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腹時計さん

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ピンク色の黒歴史

18/11/16 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:0件 腹時計 閲覧数:237

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 過去を記憶するとき、何かをきっかけに覚えていることはないだろうか? 何かの弾みで思い出す、というのは、そのきっかけに触れて、誘発されて記憶がよみがえることだ。例えば、スーパーで買ってきたカツオのタタキを食べているときに、幼いころに高知県へ行ったことを思い出す。あるいは、ふとスイレンを見かけると、中学校の中庭の池にもスイレンがあったことを思い出して、ついでに中学生の時、中庭で告白して失恋した思い出までほろ苦く脳裏によみがえる。
 私の場合は、それが「ピンキー」だった。

―――――――

 二日酔いの頭をようやく起こして、昨日の宅飲みの残骸を片付ける。半端に残ったお酒や、キムチ鍋や、お菓子の袋をのろのろと処分していると、スマホがぴこんと鳴った。
『ピンキー、久しぶり』
 私は思わず、スマホの画面を切ってしまう。しばらく頭の回転を休止させた後、「見間違いかもしれない」という可能性にたどり着いた。もう一度、おそるおそるスマホのホームボタンを押す。が、その文章は一言一句、私の見たとおりだった。中学・高校の間ずっと一緒にいた友人からだった。
 大学に入ったばかりのころは連絡も取り合っていたけれど、もうとっくに交流も絶えていた相手だ。新年の挨拶もしていないし、誕生日も祝っていない。地元を離れ、飛行機でしかたどり着くことのできない場所にまでやってきたのだ。「そういうこと」は珍しくもない。同窓会や成人式にも参加しなかった。


「ピンクは彩美の人生だから」とか豪語していた自分を殴りたい。もはや過去の自分なので、ボコボコにしたくともできないが。
 いわゆるロリータファッションが好きだった。かわいくて、ピンクなモノ。だからあだ名が「ピンキー」だった。一度、セーラー服のスカーフを染めてピンクにしたことがある。クラスメイトにどん引きされ、教師に叱り諭された。とにかくピンクが自分のカラーだと思い込んで、服もバッグもカーテンもすべてピンクでそろえようとしていた。

 私の顔はどちらかといえば男っぽくて、ごつごつと頬骨が盛り上がり、全体的に肉が少なかった。要するにゴリラ系。小学校の時、男子から「骨ゴリラ」と呼ばれていた。そのコンプレックスを隠そうとした結果が、ピンクだった。
 ロリータファッションやピンクが悪いわけではない。素敵な人はたくさんいるけれど、私の場合は、似合わなかったし、似合うだけの努力もおざなりだった。かわいい服を着るだけで、魔法のようにかわいくなるのではないのだ。
 当時、両親は何も言わなかったが、確実に距離は開いた。兄からは嫌がられた。私のファッションを認めてくれていた友達は、たいていはロリータやゴスロリが好きで、そういう狭いコミュニティでお互いを認め合っていた。今回連絡してきたのもその一人だ。とてもかわいくて、おこづかいを溜めて原宿に一度だけ行ったときは写真を撮られていた。
 遠方の大学に受かってから、自分がどう見られているか、客観的に理解した。それからは、「普通」に戻りたくて、自分の過去を敬遠するようになった。「ピンキー」を知る地元に戻りたくなかった。

 ぴこん、と同じ人物からメッセージがまた届いた。
『最近どうしてる? 就職決まったー? いろいろ話したい〜会いたい〜(笑)』
 腹の奥が少し熱い。これを私はいらだちと呼んでいる。そんな率直に言わないで欲しい。これでは逃げることもできないではないか。

『うん。こっちで就職するの。なかなか帰れないや』
 遠回しな、薄い拒絶を織り交ぜて返信する。すぐに既読がついて、ぽこっと吹き出しが返ってきた。
『そうなんや! じゃあ、あたしがそっちに行こっかな(笑)ピンキーに会いたいなあ』
 え。
 その手があったか……。

―――――――

 忘れてほしい。だけど、あだ名はどうやっても私を追いかけて、あっという間にピンク色の悪趣味な過去を暴こうとしてしまう。ああ、黒歴史なんて言うけれど、私のそれはショッキングピンク。比喩でも何でもなく、ピンク歴史。
 一人暮らしの、物が少ないモノクロ調の部屋に、ピンクのカーテンが見える。壁紙も淡いピンクに染まっている。小さなテレビの僅かな枠もピンク色だ。黒無地のカーペットもぼんやりとピンクになって、細かい花柄が浮かび上がる。
 もちろん幻覚だとわかっている。これは自分のかつての部屋だ。数年前まで、実家の部屋はこんなだった。ピンクに侵される幻覚に肌が粟立つ。ピンキーなんて呼ばないで。ピンキーはもう卒業したの。
『ピンキーに会いたいなあ』
 会いたくないわけではない。だけど、だけど……。


 きっと彼女はやって来る。この遠い距離を保ったままそっとしておいてほしい、そう思うけれど、私は適当な言い訳をつけて断ることもできずに、スマホを握りしめているしかなかった。


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