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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。

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可能性探偵助手とずっと504号室

18/11/23 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:199

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 探偵が風邪で休みとなれば、その助手も一緒に休みになりそうなものだけど、私は念のため事務所に顔を出している。
 ただいつもは閑古鳥が鳴いてばかりの探偵事務所だというのに、こんな日に限って突然入り口の扉が開かれた。
「マジ助けてほしいんだけど!」
 現れたのは金髪の白ギャルで、正直私と真反対の人種で対応に困る。
「本日探偵であるハガナイはお休みで、ご依頼の内容だけでも私にお聞かせいただければ」
「あんたでいいからついて来てよ!」
 私は半ば強引に彼女に腕を引かれ、街中を突き進んでいった。

 依頼人の名前は七宮星香。二十一歳。キャバ嬢らしい。と言っても、それ以外彼女の話している言葉の意味がいまいちよくわからなかった。
「昨日の夜にあーくんとアフターしてさぁ、ホテル行ってからのこと全然覚えてなくてぇ、朝起きて気づいたら、耳鳴りがすごいの。んで、そのままタクシー乗って家の前着いて、鍵開けてドア開けたらまたドアなの」
「ドアを開けたらドアですか?」
 この人、もしかして酔っ払っているのだろうか。
「そう。ハハハ! ずっと504号室なの」

 それで彼女の家に着くまでの道中で考えごとをする。そのあーくんって人と一緒にホテルに行ってお酒を飲んで、記憶がなくなるまで酔い潰れて、朝起きたら耳鳴りがするほどの二日酔い。それでようやく家に辿り着いて、部屋の扉を開けたらまた扉。うーん、やっぱり理解不能だけど、なぜハガナイ探偵事務所に駆け込んできたのかはわかった。彼女の自宅からうちまで、驚くほど距離が近かったのだ。

 ーー依頼人が住むマンションの部屋の前に辿り着く。
 私は数分の移動時間にもかかわらず、あの可能性探偵の神経質推理が恋しくなっていた。彼は事件の推察を行うときに、馬鹿みたいに阿呆みたいに、普通の人なら考えないような突拍子もない案も多く出し、そこから正解を導き出そうとするのだ。

 だけど私は考える時間が短かったとはいえ、常識的な論理でしか物事を考えられなかった。小説家を目指しているというのに、飛び抜けた発想は頭のなかに浮かばず、さらに私一人の力では彼女の身に起こった“不思議”の正解を導き出すことができなかったのだ。

「ほらー! おかしくない? ドア開けたのにさぁ、またドアあるじゃん!!」
 私の眼には504号室の玄関扉を開けた時点で、純白の廊下しか見えない。廊下は途中で右に折れ曲がっていて、なかの様子を外から確認することはできなかった。
「申し訳ないのですが、私には星香さんのおっしゃっている意味が……」
「意味わかんないのはこっちだよぉー! ほら、見ててぇ?」そう言って彼女は、なにも存在しない空中に手を伸ばし、ドアレバーを傾けるジェスチャーをする。扉を開ける素振りを見せる。そして振り返り、私に怯えた子犬のような視線を向けた。「めちゃくちゃ疲れてるのにさー、これじゃあいつまでも休めないじゃん!」
 そう言って依頼人はその場にへたり込み、ワンワン泣き叫び、終いにはつき添う私の肩辺りを、結構強めに殴りつけてきたのだ。

 どうしたらいいものかーーこの人は私をからかっているのだろうか。
 
 ……程なくして、マンションの廊下で騒いでいた私たちを通報した住人がいたらしく、警察が駆けつけて事情聴取を受けて、この事件はすぐに解決する。

 彼女はどうやらあーくんって人と危ないクスリをやっていたようで、起床した際の耳鳴りは幻聴で薬物の副作用によるものだし、ずっと504号室の扉が彼女の瞳に映り続けていたのも同様の結果なのだ。
 そして真っ先に警察や病院ではなく探偵事務所なんかに訪れたのも、どれだけ精神が錯乱状態にあっても、潜在意識的に自分がやっていたことが法に触れているとわかっていたからだろう。でないと、こんなポンコツでなんの役にも立たない探偵助手を無理矢理引っ張っていくなんて、とてもとてもーー。

 次の日に体調がすっかり良くなったハガナイさんが顔を出し、私はほっと一安心。目の前の古びた木製テーブルに着く彼に、昨日の事件依頼について報告する。もちろん、正解を隠したままだ。

 すると彼は、次から次へとユニークで、現実感のない発想をポンポンと口にする。いやいやそれはないでしょーと思いながらも、そういう風に自分で自分にブレーキをかけるのって、思考の妨げになってるとも思うし、だから私は自分の力だけで正解に行き着くことができなかったのだ。正直凹む。

 ただ意気揚々と、わかったぞ!と口角を上げる彼が「開けても開けても同じ扉が続くなんて、さすがに“困る”。彼女の部屋、504号室は504(困るし〜)と読めるじゃないか!!」と叫んだときに、いやいや親父ギャグだし、だからどうしたんだよ!ってツッコミを入れながらもーーどこか少し元気になってる自分がいた。


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このストーリーに関するコメント

18/11/27 文月めぐ

拝読いたしました。
勢いのある文章で、すらすらと読める物語でした。
最後はまさかのギャグで笑ってしまいました。

18/12/03 浅月庵

文月さん
最後はまんま親父ギャグでしたが、それも彼のキャラっぽいかなと思いまして、、、笑
感想ありがとうございました!

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