1. トップページ
  2. 決めつけてかかるな

W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

投稿済みの作品

1

決めつけてかかるな

18/11/22 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:2件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:206

この作品を評価する

 トミオは503号室をノックした。
「なにか」
 男が顔をつきだした。
「じつは僕、504号室をたずねてきたのですが――」
「1番ちがいだ」
「あの、504号室は、503号室の、隣ですよね」
「わかっているなら、いけばいいだろう」
「ところがですね……」
 トミオは横をむくと、まるで海原にうかぶ島影でもみるような調子で額に手をかざした。
「お隣さんは、214号室になっているのです」
「それはあんたがわるい」
「なにがわるいのですか」
「503の隣は504だと勝手に決め込んだのだから」
「だけどふつう――」
「ここの集合住宅は、ふつうじゃないということがわかっただろう」
「それじゃ、504号室は、どこにあるのでしょうか」
「自分で探すんだな」
 トミオの眼前でドアはぴしゃりと閉じられた。
 504号室のあるはずのところに214号があるのだから、214号のあったところに504号があると考えるのは当然のなりゆきだとおもって彼は、その隣の213号室をめざしてあるきはじめた。彼はしかし、213号室の隣だからといって214号室があるとはかぎらないということを、さっきの男の言葉を戒めにすることを忘れなかった。
 はたして、213号室の隣には、384号室がならんでいた。
「なにかしら」
 四十がらみの女が、部屋着の胸元をなおしながらあらわれた。
「あの、ぼくは504号室を探しているのですが」
「よくみて。ここは、384号よ」
「ええ、それはわかっています」
「ご存知でたずねてらしたの」
「あのですね、本来504号室のあるべきところに214号室があって、その214号室のあるところ――つまりここですね――に、あなたの384号室があるというわけなんですよ」
 女はトミオのいうことに途中まで耳を傾けていたが、そのうちじれったくなったふうに首をふると、
「あがっていっしょに飲まない」
「いや、ぼくは――」
「さっきからひとりでさびしいおもいをしていたんだから。あなたが504号室をたずねてここにきたのも、なにかの縁よ」
「そういうことになるのかな」
 トミオもじつは、さっきから頭のなかを蠅のようにとびまわっている部屋の号数をしずめたくて、むしょうにいっぱいやりたくなっていた。
 部屋にあがると、炬燵テーブルのうえに、洋酒の壜が一本、女の言葉どおりどこかさびしげにつったっていた。トミオはすわるとさっそく、女がついでくれたウイスキーをあおった。その飲みっぷりは女をよろこばせたとみえ、空になった彼のグラスはふたたび酒でみたされた。
「これからどうするの」
「部屋をさがします」
「みつかればいいのにね」
 だれかがドアをノックした。
 立っていった女が、男としばらくやりとりしたあと、その男をつれてもどってきた。
「この方、214号室を探しているんだって」
「ああ、その部屋なら――」
 トミオはいいかけたものの、はたしていまなお214号室が503号室の隣にちゃんとあるのか、自信がもてなかった。
 女は新しいグラスに酒をついで、
「さ、まずはいっぱいやって」
 男もいける口らしく、なみなみとつがれた洋酒にすぼめた唇をちかづけ、ゆっくりすすりはじめた。
「214号室なら、504号室のところにあったけど、それはたぶん503号室の隣にあるはずで、念のため、505号室からせめていったほうがいいんじゃないかな」
「その505号室へは、どういけばいいのでしょうか」
 男がこれまで、この巨大マンション内をいかに右往左往してきたかが、その言葉の端々から感じられた。
「それじゃあなた、いっしょに探しててあげれば」
 トミオもそのつもりでいた。なんといっても自分は、一度は204号室をたずねているのだ。
 部屋をみつけたら3人で祝杯をあげましょうといいながら、女はドアをあけて二人を送り出した。
 トミオは記憶をたどりながら214号室をめざした。通路を右に折れ、階段をおりて、今度は左にすすみ、両側にずらりとならぶ部屋のあいだを、号数をたしかめながらつきすすんだ。あんのじょう、214号室は503号室のならびになく、それどころかその503号室のあったところには新たに427号室が控えていた。
 これでは埒があかないとばかり、トミオと彼は二手にわかれて部屋探しにまい進することにした。
 探せば探すほど部屋の号数は、まるでトミオをあざ笑うかのようにこれでもかというぐらいあちこちとびまくっていた。 そのうちトミオは息切れがしてきて、もはや一歩も動けない状態においやられ、ふらつく体で、一つのドアにもたれかかった。上をみあげると、504号の数字が読み取れた。
 ようやく自分の部屋にたどりつくことができたトミオは、もう逃がしてなるものかと、おもわずそのドアノブにしがみついた。




 


コメント・評価を投稿する

コメントの投稿するにはログインしてください。
コメントを入力してください。

このストーリーに関するコメント

18/12/01 雪野 降太

拝読しました。
面白かったです。『「503の隣は504だと勝手に決め込んだのだから」』という言葉は確かにそのとおりですね……生き物のように、日々細胞が入れ替わり、成長し続ける集合住宅なのかもしれません。『「その505号室へは、どういけばいいのでしょうか」』、『なんといっても自分は、一度は204号室をたずねているのだ』など、登場人物達も部屋番号に翻弄される姿が、話の果てしなさを予感させたと思います。
次の作品も楽しみにしております。ありがとうございました。

18/12/01 W・アーム・スープレックス

ありがとうございます。
すみもてさんの「生き物のように、日々細胞が入れ替わり……」はまさしく私が思い描いたイメージにほかなりません。増殖しつづける部屋――ただし、ちぐはぐに――というものを念頭に置きながら、一筋縄ではいかない現代社会のなかにもまれてあっぷあっぷしている人々に焦点をあてました。

ログイン