そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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帰還

18/10/22 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:2件 そらの珊瑚 閲覧数:143

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 小学校からの帰り道、僕は鳩を拾った。

 道端で横たわっているそいつを最初に見た時、死んでいるのかと思った。
 しゃがんでおそるおそる、その白い羽に触れてみる。鳩は小さく「クルックルー」と鳴いた。
 鳩は生きていた。
 どういう理由で、こんなところにいるのか分からなかったが、鳩がひどく弱っていることだけは確かだった。このままにしておけば、野犬にやられるか、そうでなくても死んでしまうだろう。
 僕はそっと鳩を胸に抱き上げた。その拍子に数枚の羽毛が舞い上がった。「くしゅん」僕はくしゃみした。鳩は驚くでもなく、されるがまま、じっとしていて大人しかった。真白なきれいな鳩だった。

 母は予想通り、鳩を抱いて帰宅した僕を見て眉をひそめた。
「アレン、今度は何を拾ってきたの? うちは動物園じゃないのよ」
 家に僕が拾ってきた三匹の犬と二匹の猫がいる。
「鳩だよ。道に落ちてたんだ。弱ってて飛べないみたい」
「じゃあ、今夜のおかずにしましょうか。鳥肉、好きでしょう」
「えっ」
「なーんてね、冗談よ」
 時折母さんは笑えない冗談を言って僕を困らせる。「父さんは天国へ行ってしまったの。もう帰ってこないわ」いつだったか昔、母さんが言った言葉をおぼろげながら覚えている。あれも冗談だったらいいのにな。
 僕は段ボールの中に古いタオルを敷き、その中にそっと鳩を寝かせた。
「あれ? 鳩の足に何か付いてる」
 鳩の足に縛ってあった赤い布を取ってみると、中から小さな紙きれが出てきた。広げてみると数字がいくつか書いてあった。
「なんだろう、これ」
「さあ」
 母さんにもわからないらしい。
 ◇
 週末は、母と一緒に祖父のいる老人施設に行った。一年前、足を悪くして歩けなくなった祖父は自ら進んでその施設に入った。母は反対したが、祖父の意志は固かった。祖父は父の親であり、血のつながりのない母の世話になることが気兼ねに思っていたらしい。
 それでもたまにこうして尋ねると、祖父は今まで通りの笑顔で僕たちを迎えてくれる。
「おじいちゃん!」
「おう、アレン。元気だったか。もうすぐ誕生日だろう。いくつになったんだ」
「もう十二歳だよ。来年は中学生になる」
「そうか、そうか。長生きして良かったと思うことはたったひとつだけだ。おまえの成長を見られることだ」
 ふいに鳩のことを思い出し、祖父に話してみた。
 話を聞いている祖父の顔がだんだんと険しくなっていく。
「おじいちゃん、どうかした?」
「その鳩は今、どうしておる?」
「まだ家で生きてるよ」
「おじいちゃんをその鳩に会わせてくれ、お願いだ」
 
 そしてその日、祖父は外泊の許可をもらい、我が家に家に帰ってきた。

 祖父に鳩の足に縛ってあった紙を見せる。
「これは。まさか。こんなことが……」

 祖父は紙を見て泣いているようだった。

「おじいちゃん、その紙、何なの?」
「これはおじいちゃんが書いた伝令だよ。昔、この国が戦争をしていた時、数字の暗号にして味方の陣地に送ったものなのさ。おじいちゃんの育てた伝書鳩の足に結んでね」
「何て書いてあるの?」
「エングン タノム。だけど援軍は来なかった。おそらく味方には届かなかったのだな。おじいちゃんは奇跡的に生き残ったが、多くの仲間は命を落とし、戦争に負けた。いや、たとえ伝令が届けられていたとしても、戦争には負けていただろうさ。我が国にはそんな余力は残ってなかったんだ」

 不思議な話だった。

 僕が拾った鳩が、祖父の伝令を足に結んだその鳩だとしたら、戦争が終わって七十年あまり鳩は生き続けたことになる。鳩がそんなに生きるものだろうか。
 戦争なんかとっくに終わっているのに、鳩にとっては戦争は終わっていなかったということだろうか。

 だけど戦争なんかもともと鳩にとってはどうでもいいこと、というより関係のないことじゃないか。

 鳩はただ飼い主のおじいちゃんのもとに再び帰りたかっただけなんだ。

 おじいちゃんは鳩を胸に抱き、「もう戦争は終わったよ」と言った。まるで鳩に話しかけるような優しい声で。
 鳩は、おじいちゃんを見上げて「クルックルー」と愛くるしい声で鳴いた。

 

 


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このストーリーに関するコメント

18/10/22 泡沫恋歌

そらの珊瑚さま、拝読しました。

戦争中は軍用の伝書鳩がかいて、戦地で活躍したと聞いています。
その鳩にとって飼い主のおじいさんと会えなければ、戦争が終わらないのと同じだったのでしょう。

18/10/25 そらの珊瑚

泡沫恋歌さん、ありがとうございます。

伝書バトの歴史は古く、紀元前から使われていたともいわれているようです。
日本でも50年くらい前には、新聞社の家屋の屋上で飼育していてニュースを運んでいたとか。

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