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むねすけさん

ブログで創作をやっていましたが、誰にも相手にしてもらえないため、こちらに辿り着きました。 面白い物語、少しほっとしてもらえるようなお話を書きたいと思っています。

性別 男性
将来の夢 作家になりたいですが、 それが無理でも、何かの原案家とか、 自分の考えた物語が世に出ること。
座右の銘 我思う、故に我在り。

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言いたいことはひとつだけ

18/10/22 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 むねすけ 閲覧数:117

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 雲坂家の遺影がガタガタとなる。
 痛打した肢足の欠片を脱いだ靴下に探し続けるかのような虚空でこそあれ虚構ではない微細だがビサイドユーな揺れである。
「お爺ちゃんが呼んでる」
 雲坂春香、雲坂家の長女が一番に反応する。雲坂十吉が大往生したあの日からいつか呼ばれる日のために遺影と視神経を固結びしておいたからだ。
「うっふっふー、目がくすぐったいぜ、お爺ちゃんわかったわかった」
 春香は瞳孔に最後のバタフライを教えてやりながら家族を招集する。首が長すぎてジラフとあだ名されて泣いた過去なんかもう忘れてしまったかのような力強さで。
「なんだよ、姉ちゃん」
 雲坂良太郎、雲坂家の長男は伸び始めた襟足に数匹のカメムシを飼って登場する。
「春香ちゃん、なぁに」
 雲坂綿子、雲坂家の母は割烹着に英数字を転写するかしないか右手と左手でジャンケンの途中。
「春香!! とーう」
 雲坂渉、雲坂家の父は垂直跳びの記録保持者だ。雲坂家内の。
「よし、みんな集まりましたね。あ、良、めっ」
 リビングを雲坂家は「テレビの部屋」と呼んだ。集まった四人は天板の重いこたつ机に四面で座る。八個の膝がニードルになって絨毯を解いては編み直し始める。UFOのヘリポートになる予定。
「えー、カメムシ、ダメ?」
「うん、め」
「ちぇ」
 良太郎がカメムシを解放してやると、なんでか父渉が正座のままジャンプする。カメムシの頭数分、七回。ぜいぜい言っちゃって。かわいい父。
「集まってもらったのは他でもありません」
 春香は家族一人一人に瞳孔のバタフライをドルフィンにキックさせながら飛沫を散らせる。
「わかったよ、姉ちゃん」
「わかったわよ春香」
「とーうとう了解だ」
 雲坂家はわかりが早い。助かる。
「じゃ」
 春香は先を語る。語らない地蔵にはお供えがないことを知っている。懸念するのはお盆ぐらいまで、のつもりもない。
「お爺ちゃんが呼んでいます。ということで、誰が行きましょうかってこと。大丈夫、黄泉平坂への行き方は仕入れてきましたから」
 姉という生き物は仕入れてくる生き物である。電子レンジの活用法も、冷凍庫の増設方法も、臍から生えた蔦の抜き方も。なんだって何処かから仕入れてくる生き物なのです。
 春香の語りを受けて、家族三人は頭を巡らせる。
(爺ちゃんが呼んでいるのはきっと俺だな。あのお金、良太の自由にしていいぞってことだろう。貸しがあるもんな)長男はカメムシの首裏を撫でながら悦に入り、
(呼ばれたのは私ね。お父さんにはきっと外に兄弟がいるって思ってたのよ)母はオンボロドラマの内情を焼き鳥にしてかじりつき、
(とーうとう、この時がきたか、父さんが捨てた変身ベルト、継ぐのだな。ポーズは大丈夫。練習一日万回で満開に咲いています。ああ、お父さん)父は口癖のとう、を心音に常備してうっとりした。
(みんな、きっと好き勝手思ってるんだろうな。お爺ちゃんは私を呼んだのよ。あの写真の処分を頼むつもりよね。一回こっきりのいけない遊び)春香はいつか自分の下着を身につけて深夜の公園をスキップしたお爺ちゃんを思い出して笑う。
 雲坂家四人の思惑が絨毯の生まれ変わりを寸間遮断して、家族会議は白熱した。
「黄泉平坂って場所あるんじゃないの? 神社みたいな」
「ちっがうよ良、半分半分、もちつもたれつ、死んだお爺ちゃんは半分生まれて、生きてる我々は」
「半分死ぬ?」
「そう」
「やっべぇ」
「やっべえぐらいいとうていては黄泉平坂なんて思いもよらない奇想天外地に行けるものですかってんだのラブミーテンダー、ドーナツちょうだい」
「誰が半死するの?」
「私よ」
「とーう」
「お母さんです」
「なんなの、みんな、俺みんなが怖いよ。だから俺にやらせて」
「わかりました!!」
 春香の平手が三人に均一に飛ぶ。ケーキの大きさの次に揉めるから、気を使った。春香の提案で家族麻雀大会が催される。勝利者は敗者三人に首を絞められる。半死を得て、黄泉平坂の坂道は傾斜がケーキの角度と一致しているだろう。
「行ってくるわ」
「良、お爺ちゃんに何を言われても動揺しないでね、気をしっかりもって」
「良ちゃん、大役しっかりね。お爺ちゃんはきっとお母さんじゃなくて言いづらいだろうけど」
「良太郎、お前にも受け継がせるから、巻くのはお父さんが先だからな」
 雲坂家の勝手な思いを胸にしまうこともせず、良太郎の意識は容赦のない握力で非科学的な幾何学模様に埋まっていった。
「良、良」
「良ちゃん」
「良太郎、とう?」
 黄泉平坂でお爺ちゃんとの対面を果たした良太郎は言った。
 雲坂家の全員が腰を抜かしても、お爺ちゃんの遺影はもう二度とガタガタいわなかった。
「大往生だったから言い忘れたってさ」
「うん」
「うん」
「とう」
「ありがとうって」


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