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三明治さん

性別 男性
将来の夢 もう将来はありません。
座右の銘 情けは人の為ならず。

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KYのNYの山田くん

18/11/01 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:2件 三明治 閲覧数:322

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 アメリカの、あのニューヨークから転校生がやってきた。NY生まれのNY育ち。
 男なのは残念だけど……。できればハーフの女の子がよかったな。ウエキ先生と教壇に並んで立っている男の子はハーフでもなく純日本人らしい。坊主頭に半ズボンでボーダーのタートルネック着用。小学四年生にしては、ちょっとオッサン臭い顔をしている。なんとなくだけど島根とか鳥取あたりから来たというほうが、しっくりくる感じがした。ちなみに、僕は島根や鳥取には何のうらみもない。というか、場所もよく知らない。春とか夏休み明けじゃなくて、秋というのはちょっと季節外れのような感じもしたけど、お父さんの仕事で急に日本に戻ることになったらしい。いわゆる<キコクシジョ>というやつだ。
 先生は黒板に<山田>とだけ書いて、そのまま十五秒ほど固まってしまった。クラスの中がちょっとザワつきはじめた声で我にかえったらしく、少し迷ったような素振りを見せたあと静かにチョークを置いた。そして僕たちを振り返ったときの顔は、なんだかすこし引きつって見えた。
「じゃ、じゃあ山田くん、自己紹介をしてもらおうかな」
 その山田くんは静かにうなずくと、英語なまりの日本語で話しはじめた。
「み・な・さん、コンニチハ。き、きょうから、ごめんください。ボクノ、ネームは山田寿限無寿限無五劫の擦り切れ海砂利水魚の水行末雲来末風来末食う寝るところに住むところやぶら小路のぶら小路パイポパイポパイポのシューリンガン、シューリンガンのグーリンダイ、グーリンダイのポンポコピーのポンポコナーの長久命の長助、でぇす。よろしくおねがいシロよ」
 声をあげるヤツは誰もいなかった……。(こんなにも、クラスが静かになることもあるんだなぁ)と、僕はその時ぼんやりと考えた。
 ひどく長く感じた沈黙を破り、口火をきったのは先生だった。
「えー、その、立派な自己紹介だったと先生は思うぞ。みんな仲良くやっていこう。スクラム組んでな、ハハハ……ハ。あ、これからプリントを配る。山田くんの名前が書いてあるから、みんなも間違えて呼ばないように。名前を間違えるのは失礼なことだからな」
 プリントを渡された前の席から驚きの声があがる。正直なところ、山田くんの自己紹介を理解できていたものが誰もいなかったのだ。僕も英語をしゃべっていると思っていた。しかしながら、<保護者の皆さまへ>と書かれたプリントには山田くんのふりがな付きの名前が記されており、そこでようやく、さっきのペラペラが名前だとわかったのだ。今度はクラスの騒音基準値をはるかに上回るデジベルになった。
「マジ」
「超ウケ」
「キラキラすぎ」
「山田くん、座布団ぜんぶ持ってって」
「海砂利水魚って、くりぃむしちゅー、かよ」
 不幸中の幸いというコトバが合うかどうかわからないが、日本語に不自由そうな山田くんは、けっこうディスられてるのに意味がわからないのかニコニコ僕たちを見ている。
 先生は、こういった状況になるのを予想していたのだろう。しばらく僕たちの様子をながめながら放置し、少し静まったのを確かめてから、ゆっくりと話し出した。
「みんなも多感な時期に差し掛かろうとしている年頃だ。目の前の現実ってものにとまどうこともあるだろう。早い子は初潮を迎える子だっている。世の中には長い名前の子もいるんだ。飢えに苦しんだり貧困で学校に通えない子だって世界にはたくさんいる。名前が長くてもノープロブレム、みんなそう思おうじゃないか」山田くんは、まだニコニコ聞いている。
 「先生、山田くんは男三号と呼ぶのでしょうか?」委員長の白鳥さんがサッと手を挙げる。
 ここで説明しよう。このクラスでは山田姓のものがすでに男子二名、女子三名おり、それぞれ男・女、一号・二号・三号の組み合わせで呼ばれている。無論、悪意のない「あだ名」である。ちなみに僕は<男二号>こと、山田つとむである。以上、説明終了。
「うん、先生もその問題について考えてみた。詳しくはプリントに書いてあるから、みんなも、お父さん・お母さんと家でよく考えてみて欲しい。ちなみに先生の個人的な考えだが<男三号>はもうクドいと思っています」
 先生の話をきいて<女三号>こと、山田涼子ちゃんは机に突っ伏して静かに泣き始めた。
「そうだなぁ、二、三日は山田くんのことは<ニューヨーカー>とでも呼ぼうか、<ニューカマー>より粋だろ?」
 涼子ちゃんの方を少し気にしながら先生は言った。あちこちからニューヨーカーと、つぶやく声が聞こえる。山田くんも気にいったのか、ニコニコに少しばかり照れが混じっているように見える。
「あ、山田くんの意見も聞いておこう。ひとつ<ニューヨーカー>でどうかな?」
「はい、と、とっても気に入りましょう」
「ちなみに、NYではなんと呼ばれていたの?」
「ジャップですネ」


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このストーリーに関するコメント

18/11/02 64GB

笑いました。有り得ない設定は苦手なのですが、コントみたいなアップダウンにただ ぶふっ! でした。

18/11/03 三明治

読んでいただき、さらにコメントまでっ!
ありがとうございます。

ホントはもっとメタ小説というか、
映画「マトリックス」みたいな感じになる予定でしたが、
字数の都合(?)でこんなんなりました。
笑っていただければ幸いです。
「マトリックス」もギャグ映画の側面もあるし(違うか……)

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