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うたかたさん

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ホテルの幽霊

18/11/23 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:1件 うたかた 閲覧数:156

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「お待たせいたしました。こちらがお部屋の鍵になります」

「ありがとうございます」

 俺はフロントから鍵を受け取ると、右にあるエレベーターの前に向かった。外観は街に埋もれて古びて見えていたが、内装はいたって普通。清潔感もあって空気も悪くない。
 部屋番号を確認すると、『504号室』とあった。
 到着したエレベーターに乗り込むと、何も考えず『5』を押す。六人が乗ってしまえば窮屈になりそうなエレベーターの中に閉じ込められ、静かに五階に向かった。

「五階です」

 音声と同時にエレベーターの扉が開く。顔を上げると見える案内に従って、左に進んだ。

「ここか」

 静寂のフロアで独り言をこぼすと、受け取ったばかりの鍵を差し込む。ガチャという音とともに、扉が開いた。どういうわけか、室内の照明が既についていた。その時なぜか自分は力を加えていないはずなのに扉が勝手に動いたように感じる。そして、確かに冷えた空気が廊下に流れ出てきたのだ。
 だが、その理由はすぐに判明した。

「こんばんはー!」

 俺は絶句した。半開きの口のまま右手はドアノブに置いたまま、その場で立ち尽くした。
 そこには、宙に浮いて不思議そうに微笑んでいる少女がいたのである。白いワンピースを着て、確かに俺を見ている。この時確信した。この少女は生きている人間ではない。
 普通なら、叫んでその場から飛び出しただろうが、その少女にそのような恐怖感を抱かせる要素はない。幽霊は恐れるものという意識自体が歪んでしまって、何もできないでいた。

「やっぱり見えるんですね!」

 その少女は手を後ろに組むと、顔を近づけてきた。当然、俺は後ずさりをしたわけだが、後ろからエレベーターの到着を知らせる音が聞こえるとすぐに少女の下をくぐって室内に入った。
 すぐに振り返ると、

「君って幽霊なの?」

 と訊いていた。

「そうだよ! 君みたいに話ができる人のことずっとまってたんだよ!」

 少女は嬉しそうに話すものだから、俺はなぜか笑顔を作るしかなかった。
 冷静に見ると、幽霊というには余りにもはっきりとした存在がそこにはあって、腰のあたりまで伸びた黒髪はスラスラと彼女の動きに合わせて流れていた。しかし、明らかに地面から浮いているのである。優に一メートルは浮き上がっている。

「それで、俺はどうしたらいいの?」

「私とたくさんお話してくれるだけでいいよ!」

「お話って……」

 そういうと少女はベッドに座って右隣をトントンと叩いてみせた。

「え、触れるんだ」

「いいからはやくー」

 もどかしそうにする彼女を待たせないように、急いでそこに座ることにした。
 本当に幽霊なのかと疑ってしまうほどの美しさが彼女の横顔にはあった。

「大丈夫! 君を連れてこうなんて思ってないから!」

 それが本心なのか或いはそうでないのかは別として、彼女が俺の視線を感じたことは確かであった。
 だから俺はすぐに言葉を切り出した。

「名前は、なんていうの?」

「私は夏奈(なつな)だよ、君は?」

「俺? 来人(らいと)」

「へえー、それじゃあ来人君よろしくね!」

 夏奈はベッドに手をつくと、前から俺の顔を覗き込んできた。ふと恥ずかしくなってしまう。

「あ、うん、よろしく」

「えへへー」

 特別なことは何もしていないのに、久しぶりに自分がなにかを成し遂げたかのような錯覚に陥ったのを感じた。そこで、急いで次の話につないだ。

「いつから幽霊になったの?」

「知りたい?」

 聞くのが憚られるような質問をしてしまったように感じたが、それに対しても常に笑顔の夏奈を見て少し心が痛んだ。

「う、うん……聞きたいかな」

「おっけー! えーっとね、確か先月の――」

 こうして俺と幽霊との短すぎる夜が始まった。


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このストーリーに関するコメント

18/12/01 イト=サム・キニー

拝読しました。
訪れたホテルで幽霊少女と邂逅。主人公の視点を丁寧に追うような文章に好感が持てました。
一方で、プロローグ的であるため作品の内容そのものの感想を申し上げることができず、申し訳なく思います。段落ごとに一行あけるのは作者様の独自ルールでしょうか。
読ませていただいてありがとうございました。

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