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鮎風 遊さん

訪問していただき、ありがとうございます。 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。 このためひとり脳内で反応を起こし、投稿させてもらってます。 されど作品は次のシリーズものに偏ってしまってます。。。 ツイスミ不動産。。。 刑事 : 百目鬼 学(どうめき がく)。。。 未確認生物。。。 ここからの脱出、時には単品ものも投稿したいと思っております。気が向いた時にでも読んでいただければ嬉しいです。    

性別 男性
将来の夢 この世で最も面白い物語を見つけ出したい。
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ツイスミ不動産 物件5: 504号室アパート

18/12/19 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:2件 鮎風 遊 閲覧数:117

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 外が暗い。なぜと自称イケメン・紺王子宙太(こんおうじちゅうた)が窓越しに目を懲らすと、牡丹雪がボタンボタンと道路に落下してるではないか。「氷河期到来か」と大袈裟に吐き、視線を室内へと戻す。それからおもむろに「そうだ、今夜は鍋にしよう、だけど準備に時間が掛かるん…、ですよね」と語尾強調の独り言を。
 客足が途絶えた営業所、否が応にも上司の耳に入る。
「クワガタ、何が言いたいのよ?」とルージュ濃いめの口を尖らせた。だが紺王子にとっては思う壺、さらりと提案する。
「笠鳥凛子(かさとりりんこ)課長、いやカサリン様、早仕舞いしませんか?」
 シーン。
 凍り付いた静寂が…、約30秒経過し、突然女性課長のヤケに青い瞼の上の眉毛が逆八の字に。
「アータ、私の源氏名はカサリンでなく、英国王室風のキャサリンでしょ」と。
 えっ? クワガタには微妙な違和感が…。
「あのう、課長、怒りのポイントが若干ズレてませんか。普通ここは渾名ではなく、早仕舞いの方だと思いますが」と。この指摘に、寒空に突き刺さるほど鋭利な声で女鬼が吠えたのだった。
「バッ・キャロー!」

 そんな時にドアーが開き、頭から雪を被った老夫婦が入って来た。
 キャサリン様は「アーリー・クロージングは来年に持ち越しよ」とカシコぶった英語を冒頭に置いて結論し、その後一瞬で微笑む観音様に大変身。
「お探しなんでしょ、終の棲家を」と確認しながら、タオルで客の肩の雪を払ってるではないか。
 実に素早い。お見事! だがこれだけでは終わらなかった。「そこのスタッフは紺王子宙太、渾名はクワガタです、なぜならコンチュウ(紺宙)だから、オホホ…、が担当させてもらいます」とカウンターへあれよあれよと誘導。その途中で、呆然棒立ちの紺王子に蹴りを一発食らわす。
「イテッ、このオバハンの首いつか締めたろ」とクワガタは決意するが、一応若手優秀どころ、その殺意に蓋をし、痛みで歪んだ笑顔で「どんなツイスミをご希望でしょうか?」と客に問う。数多の艱難辛苦を乗り越えてきたのだろう、奥様が「パワハラに部下ハラ、だけど結構名コンビかもね」と表情を緩め、「さっ、あなた」と肘で旦那の横腹を鋭利に突っつく。この妻ハラに夫はシャキッ。そしてたった一言、「504号室を」と。
 このシニアカップルが求める終の棲家は、504号室。こんな要望初めてだ。なぜ?
 時間はまるで流しそうめんのように、時々竹の節に突っ掛かりながらもサラサラと流れて行く。ああ、504号室というそうめんが箸に絡まな〜い! 冬だというのにこんな事態に陥った不動産屋に、笑顔が消える。この様子を見て、老紳士が助け船。「若い頃に、504号室に住んでたんだよ」と。
 これですべてが読めた。「その部屋は快適だったのですね」と紺王子が確認をする。だが答えは違った。「いつも霧が掛かったような汚い部屋でした」と。
 なんで?
 首を傾げる不動産屋、これはスマンコッチャと思った爺ちゃんが丁寧に追加説明する。
「504号室は妄想が次から次へと湧き出る、そう、物語の泉なんじゃ。退職後作家として精進してきたが、最近ネタ枯れでのう。そこで最後の足掻き、妄想力場の504号室で執筆三昧の暮らしをして行きたいんじゃ」と。
 不動産屋には作家業の苦しみはわからない。だが何はともあれ顧客第一。責任者の笠鳥は「物語の泉、その504号室を探しましょ」と手打ちしたのだった。

 2週間が経過。その間に不動産屋二人は知る、文筆業界には504号室・妄想伝説があると。さらに調査を進めると、全室が504号室、そんな築30年のアパートを売りたがってる人がいると。場所は町外れの高台。風光明媚で言うことなしだ。早速ツイスミ不動産で取り扱うこととした。
 本日は老夫婦を引率しての現地確認。
「超お得物件、なんとお望みの504号室が10室もあります。全室使って頂いても善し、余った部屋を貸して頂いてもOK!」
 紺王子の紹介に力が入る。それにさりげなく笠鳥課長が「毎日妄想だらけで…、文学賞まちがいなしですわ、オホホ」とおっ被せる。
 だが夫人は「お値段次第ね」と冷たく反応。これを受けカサリンはクワガタに目配せする。紺王子は一呼吸し、高らかに宣言するのだった。
「作家様だけへの特別価格、たったの504万円で〜す!」
 されど腐っても物書き屋、「その安さの理由は?」と甘い誘いの背後にある真実をえぐり出そうとする。
 事情があることを隠せば法律違反。笠鳥は責任者として襟を正し、告げる。ただそれは小声だった。
「実は訳ありでして、ここに住まわれた作家さんは大概妄想の果てに、推理小説の実証をと、ご自身が犯人になられてしまいまして…、今は不幸にも、終の棲家、監獄504号室で暮らされてるみたいですよ」

 さてさて、みな様なら――買いますか?


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このストーリーに関するコメント

18/12/19 イト=サム・キニー

拝読しました。
かつて住んだ部屋と同じ部屋番号に住みたい、という老作家の願い。『妄想力場の504号室で執筆三昧の暮らしをして行きたい』という夢が叶うのかどうか気になるところです。
読ませていただいてありがとうございました。

19/01/20 鮎風 遊

入戸月づきし さま
読んで頂き、感謝。
またコメント、ありがとうございます。

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