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山上 太一さん

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転校生のあだ名

18/11/17 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:0件 山上 太一 閲覧数:167

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午前中の授業が終わり、昼休みが始まった。開始のチャイムが鳴りやまないうちに、十数人の男女が僕の席の周囲に集まってくる。
「さて、朝も話したけどこのクラスでは本名でなくあだ名で呼び合うという決まりがある。君は前の学校ではあだ名はなかったそうだから、これから僕たちで話し合って君のあだ名を決めようと思う」
そう言ったのはメガネザルと呼ばれている男子だ。小柄な体格に大きな目、小動物的な雰囲気。まさにメガネザルそのものだ。
中には午前の授業中に話したクラスメートもいたが、残りのクラスメートも改めてそれぞれの自分のあだ名を名乗り、簡単な自己紹介をしてくれた。
赤ら顔で背の高いオニ、整った顔立ちと上品な服装の『姫』、なんとなく不思議な雰囲気で占いが趣味だという『魔女』、食べるのが大好きな『ブタ』、大人びていて聞いたことのないような単語を交えて話す『ハカセ』、陸上部のエースで馬面の『サラブレッド』、がっしりとした体つきで強面の『親分』、派手な髪形で歌のうまい『オウム』…。
自己紹介を聞くたびに僕は感心する。ずいぶんとうまいあだ名をつけるものだ。
どのあだ名もメガネザル同様、本人からうける印象に異様なほどにフィットしている。
やがて、僕の席の周りに集まった全員の自己紹介が終わり、メガネザルが甲高い声で言った。
「さてと、みんなの自己紹介も終わったことだし。君のあだ名を決めようじゃないか」
喧々諤々の議論が始まった。
「あだ名は聞けばその人物を想起させるようなものでなければならない、だから個人的にはまだ彼のあだ名をつけるには早いような気がするのだが」
ハカセが眼鏡を押し上げて言う。
「あら、でも呼び名がないと不便じゃない?」
と長い爪をいじりながら魔女。
「じゃあ、暫定的に『転校生』って呼ぶのはどうだい?ぴったりなのができたら、そっちに呼び変えてさ」
ブタが菓子パンを頬張りながらそう提案した。
「しかしな、呼び名が途中で変わるってのもどうなんだ?それに、この兄さんだって『転校生』なんて呼んでたんじゃいつまで経っても馴染めねえだろう。背え高いし、キリンとかどうだ?」
キセルでたばこをふかしながら親分が言う。
「適当すぎるよ。大体、大きいって言ってもオニのがはるかに大きいじゃないか」
サラブレットが嘶く。
議論はどんどんヒートアップしていった。
「そういえば、あなた午前の体育の100m走、ものすごい早かったわね」
いよいよ収拾がつかなくなってきたころに、家来に淹れさせた紅茶を片手に高みの見物を決め込んでいた姫がふと思い出したかのように言った。
「ああ、まあね。前の学校では陸上部だったんだ」
「へえ、成績はどのくらいだったの?」
「調子がよければ、10秒台にはいけるね」
「ちょっと待ってくれ、10秒?」
それを聞いたハカセがサラブレッドに話しかける。
「サラブレッド、君の記録は確か11秒台だったよな?」
サラブレッドは、耳を寝かせてよわよわしく言った。
「おい、冗談やめてくれよ」
そんなサラブレッドを無視して、ハカセがみんなに呼びかける。
「どうだろうみんな、一つ彼のあだ名候補を考えたんだが。サラブレッドというのは」
「いいじゃない」
「賛成」
「どことなく馬っぽいしな」
皆が次々賛意を口にする。
「ふざけるなよ!サラブレッドは俺だろ」
悲鳴に近い叫び声をサラブレッドがあげる。ひどく狼狽しているように見えた。
たかがあだ名じゃないか、そんなに必死にならなくても。
そう思わないではないが、まあ今まで自分が呼ばれていた呼び名で他人が呼ばれるのは、あまりいい気分ではないだろう。
そう思い、僕もみんなに抗議した。
「そうだよ、被るあだ名はだめだろ」
「被る?何言ってるんだよ」
メガネザルがきょとんとして聞き返す。
「そこにいるあいつと被るだろ、あいつもサラブレットって呼ばれてるんじゃないのか」
「誰のことだよ?」
僕が指さした空間には、誰もいなかった。
サラブレッドは姿を消してしまった。
いや、違う。サラブレッドは僕だ。僕のあだ名だ。
僕は一体何を言っていたんだろう?
「決まりだね。君の名前は今日からサラブレッドだ」
困惑する僕の頭の上にメガネザルがちょこんと乗った。彼なりの親愛の表し方なのだろうか。
「よろしくね」
僕のたてがみを撫でながら姫。
「よろしく頼むよ」
禿げ上がった頭をさすりながらハカセ。
「よろしく、サラブレッド」
もう食べるものがなくなって、自分のしっぽを齧りながらブタ。
頭上ではオウムが天井すれすれを旋回しながら歓迎の歌を歌っている。
他のみんなもそれぞれの方法で、僕のことを歓迎してくれてるみたいだ。愉快な奴らだ。僕は安心した。どうやらうまくやっていけそうだ。
「これからよろしく、みんな」
僕はブルルと鼻を鳴らして、大きな声で嘶いた。


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