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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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奇跡の部屋

18/12/03 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:90

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 その攻撃が政府軍のものかそれともテロ集団かは定かではなかった。が、飛び交うロケット弾に建物の大半が吹き飛ばされ、その巨大な建築物のあった場所にはわずかなガレキが残るばかりでそれはちょうど人が死んで灰と骨片が残るようなものだった。
 そのガレキの上に、部屋がひとつ、のっかっていた。窓は鎧戸がおりて室内をうかがうことはできない。知らないものがみたら、ガレキの上に部屋なんか置いたのは誰だとあきれたことだろう。事実は爆撃によって建物が破壊され、なにもかもが粉砕されたなかにダルマ落としのダルマよろしくこの一部屋だけが、残されたのだった。まさにこういうのを奇跡というのだろう。
 504号室。号数はこの際問題ではない。他の粉砕された部屋が何号室だったかが問題ではないように。
 政府軍とテロ組織の戦いは依然、衰えるどころかますます熾烈な戦いに拡大していった。そのさなか人々は、この生き残った部屋の前までやってきて、熱心に祈りをささげた。激しい戦火にも壊れることのなかった部屋は、かれらにとって不死の象徴となった。祈りをささげる連中は、それぞれ異なる自分たちの信仰する神の名を唱えた。
 まちのいたるところで爆発はおこり、毎日のように死者がでた。そのなかにはいたいけない子供も少なくなかった。
 その夜、二人の子供が、崩壊した建物のあいだとあいだを、身をかくすようにしながらつきすすんできた。姉も弟も、いつどこから銃撃されるかもしれない恐怖におびえ、目はたえまなくあたりをうかがっている。昼間、かれらの住いが砲撃され、いっしょにいた両親もろともふきとばされた。家の外にいた二人は命からがらにげだし、なおもくりかえされる爆撃に追いたてられて、親の安否を確かめることもできないままにげまわっていた。
 姉は弟の砂にまみれて白くなった顔を、スカートの裾でぬぐってやった。
「お姉ちゃん、どこまでいくの」
「この世で一番安全なところよ」
「そんなとこが、ほんとにあるの」
「いまにわかるわ」
 わずかな風音ひとつにも全神経をとがらせながら姉と弟は、あるきつづけた。
「あそこよ」
 姉はおもわず弟の手をちからづよく握りしめた。月明かりに、ほのかに輪郭を浮かびあがらせて、盛り上がるガレキの上にひっそりと504号室が横たわっていた。日中は少なくない人々が祈りをあげにくるので、ともすればこの辺りが安全地帯と思われがちだが、やってくる人はいつ命を落とすかわからない危険を覚悟していることを忘れてはならない。
 二人はドアのそばまできてあゆみをとめた。
「このなかなら、どんな砲撃にあっても、だいじょうぶよ」
「ほんとう、お姉ちゃん」
「信じるのよ」
 姉はドアノブに手をかけた。じつは彼女じしん、それをまわすまではまさか開くとは思ってもいなかった。がそれは他愛もなく回転し、すんなり開いた。
 部屋には水も食料も保存されていて、ながいあいだ空腹状態に苦しめられてきたかれらは、それこそむさぼるようにそれらの食糧をたべはじめた。旺盛なかれらの食欲のまえに、たちまちにして保存食は減っていき、三日もたたないあいだについに一個のパンが残るばかりになってしまった。これまでなら、ゆずりあうようにして食べてきた二人だったが、それも食べ物がゆたかにあるときの話で、いまとなってはあと一個になったパンをまんなかにして、互いに険しいまなざしでにらみあった。
「これ、あたしが食べる」
「ぼくだ」
 二人は血眼になってパンを奪いあった。室内をからみあってころがっているうち、途中グキッという鈍い音がして、自分の下で姉が首をいびつにまげてぐったりしているのを弟はみた。
 これ幸いと弟はパンにかぶりつくと、みるまにたいらげてしまった。
 いつまでたっても姉は倒れたままだった。腕に触れるとそれは、びっくりするほどつめたくなっていた。
「お姉ちゃん」
 その直後、部屋の周辺で爆発音がおこり、銃声が鳴り響いた。突然紅蓮の炎が部屋全体を包みこみ、鉄製のドアは表面が融けてもはや内からも外からも開けることは不可能となった。しばらくして弟は、ドアが貼りついたように動かなくなっているのをしると、恐怖にかりたてられてたたきはじめた。
 そのころ外では、戦火をのがれてやってきた人々が、部屋をとりかこんでしきりにお祈りを捧げていた。
「息子よ、一心にお祈りするんだ。そしたらきっと、この部屋のように私もおまえも、生き延びることができる」
 父親からそう言われると、この部屋のなかには永遠の平和が宿っているように子供には思えた。 
 しかしあらたにおこった爆撃音のために、父親の次の声はかきけされてしまった。むろん、部屋からきこえてくるドアをたたく音など、子供の耳にはきこえるはずもなかった。


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このストーリーに関するコメント

18/12/03 すみもてわたる

拝読しました。
焼け焦げた壁面、熱に溶かされた鉄骨、瓦礫の山々……そんな中に取り残されたように佇む『504号室』の姿が映像として浮かび、非常に印象的でした。鳥の巣箱のような、どこか穏やかなイメージすらあり、戦乱の理不尽さとのギャップが際立っていました。
何となくですが……『504号室』には残された理由(政府の機密文書とか、テロに使う大量破壊兵器とか)のようなものが結局はあって、姉と弟はそれを駆使して平和を手に入れるのかしら、と勝手に想像していたので、衝撃の結末でした。
読ませていただいてありがとうございました。

18/12/04 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
姉妹の結末に関しては、およそもっとも描きたくないものでしたが、自身の好悪がはいるのもどうかとおもい、このような結果になりました。手に入る平和があれば、かれら二人にはもっとちがった生き方があったことでしょう。たえまなくくりひろげられる爆音と銃声の中、隔離された部屋に捧げられるものといえば、そこに平和があるとおもって祈りをあげる人々の、異なる神々の名前だけはないでしょうか。

18/12/08 クナリ

W・アーム・スープレックスさんらしい機知と発想の詰まった作品ですね。
とても迫力がありました。

18/12/08 W・アーム・スープレックス

ニュースでしか伝わらない世界の紛争ですが、生温い平和など到底もちこめない危機感を、すこしでも描ければと思いました。

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