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黒猫千鶴さん

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内面を愛するマンション

18/12/15 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:1件 黒猫千鶴 閲覧数:849

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 初めて彼氏が出来た。三十路を過ぎるまで色恋沙汰には興味がなかった。いや、なかった訳じゃない。ただ、怖くて遠ざけていただけ。
 私には五つ年下の妹がいる。彼女は私とは比べものにならないくらい可愛く、清楚で可憐だった。瞳もビー玉のようにキラキラと輝いている。同じ人から生まれたとは思えないくらい違う私達は、同級生や先輩からも陰口を叩かれた。
「妹の方が美人だよなー」
 知ってる。
「本当に姉妹かー?」
 そう疑ったのはあなた達だけじゃない。私も……そして、両親も。初めは同じイモムシで、蛹だったはずなのに、いざ羽化してみたら――一方は蝶で、もう一方は蛾だった。
 そんな私にも彼氏が出来た。
 いつも幸せなことが起きるのは、妹の方。私がテストで一〇〇点とっても、コンテストで賞を取っても、両親は褒めてくれなかった。でも、妹は何もしてないのに喜ばれる、何もしてないのに疎まれる私とは大違い。
「どうかしたの?」
 私の隣を歩く彼が、心配そうな表情で覗き込んでくる。あまりの近さにドキッ、と胸が高鳴る。異性と手を繋ぐのも、こんなに近くにいるのも初めて。息が詰まりそう。彼だけは、私の内面を見てくれる。

 今までの男達は外見しか見てこなかったのに、この人だけは違う。

「今日、うちくるのやめる?」
「ううん、大丈夫。それに……楽しみにしてたんだよ?」
「そっか……良かった、僕もなんだ」
 私が腕に絡み付いても嫌がる様子を見せない。胸が当たってることに気付いたのか、彼は頰を赤く染めて顔を逸らした。そういうところも可愛い、と一人で考えていると、いつの間にか彼の住むマンションに着く。
 一五階建ての新築マンションを購入したらしく、愛した人と一緒に暮らすのが夢なんだとか。
「部屋は五〇四号なんだ」
 エントランスを抜け、エレベータに乗り込む。五のボタンを押し、ドアがゆっくりと閉まる。横目で確認すると、彼の手が静かに私の頰に触れて、お互いの唇が重なった。呼吸が乱れ、舌を絡め合う。
 エレベータが到着を知らせる音が鳴るまで外だと言うのに私達は、愛を確かめ合っていた。
 離れるのが惜しいのか、唇が遠ざかると透明な細い糸が、二人を繋いでいる。彼は親指で私の唇をなぞり、真っ赤な口紅がついた指の腹を舐めた。
「さあ、僕達の部屋はこっちだよ」
「他の部屋は貸してるの?」
 彼の案内に従い、ついて行く。ヒールの音が廊下に響き、不気味な程静かだ。彼の靴音が、私の全ての音を包み込むように重なる。
「家賃収入ってやつ? 微々たるものだけどね」
 鼻を動かすと、少し生臭い。どこかで魚料理をしているのか、それとも飼育しているのか。
 ふと、妹のことを思い出した。彼女は確か猫を飼っていたはず。何度言っても何処にでも爪研ぎをして、私と喧嘩してたっけ? そうそう、こんな感じに玄関のドアに――
 私は、一瞬目を疑った。妹の猫と同じ癖を持つ猫がいるのか? 猫に詳しい訳じゃないけど、全て三本の線が交互に引っ掻き傷があって、星の形に見えることを妹は自慢していた。
「うちの猫は星を描けちゃうんだから」
 その自慢話すら鬱陶しくて、聞かなくなってから何日経っただろう? 両親と連絡を取らなくなって、何年か経過した。もう見ることがないと思った引っ掻き傷も、妹の顔も、まさかこんな形で再び目にするなんて……私は思ってもいなかった。
 妹は真っ赤なペンキをブチまけた床の上に寝転び、胸には包丁が突き立てられている。着ている服や露出している肌には切り傷があって、まるで味が染みやすくなるように切り込みを入れられた魚のようだ。猫はそれを彩るアクセント。
 どうしてこんなことが、あの人のマンションで起きているの? あの人は何も知らない? なら、早く教えてあげなくちゃ――
「ダメじゃないか、君の部屋は隣だよ?」
 耳元で囁かれ、背筋が凍る感覚に襲われた。同時に、激痛が胸に走る。ジワジワと広がる鈍痛が、全身から力を抜いていく。私は背中を大きく反らして、彼の肩の上に担ぎ上げられた。反り返った胸の頂点には、銀色に光る刃が窓から入ってくる月明かりに照らされる。痛みのあまり、声が出ない。
 ゆっくりと私は、なす術なく床に転がり落ちた。目の前には赤い水溜まりと、白濁した瞳をした妹が、横たわっている。
「ああ、本当に姉妹なんだね…同じところにホクロがあるや。他にはどんなところが一緒なの?」

 僕に教えてよ――

 そう言って彼は、妹の前で私の服を脱がす。妹と同じように腹を裂かれ、痛みがが徐々に感じなくなっていく。視界にモヤがかかり、霞んでいく。
 目を開いたままの私を無視して、彼は開かれた腹部に手を入れた。

 この三〇年、誰も私を見てくれなかった。でも、ようやくこうして内面を見てくれる人が現れた。


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このストーリーに関するコメント

18/12/15 雪野 降太

拝読しました。
見目麗しい妹との比較に、鬱屈した想いを抱える主人公――幸せの一歩を踏み出したはずが、そうもいかない。その上、やはり妹の後塵を拝してすらいる。エレベータ内でのイチャつきの描写や、『僕達の部屋』から『君の部屋』への言い換え方が巧みだと感じました。
それにしても『彼』はマンション1棟丸々の所有者なのでしょうか。仮に1室1人のペースだとすると、504号室以降も続くのでしょうね。恐いですね。
読ませていただいてありがとうございました。

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