当にとってとどまりやすい場所になってしまうんですよ」
 はあ、と私は気の抜けた返事しかできない。
「この部屋にも三村さんの霊がいます。だけど、霊って人間が考えるより怖いものじゃないんです。霊に助けられることもいっぱいあります。きっと三村さんの霊魂はあなたを助けてくれますよ」
にわかには信じられない話を、彼女は淡々と語る。私はどうしていいのか分からず、その場に立ち尽くしていた。
「このマンション、五階までですよね。最上階って霊にとって、天国に一番近い住みやすい場所なんですよ」
 そこまで言うと、彼女は、もう言うことはすべて言い切った、と言わんばかりにコーヒーカップを持ち上げた。
 戸惑いを隠すことができない私が「あの……」と再び口を開いた時、「三村さんは」女性客に遮られた。
「三村さんはカフェオレがお好きだったようですね」
 その言葉に私は黙ってうなずいた。確かに三村が好きだったのはブラックコーヒーよりも甘いカフェオレだった。
「淹れてあげてください、彼にも。カウンターに準備してあげるときっと喜びます」
 三村にコーヒーを淹れてあげることができる。私はそのことがなんだか嬉しくて、素直に「はい」と返事をした。
 私がコーヒーを準備し終えると、いつの間にか女性客はいなくなっていた。お代はテーブルの上に律儀に置いてあった。
 彼女はいったい何だったんだろう。私は狐につままれたような気分になった。しかし、彼女の言ったように、カウンターにコーヒーカップを置いてみた。三村にコーヒーを飲んでもらえたら、それは嬉しいことだ。
 私が女性客の使った食器を片付けていると、カウンター席の方から、かちゃりと食器が触れ合う音がかすかに聞こえた。


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このストーリーに関するコメント

18/12/27 霜月秋旻

文月めぐ様、拝読しました。
霊が登場するお話ですが、温かいお話でした。
それにしても、常連客の今村さんの登場を待っていたのは私だけでしょうか(笑)

19/01/02 雪野 降太

拝読しました。
コンテストテーマを活かされた内容で面白かったです。カフェの立地的にはなかなか立ち寄りづらい場所かと感じましたが、『見慣れない若い女性客』がどういった経緯でこのお店に辿り着いたのか気になるところですね。
読ませていただいてありがとうございました。

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