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若早称平さん

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504号室が消えた

18/12/12 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:1件 若早称平 閲覧数:192

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 そのマンションに決めたのは彼の方でした。私も彼も大の虫嫌いで、七階以上だと虫が出ないっていう都市伝説みたいな話を信じてたんですけど、結局妥協して今のマンションの五階にしたんです。
 彼は株のトレーダーをしていて、たまにジムに行く以外はほとんど家にいます。虫は出ないみたいなんですけど、まさかこんなことになるとは思ってもいませんでした。

 きっかけの手紙を見つけたのは私でした。引っ越してすぐの時によくあるじゃないですか? 前の住人宛ての手紙が間違って届くこと。だいたいは転送する必要のないようなダイレクトメールの類いだったので気にも止めなかったんです。でもある日なんとなく宛先を見てて「おや?」って思ったんです。
 私達の部屋は505号室でした。五階に四部屋ある中の角部屋です。そう、504号室が無いんです。よく病院やホテルであるじゃないですか、縁起が悪いとかで「四」のつく部屋を作らないやつ。このマンションもそういう方針なんだと思ってたんですけど、間違えて入ってた封筒をよく見ると「504」って書いてあったんです。
 たしかダイニングでビールを飲みながら見つけたんだと思います。すぐに彼に言いました。私としては日常のちょっとした不思議みたいな感じで言ったんですけど、彼はすごく真剣な顔でしばらくその宛先を見つめてました。
 時々彼はそういう悪戯をします。たいしたことのないものに真剣な表情をしたり些細なことをわざと大げさに言ったり、ドッキリみたいなことをよくする人だったのでその時も「その手には乗らないよ」と笑っていました。でも違ったんです。私が「どうしたの?」と声を掛けてもまるで無視です。かと思ったら突然玄関へ駆け出して表札の上の部屋番号のプレートを見に行きました。私が追いかけると、彼が書き換えられたプレートを手に「やっぱり」と呟いているところでした。
 今にして思えばあの時に彼はなにかに取り憑かれた、じゃなくて、捕われたんだと思います。

 その翌日から彼は部屋の番号が変わったことについて調べ始めました。私も仕事が休みだったので管理会社のところに付き合わされました。管理会社の回答はやっぱり縁起が悪いからみたいな理由でした。契約の時に会ったことのある眼鏡をかけたおじさんはその時と同じようにニコニコしていました。私達の不躾な来訪にも笑って答えてくれました。それなのに彼は不満そうな顔をしていました。
「それならどうして他の階には『4』があるんですか?」
 いつ調べたのかそう反論しました。彼が言うには「4」を飛ばして部屋番号をつけているのは五階だけだそうです。
「さすがに今住人がいる部屋の番号は変えられませんよ」
「でも304号室はこの間転居されましたよね?」
 彼のまるで刑事のような追求におじさんの顔からいつのまにか笑顔が消えていました。
「これから変える予定なんです。まだ次の入居者は決まっていないのでのんびりやらせてくださいよ」
 おじさんはムッとしながら言いました。これ以上心証を悪くするのは良くないと思い、私は頭を下げて立ち去ろうとしました。それなのに彼は「告知義務があるんですからね。なにか隠してても無駄ですよ」なんて捨て台詞を吐いたのです。私は慌てて彼に頭を下げさせて、逃げるようにその場を立ち去りました。私が小言を言うと彼はあからさまに不服そうでした。彼とはそれなりに長い交際になりますが、こんな姿を見たのは初めてでした。
「なんでそんなに拘るの? 実際になにか幽霊的なものを見たとか?」もっと早く聞くべき質問でした。私の身にはなにも起きていませんが、日中一人で家に居る彼はなにか感じていたのかもしれません。でも、彼は首を振りました。
 翌日から彼は仕事もそっちのけで郷土史やら地理やらを調べ始めました。私はもう呆れてしまって彼の気の済むようにさせようと思ったんです。
 でも一昨日ついに彼から引っ越そうという話が出ました。私は今の家を気に入ってます。職場からも近いしと反対したところ大喧嘩になりました。
 今日先生のところに伺ったのはなんとか彼を説得して欲しいからです。もう私の話なんて聞く耳を持ちません。有名な心霊研究家である先生から「この家にはなんの問題もない」と言ってくれれば彼も納得してくれるはずです。どうかよろしくお願いします。


 彼女は一通りの話し終わると深々と頭を下げた。
「わかりました。では早速お宅に伺ってもよろしいですか?」
 俺の返答に彼女は嬉しそうに顔を上げた。彼女をその場に待たせたまま俺は準備に取り掛かる。この手の依頼はもちろん初めてではなかったが、そのほとんどは依頼主の気のせいだ。今回も話だけ聞いて断ろうと思っていた。彼女に取り憑き、背後から俺を睨みつける青ざめた女の顔を見るまでは。


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このストーリーに関するコメント

18/12/12 イト=サム・キニー

拝読しました。
『まさかこんなことになるとは思ってもいませんでした』という王道のプロローグから展開された不気味なお話でした。必死になる『彼』と、言動の真意を掴みかねている語り部の対比が活かされた構成だと感じました。
ちなみに、『彼女に取り憑き、背後から俺を睨みつける青ざめた女』とありますが、作中の『彼女』は取り憑かれたことによって何か影響が出ていたのでしょうか。
読ませていただいてありがとうございました。

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