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田辺 ふみさん

性別 女性
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あだ名の終わり

18/11/17 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:0件 田辺 ふみ 閲覧数:87

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 公園に行くと、涼子はブランコを揺らさずに座っていた。鎖を握りしめ、うつむいた姿が寂しそうに見えた。
「リラ、遅くなってごめん」
 声をかけると、涼子はパッと、顔を上げた。
「ううん、さっき、来たところ。ごめんね、急に呼び出して」
「構わないけど、一応、女なんだから、暗くなってから、公園で待ち合わせなんて、やめろよ」
 そう言って、俺は隣のブランコに腰をかけた。
 もう、子供達も家に帰って、公園には誰もいない。
「一応、女かあ」
 涼子は少し沈んだ声で言った。それから、はきはきと言った。
「これでも、結婚したいって言ってくれる男性がいるんだけどな」
 ドキッとした。
「誰だよ」
「国村さん。結婚を前提に付き合ってほしいって、言われたんだ。よっちゃんも会ったことあるでしょ」
「ああ、彼ね」
 いい男だった。
 高身長のハンサムでいい会社に勤めていて、優しそう。
 そして、涼子に惚れている。
『祭りに興味があるので、涼子さんに連れてきてもらいました』
 夏祭りの日、そんなことを言って、俺に挨拶をしたけれど、祭りに興味があるなんて、嘘なのはすぐにわかった。興味がある相手は俺だ。
 涼子と幼馴染の俺がどんな男か、ライバルになるのか、確かめに来たのだ。
 俺が相手なら、勝てると思ったのか。
 とうとう、告白したのか。
「よかったな」
「よかったと思う?」
「ああ」
 少し沈黙が続いた後で、涼子はぽつりと言った。
「よっちゃんはまだ、フリーなの?」
 最後の彼女と別れてから、もう一年。涼子さんとの間には入れないからと振られてしまった。その間に今、国村が入ろうとしている。
「フリーだよ。誰か、かわいい子、紹介してよ」
「かわいいか。ゴリラじゃダメね」
 涼子が髪をかきあげた。
 白い頬。昔の日焼けした姿が嘘のようだ。
 小さい頃、俺は成長が遅くて、この公園でいつもいじめられていた。そんなとき、いつも、守ってくれたのが涼子だった。弱虫をゴリラが守っているとからかわれても、涼子は平気だった。
「可愛いから、ゴリラじゃなく、リラってあだ名に変わったんだよ」
 リラという花をわざわざ、花屋に見に行ったことがある。涼子にぴったりの花だった。
 いつでも、すぐそばに涼子がいたのに、なぜ、付き合わなかったのだろう。
 タイミングが合わなかった。
 初めて、女の子に興味を持ち始めたとき、涼子はまだ、色黒の『ゴリラ』だった。初めて、彼女ができたときも、まだ、俺の目には涼子は女の子には見えなかった。
 なんとなく、彼女と別れて、気がついたときには涼子には恋人がいて、そして、可愛い女の子になっていた。
「弱虫、よっちゃん」
 涼子がつぶやいた。
「もう、俺のことをあだ名で呼ぶのはやめてくれ」
「国村さんに誤解されないように?」
 涼子が薄く笑った。
「もう、弱虫をやめるってことだ」
 弱虫だから、よっちゃん。そのあだ名通りだ。
 幼なじみという居心地のいい関係を崩すのが怖かった。よっちゃんとリラ。そのままでいたかった。
 心の中ではずっと、涼子と呼んでいたのに。
「リラ、これからはあだ名じゃなく、涼子って名前で呼んでもいいか?」
「わたしも名前で呼んでいいなら」
 そう答えると、涼子はグンっとブランコを揺らし始めた。


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