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みやさん

写真と物語の融合、写真物語家を夢見ています。 マイペースで更新中。Twitter➪@miya_ayim

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伝えたい言葉が空に舞い上がる

18/10/22 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 みや 閲覧数:83

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その桜の木を目指してたくさんの人達が小高い山を黙々と登っていた。その人達の中には若い人もいれば高齢者もいて、皆んなそれぞれに誰かに伝えたい言葉を抱えながら山の頂上にあるその桜の木を目指していた。

私の少し後ろを七十歳くらいのお婆さんが杖をついて登っていた。標高144メートルのなだらかな山なので一時間弱で頂上に着くと言っても、高齢者にとっては辛そうで私は大丈夫ですかと声を掛けて手を引いてあげた。ご親切にありがとうございますと言ったお婆さんの年齢や背格好が私の母に似ていて、私は切なさで胸が苦しくなった。三十分程登った小高い山の途中に茶屋があったので、私はそのお婆さんとその茶屋で休憩をとる事にした。

「主人が半年程前に亡くなりまして、この山の桜の木の噂を聞いてやって来たのですが、山登りは私のように足の悪い年寄りには少し堪えますね」
「私も母が半年前に亡くなって…」
母の事を話し始めると母が死んで半年経った今でも涙が出そうになるので、私はそれ以上言葉を続ける事が出来なかった。何故だろう?母が亡くなってしまって半年。悲しさは減るどころか増す一方だった。

「まだ心がお母さんが死んでしまった事を受け入れられないのね。私もそうですよ。主人が使っていたお茶碗や洋服を見ると悲しくなって涙が出るし、夢に出て来たりしたら、もう…苦しくて。なんで死んでしまったの、会いたい、もう一度会いたいっていつも思っていますよ」
「私もです…」
目の前に温かいお茶と桜餅が出されて、母が桜餅が好きだったな、と喉の奥が熱くなった。もっと食べさせてあげたかった、もっと親孝行してあげれば良かった、もっと色んな事を話しておけば良かった、もっともっと…時間は嫌と言う位にあったはずなのにー
今、母に会いたかった。とても会いたかった。会ってくだらない話しをして桜餅を食べて…そして最期迄伝えられなかった言葉を母に伝えたかった。

山の頂上のその桜の木にはある伝説があった。桜の花の散り際に、風で空に舞い上がるその桜の花びらに亡くなった人への伝えたい言葉を念じるとその言葉が亡くなった人へ届くという。私は霊的なものやスピリチュアルな事に全く興味が無いし、正直信じてもいない。その桜の花びらが私の母へ伝えたかった言葉を母に届けてくれるとも思っていなかった。けれど、ここへ来ずにはいられなかった。例え母に届かなくても、そうする事で私の心が少しでも穏やかになれるのならば。

茶屋を出て私とお婆さんは手を繋いで山の頂上を目指した。お婆さんの手は皺々だったけれどとても柔らかかった。
「母の手に似ています」
「そう?お母さんの手もよく繋いであげてたのかしら?」
「いいえ…もっと優しくしてあげれば良かったと後悔ばかりしています」
「私もですよ。感謝しているのに口を開けば喧嘩ばかりしていたわ」
「私もです」
私とお婆さんは顔を見合わせて笑った。二十分程で山の頂上にたどり着いた。先に到着した人達が桜の木の下に集まっていて桜の花びらが風で空に舞い上がる瞬間を待ち侘びている。頂上の桜の木の花びらはユラユラと風に吹かれて揺れているけれど、風が弱いので花びらはまだ舞い上がっていなかった。準備は良い?とお婆さんは言った。すると突然びゅっと風が大きく吹き、桜の花びらが一斉に空に舞い上がった。私は空に舞い上がる桜の花びらに向かって念じた。

お母さんごめんね、ありがとう。

母に届くと良いのだけれど、そう思うと涙が溢れた。すると、何処からか母の声が聞こえた。

いつまでも泣いてちゃダメよ。

たくさんの桜の花びらが空に舞い上がって行った。たくさんの人達の伝えたい言葉を乗せてー

「お母さんに伝えたい言葉は届いたかしら?」
「はい…届いたと思います。母からの言葉も伝わってきました」
「私もですよ。もうすぐ私もそちらに行きますからね、と伝えたら、まだしばらく一人でいたい、ですって」
お婆さんは嬉しそうに笑って、その瞳は涙でキラキラと光っていた。私はお婆さんの手を取った。
「来年もまた一緒にここに来ましょう」
「もちろん、喜んで」


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