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hayakawaさん

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しょんべん野郎

18/11/01 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:0件 hayakawa 閲覧数:307

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 俺には物語の意味もわからない物語。早見という名前の俺はそう思いながらトイレまで向かった。トイレで用を足す。そのことに激しく抵抗感を持っていた。
 しょんべん野郎。
 俺の小学校の頃からのあだ名だ。俺はそう言われることに恐怖した。授業中いつでも抜け出した。
 俺には授業中トイレに行くことが唯一自由になる気がした。
「早見君、トイレで何してるの?」
 女子に中学校の頃、そう言われた。
「何って?」
 まさかそういうことをしていると思われたのだろうか。
「しょんべんだよ」
 俺はそう言った。
「きも」
「やーい、しょんべん野郎」
 クラス中で俺が授業中に抜け出して、変なことをしていると思われた。
 あの時女子から「きも」と言われたことが、快感になってしまった。

 生まれた時から恥ずかしい人間でした。

 僕は授業中にノートにそう書きこんだ。

 自由になりたいのです。

 僕がノートにそう書き込んでいるうちに、急に脳内が激しく混乱し始めた。
 みんなの常識がわからない。それでいて、数学の授業の奥深くまでわかってしまう。
 僕は授業を当然のように抜け出して、トイレの中に入って、激しく嘔吐した。
 クラスのみんなはそうしている間に俺が変なことをしていると思っている。それが俺には快感だ。
 恥ずべき人間。おかしい。脳内がおかしい。数式ばかりが脳内をめぐる。中学生の俺の脳内におかしな思考ばかりがとめどなく浮かぶ。クラス全員が今、脳内で変態じみた妄想をしている。誰もが異性を狙っている。
 そんな発情期の俺たちにいったい教師は何を教えたい。教師だって本当はやりたいんじゃないのか。俺はそんなことを考えた。
 結局動物である俺たちが人間になろうとしている。怖いと思う。だって動物なのだから。やはり、動物なのだから。脳内がとめどなく働き、様々な思考に追いまわされる。
 高校生になった時、リストカットをしていた女と友達になった。初めて俺は人を助けなければならないと思ったが、そいつは自由に遊びまわっていた。
 そのことを知って、俺はしょんべん野郎と呼ばれた過去を追憶する。

 なんて俺たちから見る世界は輝いて楽しみと苦悩に満ちているのだろう。
 気を配ることもなかったあの青い空も秋の涼しい風も今となっては自律神経を追い詰めるに過ぎない。
 景色は激しく俺を混乱させる。
「ねえ、早見君」
「何?」
 リストカットをしていた女が俺に問いかける。
「どうして君は絶望しているの? 君は幸せになれる人間よ」
 そうだ。わかっている。たぶん、俺は幸せになれる人間だ。圧倒的な思考力はもはや輝く天才と与えられた魅力でこの世の欲をすべて手にしてみせる。
 そんなことを俺は思った。
 高校を卒業する頃には自己愛が少し減った俺がいた。
 さぁ、どこへ行こうか。そんなことを考えながら卒業式の日にリストカットをしていた女から花束を受け取った。
「こんなもの貰っていいの?」
「君が幸せになれるように。君の夢が叶うように」
 そう言った彼女は微笑んでいた。しかし、その日、一人の女子生徒が妄想に突っ走って電車に突っ込んだ。
 同族の悲劇。俺は悲しくなった。
 わけのわからないことをその日、言っていたらしい。同族なのだろうか。俺とは少し違う同族な気がする。
 実をいうと多くの男子生徒が彼女に恋をしていたのだ。そして彼女はそのことに気づいていたのか知らない。
 悲しいのは俺が恋というものを忘れかけていることだ。
 卒業式の帰り道、第二ボタンを、リストカットをしていた女子に渡した。
「君のこと好きだった」
「そう」
 俺はそんなことより、自殺したことに激しく衝撃を受けていた。いったい俺の未来はどうなるのだろうか。
 激しく権威を渇望していた中学時代。あの頃は考えもしなかったことが今はめぐる。
 トイレに引きこもっていた俺をしょんべん野郎といったやつらは今もこの現実の中で俺のことを知らずに生きている。
 


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