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naokitiさん

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兄ちゃんとぼく

18/12/20 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:1件 naokiti 閲覧数:175

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「はあ、お腹がすいた。それに痛い、寒い」
 ツツジの植え込みの下で、ぼくはうずくまっていた。昨日から何も食べていない。その上左の前足から血が出ている。
「おい、何やってんだ。だいじょうぶか」
 いつの間にか、傷ついた足をなめてくれている。頭を上げず目だけを動かすと、茶色に黒い格子模様の体が目に入った。
「兄ちゃん、もうぼくはダメだ。今までありがとう」
「バカなことを言うな」
 赤ちゃんの時から、ぼくはひ弱なネコだった。ひとり立ちして、一匹でくらすようになってからも、兄ちゃんとよく出会った。ぼくはたいていお腹をすかせていて、兄ちゃんが食べ物のある場所へつれて行ってくれた。
(今度こそダメかも)
 ゆだんしていた。カラスにおそわれてしまったのだ。足だけでなく、体中が痛い。
(死ぬ前に、あたたかいところで、お腹いっぱいになって、ぐっすりねむってみたかったなあ)
 世の中には飼いネコというネコがいるそうだ。人間の手で狭い場所に入れられ、食べ物はもらえるが自由はうばわれる。
「だからぜったいに、人間につかまってはだめなんだぞ」
 兄ちゃんにそう言われていた。
「おばちゃん、ネコがいる」
 すぐそばで声がした。人間の女の子の声だ。まずい。そう思ったけれど、もう目をあける気力もない。
「まあまあ」
 今度は大人の女の人のような声がした。ぼくは引きずられるように、明るい場所へ出されるのを感じた。
「にゃおー!」
 兄ちゃんの声だ。ぼくを助けようとしている。力をふりしぼって薄目をあけると、兄ちゃんが飛びかからんばかりに毛を逆立てている。ぼくは女の人の腕にかかえられているらしい。その人はそろそろと兄ちゃんに近づいていく。
「兄ちゃんにげて。ぼくはもう死ぬから」
 ぼくは必死に言った。兄ちゃんはとても悲しそうな顔をして、ゆっくりと後ずさりしていった。ぼくは気を失った。

 なぜか体があたたかい。ここが天国なんだろうか。いいにおいがする。目を開け、ぼくは体を起こした。ふわっとした桃色の布の上にいた。立とうとすると足がいたい。左足に白いものが巻かれている。
「あら、起きたのね。もうだいじょうぶよ」
 上から声がした。どこかで聞いた声。ふしぎに安心する声だ。目の前のいいにおいのする皿に、おそるおそる近づいた。
 ぼくは飼いネコになった。十分な食べ物をもらえる。好きなだけねむっていられる。ゆめのようなくらしだ。
 ときどき窓の近くにある棚の上に登って、外の景色をながめる。ずいぶん高いところにある部屋で、地面がとても小さく見える。かつて歩き回っていた場所は遠くなってしまったけれど、ぼくは満足だった。
 ぼくはひるねが好きだ。そしてときどき夢をみる。この504号室という部屋の中で、ぼくは兄ちゃんとじゃれあっている。兄ちゃんは相変わらずすばしっこくて、ぼくが足を出すと、すっと逃げてしまう。目が覚めると兄ちゃんはいない。
「兄ちゃん」
 幸せなのに、夢からさめた時だけは、さみしくてじっとしている。


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このストーリーに関するコメント

18/12/23 雪野 降太

拝読しました。
ひ弱であるがゆえに『兄ちゃん』に助けられ、ひとたび傷を負えば、『人間の女の子』や『大人の女の人』に助けられることでしか生きていくことができない主人公『ぼく』の無力さを強く感じました。『ひとり立ち』したとはいえ、無自覚の幼さのなかに身をおく彼がいつか本当の意味で自立するときがくるのかもしれません。
読ませていただいてありがとうございました。

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