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首相補佐官の憂鬱

18/10/22 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 みーすけ 閲覧数:113

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「博士、首相より伝言です」

 首相補佐官は遠慮がちに言った。博士への伝言をことづかってきたはいいが、その博士は傍から見ても忙しそうに動き回っていた。

「博士、首相より伝言です」

 意を決して大声を張り上げると、博士はようやく気づいたようだった。

「何だね、一体」

 手を止め、博士が尋ねる。

「例の物の開発を急げ、とのことです」
「ふん、政治家らしい物言いだな」

 博士は憤慨を隠さなかった。補佐官にもその気持ちはわかる。政府から極秘裏に依頼された、小型核弾頭。その開発は順調に進んでいるようだが、こうせっつかれてはたまらないだろう。
 補佐官が困っていると、博士はため息を吐きつつ言った。

「首相に伝えてくれ、実験が必要だと」

 ***

「実験だと?」

 博士からの伝言を聞いた首相は気色ばんだ。

「馬鹿なことを言うな。核実験などしたら、世界中に宣伝するようなものだ。完成する前に攻め込まれて、この国は終わりだ」
「しかし首相、博士は実験なしに必要なデータはとれないと」

 一応、そう進言する補佐官。補佐官は補佐官で、板ばさみ状態に苦しんでいた。

「科学者ならなんとかしろ。我が国にはどうしても核が必要だ。しかし、実験を行うことは許さん」

 ***

「無茶な!」

 博士は声を荒げた。

「首相は何もわかっちゃいない。実験は必須なんだ。実験なしに核はつくれない!」
「何とかしろ、とのことです」

 補佐官は同じ言葉をオウムのように繰り返すしかない。自分でもうんざりしていた。

「無理だと言っているだろう。そもそもこの短期間でここまで漕ぎ着けられただけでも奇跡だというのに……。首相は……首相は馬鹿なのか?」
「口をお慎みください」

 補佐官が制する。いくら博士でも、これは言いすぎだ。自国の首相を馬鹿呼ばわりとは、許されることではない。
 でも、まてよ? 補佐官の頭にちらりと疑問がよぎる。もしかすると、首相は本当に……?
 補佐官は考えを振り払うように首を横へ振る。同時に博士が叫んだ。

「いや、馬鹿だ馬鹿だ、大馬鹿だ! コンピュータ上の計算だけで核は作れないのだ。少なくとも現代の科学では無理だ。どうしても実験データが必要だというのに…………」

 補佐官は言葉を見つけられずにいた。すると、博士がぽつりとつぶやいた。

「まてよ……?」
「何か名案が浮かんだようですね」

 ほっとした様子の補佐官。早くこの行ったり来たりの伝言ゲームを終わらせたい。補佐官の願いはそれだけだった。首相が馬鹿かどうかは、もはやどうでもいい。

「紙とペンをくれ」

 博士は、補佐官から紙を受け取ると、その上に何かを書きつけ始めた。
 そして数分後、こう言った。

「これを持って行け」

 博士の顔には微笑が浮かんでいる。補佐官は嫌な予感がした。

 ***

「どうだ? 実験なしでいけるか?」
「そのようです」

 博士から受け取ったメモを首相へ手渡す補佐官の顔には、疲れがにじんでいる。

「そうか!」

 首相はほくほく顔でメモに目を通した。しかし、みるみるうちに顔つきが変わっていく。首相のその渋面ときたら……苦虫を噛み潰すとはこのことだろう。
 博士のメモには、こうあった。

「こうなったら実験無しでいきましょう。
 ただし、その場合核はおそらく機能しません。だが、それは構わないでしょう。核の力とは、とどのつまり抑止力だ。実際に使われることは、ほぼない。
 ただ懸案事項は、実験もしていないのに核が完成した、と言ったところで、他国がそれを信用するかどうかですが…………
 これも問題ありません。だってそうでしょう。私のような馬鹿者にはとても信じられませんが、首相ほどの切れ者になると、それが信じられるようですから」

 うなり声を上げ、首相は黙り込んでしまった。
 補佐官は、それを憂鬱そうに見守っていた。


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