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与井杏汰さん

突然思い立って短編小説を書いてみたくなりました。このサイトを知って、うれしく思います。

性別 男性
将来の夢 そこそこの健康と、そこそこの自由。
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ある部屋のつぶやき

18/12/16 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:2件 与井杏汰 閲覧数:203

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2月20日
 今日、久しぶりに人が入ってきた。物件を探している若い男性のようだ。私の中を隅々まで眺め、壁のわずかのシミを同行した不動産業者に指摘して、それでも「良い部屋ですね。窓からの景色もいい」と感想を言って帰っていった。

3月4日
 先日の男性がまた訪ねてきた。どうやら私が気になったようだ。
水道と電気、ガス開通の手続きを不動産業者に確認していた。もしかすると、久々の居住人になるかもしれない。

3月18日
 いよいろ私の中に新しい宿主が入る。電力会社の契約が済み、電気が開通した。新しい生活が楽しみだ。

3月22日
 引っ越し業者が荷物を搬入しに来た。宿主となる男性は、置き場所を細かく指示していた。私の目の届きやすいところでは、大型テレビやソファ、戸棚などが置かれ、がらりと部屋の様相が変わった。

3月29日
 今日から宿主は本格的に生活し始めた。久々に夜遅くまでテレビや音楽が聞こえ、私も眠れない時間が長くなった。

4月8日
 宿主が酔って帰宅した。驚いたことに、若い女性を連れている。ソファに座ると、何事か小声でささやき、女性が「キャっ」と声を上げた。顔は喜んでいるようだ。その後、私の目の届きにくい部屋から激しい息づかいが聞こえ、私も眠れない夜となった。

4月29日
 宿主がオシャレして出かけた。前の晩の電話では、例の女性とどこかへ行くらしい。当分この家を空けると言っていた。少し寂しくなる。

5月5日
 疲れた顔で宿主が帰ってきた。手にはたくさんのお土産だ。テレビを付けると、ソファで動かなくなり、そのまま寝てしまった。

6月18日
 長雨で宿主は家にいる時間が長くなった。スマホで彼女とやり取りしているらしく、時々夢中に何か打ち込んでいた。そうかと思うと電話し始めて、聞こえてくる話では、やがてこの家に彼女も住むらしい。

7月27日
 いよいよ例の女性が住み始めた。さらに部屋は賑やかになった。以前より台所の使用頻度が上がり、やっと本来の家らしくなった。

10月19日
 宿主が遅く帰ってきた。突然彼女が怒り始めた。そのまま喧嘩になったが、宿主が頭を何度も下げて、そのまま2人で奥の部屋で寝てしまった。

12月24日
 クリスマスらしい飾りつけと、彼女の美味しそうな料理が並んだ。私も幸せな気分になれた。よい宿主に恵まれたようだ。今日の写真は大事に取っておこう。

12月31日
 年末恒例の歌番組が流れる中、年越しそば食べよう、と彼女が言った。私も今年1年を振り返りながら、来年の幸せを願うことにする。

1月1日
 宿主たちは初詣に向かった。窓から見える景色は良く晴れている。良い正月だ。

2月3日
 今日は節分だ。2人がキャッキャと豆を撒いていた。私の壁にも何個かぶつかった。その後、豆を掃除しようと彼女が部屋を隅々まで調べていた。ドキッとした。私と目がった。「何これ?」彼女が私を指さして宿主を呼んだ。彼は私を覗き込むと、人差し指を立てて、私の目をテープで塞いだ。

2月4日
 ピンポーンとドアベルが鳴り、誰かが入ってきた。しばらく小声の会話が聞こえ、しばらくすると、突然視界が開けた。「これですね」来客が言うと、ガサゴソと音がして、私の視界は真っ暗になった。それ以降音も聞こえなくなった。

2月5日
 このアカウントが凍結される前に、私の信愛なる宿主の記念写真をUPする。私は504号室だ。部屋がアカウントを作って何が悪い。私の目と耳を奪わないでくれ。静かに生きている部屋なんだ。

コメント欄:
何これきもい
マジ通報しますた
この部屋の子かわいそー
っていうか、何で今まで放置?
久々にやばいのみた
504号室ってだけで特定できるかな?
窓の外の写真で推定できなくね?
4月8日のくだりとか、最悪。
このアカウント中の人、はやく捕まれ。
いくら部屋だと名乗っても、今の技術ではAIがここまで書けませんから。
そんなに部屋になりたいなら、刑務所の中でも日記書いてろ。
簡単に動画音声が伝送できる時代って怖いね。



2月6日
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このストーリーに関するコメント

18/12/19 雪野 降太

拝読しました。
部屋そのものがSNSで住人の生活を実況するかのような設定が新鮮に感じられました。
読ませていただいてありがとうございました。

18/12/26 与井杏汰

すみもてわたる様
ご感想をいただきありがとうございます。
少しでも楽しんでいただけたら幸いです。
今後ともよろしくお願いいたします。

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