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クナリさん

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404からは出られない

18/11/22 コンテスト(テーマ):第163回 時空モノガタリ文学賞 【 504号室 】 コメント:7件 クナリ 閲覧数:424

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 高校二年の冬。
 私は放課後、同級生の立花君のマンションを訪れた。
 もう彼が学校に来なくなって半年になる。
 彼と何の関係もない私ができることはないのだけれど。
 立花君に何かあったのかもしれないと思うと、胸が張り裂けそうだった。

 エレベーターに乗る。
 立花君の家は505号室だ。
 回数ボタンを見ると、1、2、3階の次が5階になっていた。
 古い建物だと、縁起を担いで4階とか4のつく部屋を設けないというのは聞いたことがあったけれど、実物を初めて見た。
 5階に着く。
 501、502、503。その次のドアの位置には、白い壁があった。漆喰か何かで塗り固められている。
 元々は504号室だったのを、部屋を潰したらしい。
 もったいない。
 縁起担ぎのはずなのに、逆に気味が悪くなった。
 また、その白い表面に何か書いてある。
「404に入ってはいけない」
 落書きのようだ。部屋番号だとしても、そこは504のはずなのに。

 505のインターフォンを押す。
 誰もいない。

 私は自分の左手首を見た。
 いくつもの傷が縦横に走っている。
 傷があること自体より、ためらい傷であることが恥ずかしかった。いつも本気で死のうとしたはずだったのに。
 それを笑ったりせずに、真剣なまなざしで「辛かったな」と言ってくれた立花君の顔は忘れられない。

 私は505のドアに背をもたれさせ、その場に座り込んだ。
 心配で、寂しくて、涙がぼとぼととこぼれた。
 ひどくしゃくりあげるせいで酸欠になり、意識が遠のいて行く。

 ふと気がつくと、私は見知らぬ部屋に座っていた。
「え?」
 空き部屋のようで、人の気配はない。
 リビングなのか、古く汚れた家具に、壊れているわけではないのに荒れた床や壁。
 窓はない。いや、窓だったらしい壁の一部は、白い漆喰で塞がれていた。
 電気もついていない。なのに、ぼんやりと明るい。
 その片隅に、何かの塊を見つけた。
「な……!? え!?」
 それは、すっかり干からびていたけれど、人間のようだった。
 死体だ。俯いているので顔は見えない。
 何だ、ここは。これは誰なのだ。
 出口を探す。
 けれど、外に通じていたらしいドアは、これも漆喰で白く固められていた。
 慌てて見渡すと、お風呂やトイレの入口も白く塞がれている。

 出口のない部屋。
 でも。
 それなら私はどうやってここに来た?

 床に何か落ちている。
 さっき立ち上がる時に落としたのか、私の生徒手帳だ。
 拾い上げて、ぎょっとした。メモ欄に、見覚えのない字が何行も書かれている。
『404に入ってはいけない。これを見ている人が室外にいることを願う』
 絶対に私の字ではない。
 震える手でページをめくる。誰の字だろう? いつの間に?
『入り方は簡単だ。404のドアの前で気を失うか、眠るかすればいい。しかし出られない』
 そんな。
 違う。
 違う違う。
 私がいたのは505だ。404ではない。胸中で言い聞かせるように唱える。
 しかし。
『404とは単純な部屋番号ではない。三階の次が四階だし、3号室の次が4号室だ。該当する部屋を潰せば、条件を満たす別の部屋が404になる』
 私がいたのは、実際には四階だ。
 そして。
 ああ。
 504は『潰されて』いた。
 ならば、503の次の部屋というのは。
 かつては、504号室こそが「そう」だったのだ。504がこのマンションの「404」だった。それが、504を潰したせいで、その役割は505に移った。
 そしてこの生徒手帳は、私のものではない。表紙の微妙な癖が異なる。私と同じ学校の、別人の手帳だ。
 裏表紙の名前欄を見た。
 うなじに寒気が走った。
 これを書いたのは。
 この死体は。
『僕はもうここから出られないだろう。それでもこの部屋のことだけでも外に伝えたい。しかし、不可能なようだ』
 乾ききった亡骸がさらさらと崩れて行く。
 首ががくんと外れ、重い頭部が床に落ちて転がった。
 私は絶叫した。
 ただの黒い穴になった眼窩が、かつての立花君の面影をわずかに残して、私をうつろに見上げた。

 私はドアに向かって走り、体当たりした。
 びくともしない。
 叫びながら、窓にもぶつかっていった。しかし、跳ね返されただけだった。
「うぐっ、ぐっ、ぐううう」
 動物のようにうめきながら、私は部屋の真ん中でくず折れた。
 自分の何が悪かったのか、何がいけなくてこんな目に遭っているのか、誰かに説明して欲しかった。
 それに、私なんかより、立花君はいい人だった。こんな死に方をする人ではない。
 それなのに。
「うわああああああああ」
 泣き喚きながら、私は、悔しくて悔しくて、
 とにかく死ぬまであがくことだけは、心に決めていた。


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このストーリーに関するコメント

18/11/23 夏日 純希

クナリさん
ごぶさたしてます。
もう誰も知ってる人いないなぁと思ったら
クナリさん見つけて少しびっくり喜びしました。

不幸の部屋ズレてくるあたり恐ろし面白しでした。
素晴らしき安定のクナリさん。
またたまに訪れては、拝読させてもらいますm(_ _)m

18/11/24 クナリ

夏日純希さん>
お久しぶりです、ありがとうございます!
今のところ、皆勤しているので、できる限り続けたいと思っています(^^;)。

18/12/01 雪野 降太

拝読しました。
建物特有の「4」の話題に焦点を当てることで、コンテストテーマに真摯に取り組まれた姿勢に好感が持てました。
ただ、単一の作品としては腑に落ちない内容でした。なぜ半年なのか、二人に関係があるのかないのか、どうやって404の条件を導き出したのか等、気になる点がいくつか散見されました。
生意気なことを申し上げましたが次回作品も楽しみにしております。

18/12/08 クナリ

すみもてわたるさん>
コメントありがとうございます。
特にホラーやサスペンスですと、必要な部分以外の説明をほとんどしないたちなので、読みづらかったら失礼いたしました…。

18/12/24 待井小雨

「504号室」というテーマを見事に活かしていると思いました。そればかりでなくホラーとして読み手をハラハラさせる構成が素晴らしかったです。
どれだけ「404号室」という不吉な部屋を潰しても条件を満たせばその恐ろしい部屋になってしまう。理不尽で理屈の通らない恐怖があり、読んでいて楽しかったです。

18/12/25 クナリ

待井小雨さん>
ありがとうございます!
理不尽さはホラーの醍醐味だと思っているので、得体の知れない何かに「なんで!?」という目に遭わされてしまうのが拙作のヒロインですね(^^;)。
ミステリとの最大の差はそこだと思っているので、たくさんの「なんでやねんちくしょうウワアアア!」を生み出したいです!

18/12/30 霜月秋旻

クナリ様、拝読しました。
「404に入ってはいけない」のあたりから、入らないことを祈りながら恐る恐る読み進めたら、やっぱり入っちゃってるのかよと!(笑)主人公の恐怖心の表現が見事でした。怖面白かったです。

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