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W・アーム・スープレックスさん

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呪術師の息子

18/11/08 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:0件 W・アーム・スープレックス 閲覧数:67

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 山や沢をかけたり、木によじのぼったり、川で蟹や魚をつかまえたりするのに飽きてきた子供たちは、だれいうともなく山里に足をむけた。
 こんもりした繁みのなかに、煙突から煙をたちのぼらせる家がみえてくると、かれらはわざと笑い声をあげては、楽しそうに騒ぎ出した。
 しばらくすると、二階の窓から小柄な少年が顔をつきだしたのを、すかさずダンがみつけた。
「ニッキだ」
 みんなはニッキにむかって手をふった。
「いっしょに遊ぼうよ」
 ニッキはためらった。ダンはしかし、ニッキは必ずやってくると確信をもっていた。
「あいつは気が弱いから、おれたちの誘いをことわる勇気がないんだ」
 みんなもそれをしっていたので、その場でじっとまっていた。
 ニッキは呪術師の息子だった。子供たちは親から、あの家にはちかづくなといわれていた。呪術師がなにをするのか、噂ではなんでも、異界の生き物を呪文によって呼び寄せることができるのだとか。親たちからいわせるとそれは、世にも恐ろしい生き物なのだそうだ。うっかり家をたずねたりして、その異界の生き物と鉢合わせたりしたら……。だからかれらはいつも、こうしてニッキを家から誘い出すようにしていたのだ。
 十分もたったころ、ニッキがこっそりと家から出てきた。
「いつまでおれたちをまたせるんだ」
 みんなはこぞってニッキをなじった。
「ごめん。父さんが呪術にうちこむまで、出てこられなかったんだ」
 いいわけするニッキに、ダンが、
「おやじさん、化け物をよびだしていたのか」
「う、うん」
「どんな化け物なんだ」
「それはいえない」
 ニッキはこれまでいちども、ダンのいうところの化け物の話はしたことがなかった。臆病者で、人にさからうことができない彼だったが、そこだだけは意志の固いところをみせていた。
 ダンたちはニッキを遊び仲間にいれるというより、よってたかってからかったり、いじめたりするのが本当のところだった。ニッキにもそれはわかっていたが、いつも鼻をつんと刺激するお香や薬草の匂いにみちみちた家のなかで、炎をまえに呪文を唱える父のそばからいっときでもいいからはなれたい一心で、家から抜け出してきたのだった。
 あんのじょうきょうも、傾斜地の草むらで背を押されてころがりおとされたり、ニガヨモギを口にいっぱいおしこまれたり、あげくは両手両足をつかまれて、浅いながらも流れにほうりこまれたり、それはひどいめにあわされてニッキは、とうとう泣きながら家までかけもどっていった。
 あとでひとりダンがニッキの家にやってきたのは、さすがにいたずらがすぎたという後悔の念に後押しされたからだった。
 ダンが家の庭をみわたせる古木の陰に身をよせると、はたしてニッキが、異様な生き物をまえにして、何やら話しかけていた。みたこともない生き物で、大人の背丈の倍はあるおおきさだった。ただ顔は、とてもあいくるしくて、女の子がベッドでだいて寝るぬいぐるみのようにかわいらしかった。
 さっきまでの泣き顔はどこに行ったのか、その生き物をまえにしたニッキの表情は、いかにもうれしそうだった。
「さっきはごめん、ニッキ」
 ダンは優しく声をかけた。ニッキは一瞬顔をこわばらせたが、もちまえのひとのよさから、
「気にしてないよ」
 ダンはそのとき、ニッキのまえにいた生き物が、一瞬にして姿を消してしまうのをみた。
「いまのが、異界の生き物かい。すごいなニッキ、おまえにもそんな呪術がつかえるんだ」
 なにもこたえようとしないニッキに、ダンはすりよって、
「おれにもその呪文を、おしえてくれないか」
「だめだよ。そんなことできない」
「いいじゃないか。異界の生き物を、おれもともだちにしたいんだ」
 ダンは、人からいわれるといやとはいえないニッキの弱みを、このときもついてきた。
「あれの名前は、『へるにもほとおん』というんだ。だけど絶対この名でよびだしちゃいけない。ぼくはいつもおんちゃんってあだ名でよんでいる。あだ名だと、いまみたいにかわいらしい姿だけど……」
 ダンはもう、ニッキの言葉をきいていなかった。最初にニッキが口にした『へるにもほとおん』の名を必死におぼえようと、口のなかでなんどもつぶやきながら、全速力でかけだしていた。
 ダンは、小高い丘の下までやってくると、空にむかって大きな声で、
「へるにもほとおん」
 とよびかけた。
 数分後、胸騒ぎをおぼえてニッキがかけつけたときにはそこに、ばらばらに引き裂かれたダンの体がちらばっていた。そのそばでは、狂暴な形相のへるにもほとおんがダンのあしらしきものを、ぼりぼりかじっていた。
「おんちゃん」
 ニッキがよびかけると、たちまち異界の生き物はあのぬいぐるみのようなあいくるしい姿にもどって、あまえるように彼に頭をなすりつけてきた。


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