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柴ケンタロウさん

2018年冬、思い立ってみました。読むのも書くのも未熟ですがよろしくお願いいたします。

性別 男性
将来の夢 穏やかで満たされた時間を分かち合うことを分かち合える人と
座右の銘 出たとこ勝負

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開かずの

18/12/18 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:2件 柴ケンタロウ 閲覧数:235

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 丸山正浩は、同期入社の仲間から「マル」という愛称で呼ばれていた。本社まで一時間半かかる郊外に建つ独身寮の五〇四号室が、彼に与えられた部屋だった。

 十二月十九日
「だから、百田部長の講義は眠くなるんだって!あの中性的な声は反則だろ?もう子守唄にしか聴こえなくてさ。それで俺も……」
 尤もらしく弁解する折田を、宍戸が笑いながら制する。
「いやお前は百田さんとか関係なく、寝てた」
 いつものように、その部屋に集まった同期達は持ち寄った酒で皆顔を赤らめている。笑い声が沸き、樋口が後に続く。
「折田は橋本さんの講義でもずうっと寝てた」
 松村が缶ビールを畳に置いて折田を指差す。
「でも鈴木さんの時だけは真剣に起きてた!」
 笑い声と入れ替わりに、溜息混じりで岡本が溢した。
「鈴木さん、去年結婚しちゃったんだよなあ…俺あんな綺麗な人を生で見たの初めてだった」
 ああわかる、と皆が頷いた時、福田が初めてこの部屋の主に言及した。
「マルは鈴木さんでも寝てた」
「そうそう!そもそもマルが研修中に起きてたことないわ!」
 部屋の灯は深夜まで煌々と点り、寮長が怒鳴り込んでくるまで笑い声が響いた。

 十二月二十日
「お前が言った通りユカちゃんに告白したよ。そしたら、『前からマルちゃんに聞いてるよ。よろしく頼まれちゃってる。だからよろしくね』って」
 畳の上に仰向けに寝っ転がっていた長嶋は、苦笑いしながら暗い天井を見上げた。
 今までも、窓から入ってくる月の微かな灯の中でマルは黙って話を聴いていることが殆どだったが、長嶋はことある毎にこの部屋に来ては気が済むまで語り、自分自身の答えを見つけていった。
「押してくれてたのは俺の背中だけじゃなかったんだな。クリスマスに間に合ったよ、ははは。」
 長嶋はゆっくり立ち上がって、ドアノブに手をかけて振り返った。
「……本当、ありがとな。おやすみ」
 込み上げてくるもののせいか、何一つ声にならなかった。

 十二月二十九日
「お前ら。年明けから中途採用の新人が入るから、もうこの部屋は使うな。」
 翌日に遅めの帰省を控えていたいつものメンバーが昼間から屯している所へ、ノックもせずにドアを開けた寮長が部屋の様子を見回しながらそう告げた。その顔は険しかったが、声はいつもの怒鳴り声ではなく穏やかだった。
「そうですか。……じゃあ、最後掃除でもしようか」
 寮長の表情と声に何かを察した様な長嶋の提案に皆、おう。そうだな。と口を揃えて頷く。それを見た寮長は少し緩んだ顔でドアを閉め、廊下に出ると足早に階段を下りていく。どこからか犬の鳴き声が響いていた。

「……こんなもんか?」
 樋口が雑巾を絞りながら皆を促した。
「これでこの部屋で集まることも無くなるのか」
 長嶋が感慨深げに部屋を見回した。
「寂しくなるな。……今日で……四十九日か」
 折田の言葉に皆静かに頷いた。

俺も寂しいよ。

「えっ?」
 一様に顔を見合わせた後に周囲を見回す。だが声の主らしき人影は見当たらない。
「……今のお前か?」
 宍戸の問いかけに岡本は首を振る。
「外からでも聴こえたんじゃないか?」
 福田が窓を開けようと手を掛ける。その手は次第に力を込めはじめ、やがてもう片手を掛けるが、窓は一ミリも動かなかった。
「どうした?」
 長嶋が寄って行って、福田に代わり窓に手を掛ける。唸り声をあげて力を込めても窓はぴくりともしない。さっきの犬がまだ吠えているのが聴こえた。
「……開かない。ついさっきまで開けて拭いてた窓だぞ。どういうことだ?」
 皆が顔を見合わせる。一人落ち着いた様子で折田が提案した。
「とりあえずバケツと雑巾を片付けに行って、窓のことは寮長に言おう」
 全員同時に頷いた。樋口がバケツを持ってドアに近づきノブに手を掛ける。しかし、ノブは飾り物のように回らなかった。
「……開かない。開かねえぞ!」
 とうとう樋口がヒステリックに叫ぶ。六人の中で最も体格のいい宍戸が痺れを切らしたように飛び出して乱暴にドアノブを掴むが、やはりノブは回らなかった。外から狂ったような犬の鳴き声が聴こえる。
「どうなってるんだ……」
 長嶋が呟いた直後、大きな爆発音と激しい衝撃、そして六人の悲鳴が周囲を満たした。

 十二月三十日
 朝のワイドショーが前日東京郊外で起こったガス爆発について報じていた。有名企業の独身寮の厨房で起こったと見られる爆発は建物の三階までほぼ全焼させ、ガラスなどの破片を周囲数百メートルまで飛散させたという。
 そして不幸中の幸いとして、居住者が帰省等でほぼ留守にしており、僅かに残っていた六人は駐車場に向いた五〇四号室の窓から無傷で救出されたこと、管理人夫婦は突然部屋を飛び出した飼い犬を追い掛けて難を逃れていたことも併せて報じた。


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このストーリーに関するコメント

18/12/19 雪野 降太

拝読しました。
かつていた同僚の部屋で酒盛りをする――お別れのきっかけを掴めないでいた仲間達の姿が印象的でした。
どうして窓とドアが開かなかったのか気になりました。
読ませていただいてありがとうございました。

18/12/20 柴ケンタロウ

すみもてわたるさん
コメントありがとうございます。感想を頂けてとても嬉しいです。
窓とドアが開かなかったのは…
マルが仲間達との別れを惜しんだのか、事故から守りたかったのか。両方か。
それともただの…
私もしばらく考えてみます。

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