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アシタバさん

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僕の先生

18/10/22 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 アシタバ 閲覧数:90

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 僕が母さんのお腹で死んでしまったから母さんは酷く悲しんだ。
 病院のベッドで寝ている母さんの頭の上をくるくる飛んでいると「かわいそうになぁ」と近づいてくる人魂があった。
 それが僕の先生になった。
 先生は僕と同じ幽霊で僕のことをチビと呼んだ。そして何もわからない僕に色々なことを教えてくれたのだ。
 僕が先生にくっつくと先生の考えていることが流れ込んでくる。おかげで僕は言葉やこの世界の仕組み、僕が幽霊だということを知ることができたのだ。
 そして、僕のせいで母さんが悲しんでいることもわかってしまった。
「お前のせやない」
 先生は僕に言ったけど、僕はどうしても母さんに「ごめんなさい」と謝りたかったし、「泣かないで」と言ってあげたかった。
 でも、幽霊は生きている人に話しかけることはできないし、触れることもできないそうだ。「僕がそんなの嫌だ」とぎゃあぎゃあ騒いだら、困り果てて先生はポロッとこぼした。
「方法がないわけでもないけどな」
 僕はしつこく聞いたけれどその方法を先生は教えてくれなかった。

 母さんはずっと元気がなく病院を退院できないでいた。お医者さんが言うには「心が沈んでいるせいで体のほうも弱っている」そうだ。それはどう考えても僕のせいで僕は先生の前で啜り泣いた。
 すると先生は自分の体を僕にこすりつけてスリスリとなでてくれるのだ。そうされると僕は不思議と落ち着いた。
 先生は優しいのだ。僕の話をいつも聞いてくれるしなぐさめてくれる。僕は先生と出会えて本当に良かった、と心から思っていた。
 しかし、ある日のこと先生がどこを探してもいないのだ。いつの間にか勝手に成仏でもしたのかと心配した僕は空中を必死に飛びまわり、名前も知らない街の路地裏でようやく見つけることができたのだ。
「先生」
 叫んだはいいが声が届かないらしい。一体、何をしているのかと思ったら、先生はどうやら男の人をつけているようだった。
 次の瞬間、先生はすぅっと男の体に入り込んでしまったのだ。
 男は一瞬、地面に躓いてしまったがすぐに立ちあがり、驚くことに僕を睨みつけてきたのだ。
「なんや、チビ見てたのか」
「先生なの?」
 驚く僕に生きている男の姿をした先生が話しかけてきた。
「黙ってたけどな。実は俺、悪霊なんや」
 思いがけない告白に僕は息を飲んだ。
「本当なの?」
「前に生きた人間に触れたり話をする方法があるって言ったやろ、それがこれや。悪霊は生きた人間に憑りついてそいつを操れば色んなことができるんやで」
 人に憑りついた先生はなんだか雰囲気がいつもと違って、まるで先生じゃないみたいだった。
「ぎょうさん悪さしたで」
「嘘でしょ。やめてよ先生」
「嘘やない。俺は悪人じゃ」
 突然、先生は走り出してしまった。僕は慌てて後を追う。
「まって先生」
「嫌だね」
 先生が走り着いたのは母さんのいる病院だった。僕は先生が何をしようとしているのか全然わからず寒気がした。
 入り口から飛び込んできた先生に対して病院の人達が不審な目を向けたが、先生は気にせず階段を駆け上がっていき、まっすぐ母さんの病室へ向かった。
 病室にいる患者達は一斉に驚きの声をあげ、母さんは不審な男を見て固まってしまった。
 先生はニヤリと笑い、追いついた僕は悲鳴をあげた。
「何するの、やめて」
 先生がすぅっと息を吸う。
「ごめんなさい」
「えっ」母さんも僕も困惑した。
「泣かないで」
「一体なんですか?」
「チビが言うとるんや。あんたのそばでいつも言うとるで」
 のうチビ、と先生が僕のほうを見てきた。
「早う元気出せ。あんたがそんなんだからチビは安心できんのじゃ」
 病室にお医者さんや警備員さん達がなだれ込んできた。取り押さえられた先生は床に捻じ伏せられ「痛てぇ」と呻き声を出す。
「チビはあんたのこと恨んでおらん。ずっと見守ってる」
「チビて誰なんですか」
 病室の外に引きずり出されながらも、先生は身をよじって精一杯の大声をあげた。
「決まってるやろ、あんたの子供や」
 それを聞いたお母さんは唖然として虚空を見つめた。
 その直後、先生は男の体からスポッと抜け出し、そのまま窓の外へ飛び出した。人魂が空を目指して飛んでいく。
「まって」先生は僕の声でとまってくれない。
 先生が笑う。「正体がバレたら一緒にはおれん。じゃあのチビ。これからも母ちゃんのこと見守ってやれ、約束や」
 おさらばや、と消えた先生にもう会うことはなかった。

 僕は先生にもう一度会いたかった。けれど先生は悪霊だからおいそれとまた僕に会ってくれるかわからない。なので寂しいけれど仕方がない。
 だからせめてもの想いで僕は今日も先生との約束を守っているのだ。
 母さんや父さん、そして、産まれた妹の頭の上をくるくる飛んでいる。


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