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宮下 倖さん

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雨のち晴れ!

18/11/19 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:0件 宮下 倖 閲覧数:89

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 そもそも大雨の日に生まれたということを良平に知られたのがはじまりだった。
 小学三年生のときに出された宿題がきっかけだ。
 自分が生まれたときのことを家族に聞きましょうというもので、家が隣同士の幼なじみだった私たちは一緒にその宿題に取り組んでいた。
 そばには良平のお母さんと私のお母さんがいて「どんな天気の日だった?」「生まれたときなんて思った?」などという質問に根気よくつき合ってくれていた。
「晴子は大雨の夜に生まれたのよ。雨の音に負けないくらい元気な声で泣いてねえ」
 私にとっては聞き飽きた話だった。でも良平にとっては初耳だったらしい。「へえ〜」と頷きながら聞いていたけれど、唐突に「あっ、だからか!」と大声を上げた。
「晴子と一緒にどっか行くとたいてい雨じゃん。夏祭りとかバーベキューとかさ」
 すごい発見をしたように良平が立ち上がった。
 お母さんが「そういえば家族旅行も雨が多いかしらねえ」なんて言ったからなおさら良平は目を輝かせた。
「オレ知ってる! そういうの雨女っていうんだろ?」
「こら、良平!」
 良平のお母さんが叱ってくれてその場はおしまいになったけど、次の日その話はクラス中に広まっていて、あっという間に私のあだ名は「雨子」になった。
 本名の晴子に対して雨子。からかいやすかったのだろうし、その程度のことでへこむ私じゃなかったから、良平を中心に男子は悪びれた様子もなく雨子と呼んだ。
 そして三年が経ち六年生になってもそのあだ名は現役である。
「おまえサッカー見にくんなよー、雨だったじゃん。コンディション悪すぎて負けたし」
「うるさい。雨だろうが晴れだろうが条件は相手も一緒でしょ。私のせいにしないで」
「雨子、こえ〜」
 こんなのはよくあることだ。同級生が何人も所属するサッカークラブの応援にも行けないのかとむくれたくなる。
「アメコ大明神さま〜、来週の運動会、雨でお願いします〜」
 なかにはこんなクラスメイトもいるけど、こういうときは少々降っても小雨決行の範囲内で開催されたりする。
 雨女なんて言われているけど私が天気を操れるわけじゃないし、私と一緒に雨に遭遇してる人なんてたくさんいる。とくに良平とは行動を共にすることが多くて、それなら良平が雨男だって変じゃない。私の場合、大雨の日に生まれたことを良平が知って、そこにあれこれ結びつけてしまっただけなのだ。
 天気なんて人間の力ではどうしようもないことに雨女雨男なんてちょっと弄りやすい理由をつけて、みんなで「あ〜あ、あいつのせいだ」と言いたいだけだってこともわかってきた。
 でもそんな不本意なあだ名で呼ばれて、悪天候を自分のせいにされるこっちの身にもなってほしい。晴れた空のように明るく澄んだ子に、と父がつけてくれた「晴子」という名がかわいそうだ。
 そして、五月のおわり。修学旅行を来週に控えて私は毎日週間天気予報を睨みつけている。
 この時点で雨ときどき曇りの微妙な予報で、私は表向き平然とした顔をつくっていたものの本当は心臓が痛いくらいだった。小学生最大と言っていいくらいの行事が雨なんて泣くに泣けない。
 二日前になっても雨予報は消えず、クラスの空気が落ちつかなくなってきた。行程内に雨天中止のイベントがあって楽しみが半減してしまうからだ。
「雨子〜いい加減にしろよな〜」
 放課後の教室で良平が言った。いつものことだったのにそのときはクラス中の目が私に向いた。全身にぐさぐさと刺さるような視線。いつもなら「うるさい」と返すのにそれができなかった。
 気がついたら私はぼろぼろと涙をこぼしていて、みんなが息をのむ中ランドセルを抱えて走り出していた。
 私のせいじゃない! こんなあだ名もういやだ!
 雨に負けないくらい大泣きした翌日、つまり修学旅行前日の朝。やっぱり雨はまだしとしとと降ったり止んだりだった。
 学校に行きたくなかったけど、何かに負ける気がして私は踏ん張った。行ってきますと玄関を出て、外の傘立てにささったオレンジの傘を睨む。ため息をつきながら傘を開くと白いものがぽろっと降ってきた。驚いて傘を見上げる。
 降ってきたのはてるてる坊主で傘の内側の骨に紐で結びつけられていた。ひらひらした胴体の部分に字が書いてある。
『ごめん。明日ぜったい晴れるから大丈夫!』
 良平の字だと思ったとたん、隣の家の玄関が開いて良平が出てきた。
「晴子、遅れるぞ」
「う、うん……!」
 慌てて良平を追いかける。
 その背中の向こう、灰色の重い雲が薄くなり少しずつ明るくなっていく空が見えた。


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