マサフトさん

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18/12/20 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:1件 マサフト 閲覧数:103

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薄暗い牢獄のような部屋。打ちっ放しのコンクリートの壁や床は冷たく、独特の黴のような臭いを放っている。明かり取りの小窓には鉄格子が嵌められ、冷たい緑色をした月を縦にスライスしている。小窓の反対側の壁面には鉄格子でできた扉があり、当然のごとく鍵が掛けられていた。扉と天井の間には大きく威圧的に

『504 Gateway Timeout 』

と書かれた看板が取り付けられていた。扉の奥は暗くてよく見えない。

この狭い部屋には何人かの人がいる。床に横たわっている若い男が1人、小さく声を上げながら体を起こした。彼の名はロッレ。短く刈り上げた黒髪と、深く黒い瞳の精悍な顔立ちは誠実で正義感の強さを連想させる。カーキ色の軍服のような服を着ているが、装備品等は所持していない。

「ここは…」

彼は独り言めいてつぶやき状況を判断をしようとしたが、思いがけず答えが返ってきた。

「504号室。時間切れの部屋だの」

声の主の方を振り向くと、部屋の角にうずくまる様に膝を抱えて座る老人が居た。薄汚れた赤いニットを被り、ケーブルの様な白い髭が無造作に伸びており、茶色のブランケットで体を包んでいる。彼はロッレの方を見ておらず、瞳は白濁して焦点が合っていない。まるで仙人か何かの様である。

「私はロッレと言います。すみません、ここは何処なのでしょう。私はいつどうやってここに?」

「まず名乗るとは礼儀正しい青年だことの。私はアナイと言う者だの」

老人は今にも死にそうなかすれた声で応えた。

「見なさい。今日は末路が見られるぞの」

ロッレの質問には答えず、アナイは骨の様な指で部屋の対面の老人を指差した。うずくまって死んだ様に眠っている…いや、実際事切れている。ロッレは黙って従い、その老人は眺めた。
すると、扉の奥の方から不快な電車のブレーキ音が闇をつんざいた。扉がひとりでに解錠され、ひとりでに開くと、電子的に青白く発光する人の形が入ってきた。彼は事切れた老人を運び出し、電車に乗せて何処かへ消えた。鉄格子扉は絶望的な施錠音をあげて再び固く閉ざされ、電車はけたたましく走り出し闇に消えた。

「今のは…何なんです?一体ここは…」

ロッレは困惑をあらわにしアナイに尋ねた。

「ここはの、道の途中で棄てられたものの溜まり場ぞの。門にたどり着けなかったものの末路ぞの。404号室なら自分のせいかもしれんが、この504号室はあまり落ち度がなくても連れて来られることがあるぞの」

意味がわからない。道?門?仙人の世界の話か?ロッレは更に困惑した。

「さっきの光る人間は?それとあの老人はどうなったのですか?」

「あの男は410号室に連れてかれたぞの。通称『Gone』。要は死体安置所ぞの。光るやつらはブルースクリーンと呼ばれておるぞの」

ロッレは絶望した。あの老人の様に衰弱死を迎えるまでここに閉じ込められなければいけないのだろうか。そして目の前のアナイも恐らく長くはない。合って間もない人物だが、そう考えると途端に心細くなった。
ロッレの不安を察知したのか、アナイは焦点の合っていない目をロッレに向け、話しかけた。

「お前さんのその感じ、どうやら全く意図せず連れて来られた様だの。ここにいる連中はここに来ることを半ば解っていて、諦めた様に連れて来られるが、お前さんはどうも様子が違う。お前さん、軍人じゃの?」

「え、ええ。そういえばそうです」

言われるまで忘れていたが、軍人だった気がする。なにか大きな戦闘の途中で気絶して、気が付いたらここにいた様な気もする。

「ふむ。ここ最近電子戦争とやらでドンパチ賑やかになってきてる様だからの。お前さんが何かしらの大きな電子的ダメージを負ってプロトコルがErrorを起こしたのだの。心配しなさんな、ちゃんと帰しちゃるぞの」

そう言ってアナイは懐からピンク色のチケットを取り出した。チケットには『101』と印字されている。

「これをブルースクリーンに見せて、200号室に連れて行ってもらえの。そこにある門をくぐれば無事に元の空間に帰れるぞの。ただし戦場に逆戻りするかもしれんがの。そこは運じゃの」

「ありがたいが、あなたはどうなるのです?」

「わたしは元からここの住人じゃぞの。ここが棲家じゃぞの。気にしなさんな。」

ロッレはチケットを受け取り、いつの間にか扉を開けて待っていた電子人間にチケットを渡した。ブレーキ音を響かせながら滑り込んできた電車に乗り、ロッレはアナイを振り向き深くお辞儀した。仙人は明後日の方向を見ながら手を振っていた。

「ここは世界の網の底の底。だけどまだまだ底は深いぞな」

アナイは闇に消え行く電車に向かって警告めいて呟いた。


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このストーリーに関するコメント

18/12/23 イト=サム・キニー

拝読しました。
闇から現れ、闇に去る――誰かを連れ去るなら『電車』であるに違いないという作者様の美学を感じました。
読ませていただいてありがとうございました。

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