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504号室王国の王子

18/11/30 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:4件 繭虫 閲覧数:249

時空モノガタリからの選評

複雑な家庭環境を描いた物語は多いものの、部屋を国に例えたこのような作品を読んだ記憶はなく新鮮で、部屋という一つの空間がほとんど全てであろう少年の感じている世界と独立心を伝える効果もあると感じました。単にかわいそうな話ではなく、恵まれているとは言えない状況でありながらユーモアをもって乗り切る主人公の少年が魅力的に思えました。

時空モノガタリK

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504号室王国。

人口は2人。

少数民族国家である。

時空ハイツ大陸の503号室王国と505号室王国の間に位置している。


503号室王国には、大陸唯一、「猫」の生息が確認されている。可愛い。
505号室王国は武力国家で、紛争が絶えない。よく、怒鳴り声や大きな物音が聞こえてくる。
その間に位置する504号室王国は、一人の女王が主権を持ち、一人の幼い王子が住まう、独立国家である。


王子が赤ん坊だった頃、革命により国王と決別し国を追われた女王が流れ着いたのが、この504号室王国であった。


貧しい国ではあるが、日当たりが良くて昼間は電気を点けなくても明るい。
洗濯物もよく乾く。洗濯は王子に与えられた公務のひとつなので、それはありがたいことだ。治安だってそう悪くはない。



しかし近頃、情勢は不安定になってきた。
504号室王国は国王の入れ替わりが激しく、王子はしょっちゅう国外追放の憂き目に遇う。
公園砂漠やオアシス都市・コンビニへの放浪の旅の末、帰国してもまた追放、放浪、追放の繰り返しであった。

国王も国王で、元・平民の分際で王子に「お父さん」と呼ばせようとする不届き者であるのも気に食わぬ。

王子が丹精込めて干した洗濯物をタバコ臭くするのも国王だし、都合の良い時だけ王子の頭を撫でようとする。国王にとって、王子は「王子」ではなく、隣国503号室の猫と同じ扱いなのだ。
王子のコップを勝手に使うし、その使ったコップも国王は洗わないので、茶しぶまみれになってしまった。
あと、日曜日に競馬中継ばかり見るんじゃない。足も、信じられぬほど臭い。



ある日、王子はいつもの通り、真夜中に国を追われ、小汚ないシルクロード廊下ともいうにて、隣国の猫を愛でていた。
すると、おもむろに隣国の505号室王国の門が開いた。
中から、この世の悪意の全てをフルーツポンチしたような人相の男が顔を出す。
505号室王国の、国王だ。

「こんな時間になにやっとるんじゃ、クソガキ。」

「……ごめんなさい。」

「……親は?」

「…………。」

黙り込む王子に、505号室の国王は面倒臭そうに溜め息を一つ吐いて、門を大きく開いた。
そして、アゴをくいっと動かす。
何故だかわからぬが入国を促しているらしい。
だが、王子にとって見知らぬ国に入るということは恐ろしかったし、ましては紛争地域の505号室王国だ。
その場に固まる王子に、505号室の国王は大きな舌打ちを一つ。
そのまま勢いよく門は閉ざされてしまった。

理由もわからぬままに、王子はなんだかシュンとしてしまった。猫もいつの間にか逃げた。
することもなく、暫く王子が足元を見つめていると、「おら。」と、頭上から機嫌の悪そうな声がした。

ふと見上げると、505号室王国の門が再び開かれていた。
国王の手には湯気の立ったマグカップが握られている。

「酒か、水か、牛乳しかねぇんだ。……牛乳、飲めるか。」

マグカップの中身は、ホットミルクだった。

国王は、王子にマグカップを押し付けると、そのままスタスタとシルクロード廊下ともいうを越え、504号室王国の門前に立ち塞がる。

そして、足を振り上げ、何度も何度も504号室王国の門を蹴り続けた。
空いた両手でインターフォンを鳴らし続け、扉を壊さんばかりに殴り続ける。

「な、なに?こわい!」
「な、なにやってるんですか、警察呼びますよ?!」

中から、女王と国王の怯えきった声が聞こえてきた。

「うるせぇ!ガキを家に入れろ!!お前らがよそにいけ!!!」



――『あぁ、こうすれば僕にも革命が起こせたのか。』

暖かい牛乳が喉を伝って、同時に何か熱いものが王子の胸に広がった気がした。




結局のところ、505号室の国王が起こした革命は成らなかった。
他の階の国民に警察を呼ばれたのだ。

その後、特に何かが変わるということもなく、王子はたまにある夜中の国外追放を受け続けている。

しかし、王子はあの件から、己の人生に革命を起こすことを夢見るようになった。
504号室という国を出て、いつかもっと遠い所に行くのだ。
今の王子にはまだ、その力がない。
己に都合の良い魔法が解けてしまう前に、色々なことに気付きはじめてしまう前に、早く大人になりたかった。
いつか、自分だけの国を持ちたいと思う。
持てるかどうか分からないけど、お妃や国民ができたならその人達を幸せにできるような国を造りたい。

胸に残る牛乳が、まだ、暖かいような気がしている。
この暖かさが、小さな部屋から生まれた野心の種を、きっと大きく育ててくれる。


そう信じ、王子は今日も、洗濯・洗い物・風呂掃除等の公務をこなし、とりあえず504号室の治安を守る。




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このストーリーに関するコメント

18/12/02 イト=サム・キニー

拝読しました。
面白かったです。児童書を一頁ずつめくるように進む巧みな話運びが、やや暗めの内容を読みやすくしてくれていると感じました。
一方で、語り部が部屋を『王国』に見立てた背景がわかりませんでした。これは、語り部と『王子』の関係性を私が掴めていないからかもしれません。初めは、『王子』が自分の境遇を物語に落とし込み、現実を俯瞰することで、不遇な現状に折り合いをつけている、ということなのかとも思ったのですが……そういうわけでもなさそうです。また、第三者(例えば猫や隣人など)が、『王子』の観察者である、ということでもない。不思議な語り部だと感じました。
読ませていただいてありがとうございました。次の作品をお待ちしております。

18/12/02 繭虫

>すみもてわたるさん

コメントありがとうございます!
ご指摘を受けて、ハッとさせられました……

小さな子供にとって家の中というのは、自由の効かない『国』のようなものなのではないか、という発想のもと書き始めた話だったので、しいていうなら『語り部=私』といったところだったかもしれません。
しかし、確かに言われてみれば、前半は『語り部』というには主人公に寄りすぎたし、後半は主人公から俯瞰しすぎたような気がします。
難しいですね……。精進して参ります!

19/01/29 待井小雨

拝読させていただきました。
部屋を「国」に見立てる発想が興味深く、面白かったです。ままならない現実に対する悲しさを感じさせつつも、悲壮感が強くなりすぎないバランスで書かれていて読みやすかったです。
隣国の王によって革命の可能性に気づけて本当に良かったです。いつか平和で幸せな国を、自らの手で作ってほしいと思いました。

19/02/15 繭虫

>待井小雨さん

コメントありがとうございます!

私も書きながら、「この子は絶対将来幸せになる。」という謎の安心感を抱いていたので、彼の将来に対し希望のある解釈を抱いてくださり幸いです!


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