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森音藍斗さん

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伝言屋

18/10/22 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 森音藍斗 閲覧数:120

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『伝言屋
 時間と場所が離れた人へも、直接言いにくいことも 代わりに伝言致します、早く確実に伝えます
 匿名希望も受け付け可 誹謗中傷はお断りする場合が御座います
 tel/fax XXX-XXX-XXXX
 mail xxxxx@xxx.xx.xx
 address xx都xx区xx x-x
 報酬は、貴方のできることを、見合う分だけ』

 依頼人は、同僚に貧乏揺すりを辞めてほしいOLだったり、連絡の取れなくなった古い友人に連絡先を伝えたいお爺さんだったり、結婚した元恋人にかつての感謝を伝えたい男性だったり、親と喧嘩して謝りたい中学生男子だったり。人捜し目的で使われることもある。確実に、伝えるから。確実に相手を捜し出すから。雪崩に巻き込まれた夫に伝言を頼まれ、洞穴で三週間耐え抜いた男性に、激励の言葉を届けたこともある。今までで一番難しかった依頼だ。
 今回訪れたのは、ランドセルを背負うか背負わないかぐらいの小さな女の子。オレンジジュースを両手で握り、床に届かない足をばたばたさせている。埃が立って、普段ろくに掃除をしていないのがバレる。やめてほしい。
「お名前と連絡先をお願いします」
「うえはらあおい。おととい六才になったんだよ」
 漢字まで訊くのは無駄だと思い、片仮名のままメモを取る。
「ウエハラさんのお電話番号やご住所、メールアドレスなど、連絡を取ることができるものはお持ちではありませんか。依頼終了のご連絡をさせていただくことになっているのですが」
「あのね、あおいちゃんのうちのお電話ね、赤くてかわいいんだよ」
 質問を変えよう。埒が明かない。
「アオイちゃん、迷子になったときに持ってなさいって言われた紙とか、そういうのあるかな?」
 それとも今の子は個人情報など身に付けないのだろうかと思ったが、幸運なことに彼女は緊急時連絡先を身に付けていた。
 上原葵という本名、それから自宅の電話番号と住所を控えて返すと、彼女はそれをちいさなポシェットに戻し、唐突に本題に入った。
「おかあさんに、あおいちゃん元気だよって伝言してください」
 その目は五歳なりの真剣さを放っていた。

「お母さんと会えないの?」
 依頼人との関係性を含む宛て先の情報は、宛て先を捜す上での第一情報源だ。迂闊な質問を続けて泣き出しはしないかとはらはらしたけれど、彼女は存外気丈に顔を上げていた。独りでここまで来ただけのことはある。
「いっしょに住んでたんだけど、いなくなっちゃった」
 離婚、そしてそれについて子供にきちんと説明していないパターンか。だとしたら、彼女の父親もしくは戸籍その他に当たれば何とでも片は付く。
「お母さん、いつからいないの?」
「うちに住んでたのは冬まで。それから、びょういんにお引っ越ししたの。でもそのときは、お父さんがおしごとじゃなければいつも会いに行ってよかったの。でももう会えないんだって」
 彼女が膝で小さな手を握り締めた。
「あおいちゃん、がんばってるから、おかあさんもがんばって、また会おうねって、言っといて、ね、伝言屋さん」
「承りました」
 確実にお届けいたします。私は伝言屋ですから。

「もしもし、上原さんのお宅でしょうか。伝言屋と申します。葵さんはいらっしゃいますか」
 電話口に当たったのは、男性の声だった。恐らく、葵ちゃんの父親。すぐに合点がいったようだった。
「先日は葵がご迷惑をお掛け致しまして。死者に伝言を届けろなどと」
「仕事ですから」
 彼は暫く黙って、
「本日はどのようなご用件で」
と言った。
「依頼を達成いたしましたので、ご報告です」
「まさか」
「伝言屋ですから」
「ああ、ええと、優しい嘘をありがとうございます。葵にそう伝えておきます」
「失礼なことを仰いますね」
 そこまで言うと、彼は今度こそ黙ってしまった。
「葵さんに代わっていただけますか。ご本人に直接お伝えしたいので」
「……分かりました」
 彼が電話口から顔を離す。次に飛び込んできたのは元気な少女の声だった。
「でんごんやさん!」
「葵ちゃん、お母さんに、伝えておいたよ」
「おかあさん、なんか言ってた?」
「次に会うまでににんじん食べられるようになっときなさいって」
 電話の向こうで彼女がむくれた声を出し、そして、じゃあにんじん食べる、と渋々約束した。
「にんじん食べられるようになったらまたおいで。お母さんに報告してあげよう」
「うん」
 電話がもう一度父親に切り替わった。
「あの、お代は」
「今回は——そうですね、葵ちゃんの無垢な声、既に頂いております」
「そんな! にんじん、って、葵が」
 父親もどうやら、依頼の達成を信じたようだった。
「これが伝言屋ですから」
 貴方も伝えたい思いがあれば、ご依頼お待ちしております。


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