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W・アーム・スープレックスさん

性別 男性
将来の夢
座右の銘 作者はつねにぶっきらぼう

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超3D映画館

13/01/21 コンテスト(テーマ):【 映画館 】 コメント:4件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:2658

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 はん子から電話があったのはつい30分前のことで、映画にいくからどこそこで待ってるわと一方的にいってきた。いそいでぼくがその待ち合わせ場所にいくと、ちょうど彼女もやってきたところだった。
「なんの映画だい?」
 ぼくはまだそれさえ聞いていなかった。
「それはすごいのよ。なにせ、超3D映画館なんだから」
 3D映画はたまにみていたぼくだが、そのあたまに超がつく映画とは、いったいどんなしろものだろう。
「ネットで評判になったんだけど、みんなのレビューをみてもどれも、驚異の3Dとしか書いてないのよ」
 それでよけい好奇心をかきたてられた彼女の気持ちはぼくにも理解できないことはなかった。
「ぼくもはやくみたくなってきた」
 さっそく歩きだしたはん子の、その足取りのはやいこと。いくらもしないうちに、ぼくたちは目的の映画館にたどりついた。
「ほんとに、ここなのか?」
 ぼくが疑いをもったのも、むりはなかった。
 古くくすんだ、何か所か剥がれ落ちた壁のガラス窓には、上映中の作品の、スチール写真がべたべたと貼られている。押しピンがとれて一枚などは、大きく斜めにかたむいていた。その写真がモノクロときて、おまけに黒ずんでみにくく、なにがうつっているやら、ろくにたしかめることもできなかった。
 狭い入口をぬけると受付には、まるでいまの写真からぬけでてきたような色あせた感じの女性が座っており、はん子が購入済みのチケットを出すのを、黙ってみまもっている。
「表にかかっていた看板、大正映画館だったでしょ。ここにまちがいないはずよ」
「また古風な名前だな」
 ぼくの中では、その映画館名と、超3D映画とがどうしてもむすびつかなかった。
 壁際におかれた、赤か茶色かそれともKか、もはや最初の色が判別しがたいレザー張りの長椅子のまえをとおり、つきあたりのいまにも切れそうな蛍光灯に照らされた売店の品物をみると、これまた、スルメに酢昆布、ポンセン、厚塗りのラスク、そしてラムネにサイダーといった現代の映画館ではまずお目にかかれないしろものばかりだった。
「とにかく、映画をみましょう」
 二人は、場内に足をふみいれた。
 とたんに、真っ暗な闇に目をおおわれたぼくの、おもわずつきだした手が、客席のだれかの頭をつかんでしまった。
「すいません」
 闇に目がなれるまでまってから、中央の席をみつけて二人、ならんですわった。
 子供たちが、わあーと歓声をあげながら、スクリーンの下をどたどたとかけまわりはじめた。どこかでラムネのビンが倒れてころがり、中のガラス玉がきんきん響いた。
  そんな騒音にたえながらぼくは、前方の、だだっぴろいスクリーンにうつしだされる映像に目をやった。
「あれが3Dかい?」
 それはどうみても、のしイカのようにひらべったい2Dの、サムライが刀で斬りあいをしている、チャンバラ映画だった。
「せっかくきたんだから、この映画でもみていきましょう」
 誘った手前、そういわざるをえないはん子に、ぼくはだまってうなずいていた。
 が、またしても子供たちがスクリーンの前を騒ぎながらかけまわるわ、どこかでだれかがおおきなあくびをすれば、またべつの席からは雷鳴のようないびきがきこえるわ、その上まるでBGMさながら、床をラムネのビンが甲高い音をたてながらころげまわるわで、ろくすっぽまともにみることさえできなかいありさまに、堪忍袋の緒が切れたはん子とぼくは、通路にとびだして、文句のひとつもいってやろうと、受付の女のところにかけよった。
「ちょっと、あなた、ひどいじゃないの」
 はん子につめよられた女は、机のスィッチを押した。とたんに、あたりのなにもかもがたちまち、一瞬にしてかききえた。
 二人があっとおもってみまわすと、薄暗い蛍光灯にてらされた館内は、真新しい清潔感ただよう壁と床にさまがわりしていた。
 わけもわからずぼくたちが表にでてみたところ、大正映画館は現代的な斬新さをたたえた建造物にかわっていて、剥げ落ちた壁も、スチール写真もどこにもみあたらなかった。
「どうなっているの、これ………」
 まだ茫然としているぼくたちに、さっきの女―――それまでが、みちがえるばかりに生き生きした美貌の女性にかわっていた―――が、声をかけてきた。
「いかがでしたか。超3D映画館には、御満足していただけましたでしょうか」
 すると、二人がその目でみた映画館も、売店の菓子類や子供たち、それにころがるラムネのビン、それにこの彼女の外見までもが………超3D映像がつくりあげた映像だったのか。
「お客さまのご体験されたことは、どなたにもお話しにならないようお願いしますね。今後来館される方のおたのしみが、すこしでも損なわれないように」
 魅力にみちた笑みをうかべて、大正映画館の受付女はいった。


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このストーリーに関するコメント

13/01/22 草愛やし美

W・アーム・スープレックスさん、拝読しました。

大正映画館、ふむふむそういう仕掛けだったんですね。懐かしいですね、子供の頃を思い出しました。私の体験した昭和映画館は、そんなに、館内はうるさくなかったですが、時々映像が切れました。フィルムが古いと切れるのです、そうなるとしばし休憩で、館内はやじと怒号で騒がしくなったりしましたね。ラムネ、売ってました。お菓子もそういえば、今はポップコーンになりましたね。

面白い設定で今回も楽しませていただきました。

13/01/23 W・アーム・スープレックス

草藍さん、コメントありがとうございます。

そういえば、途中で何回かフィルム切れたことがありましたね。そのアイデアもとりいれたら、よかったです。
映写機から照射される光のなかに、もうもうとタバコの煙が舞っていたのは、いまからおもえば、のどかでさえあります。
当時の映画館は、映画が面白くないと、子供たちの遊び場と化していました。
わかっていただける方がおられて、うれしいです。

13/02/08 かめかめ

ネタバレ現金(`・ω・´)

何度か思いましたが、はん子って、なぜそんな名前……?

13/02/10 W・アーム・スープレックス

かめかめさん、コメントありがとうございます。

このように、読み手に、なにかなと、疑問を抱かせる名前です。

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