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小高まあなさん

鳥と怪異と特撮ヒーローが好き。 ひねくれつつも清々しい物語がモットー。

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留守番電話は起爆剤

18/10/22 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 小高まあな 閲覧数:109

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 目覚めたとき、最初にすることは枕元のケータイに手を伸ばすことだ。時間を確認するために。
「あれ……」
 ところが、ケータイに電源が入っていなかった。充電して寝るの忘れたんだっけな。そう思いながら、ケーブルを引き寄せて、ケータイに繋ぐ。
 段々意識がはっきりしてくる。そうだ、昨日は仕事が思ってたいよりも長引いて、っていうかここ数日ずっと午前様になってて。帰ってきて、かろうじて風呂入って、そのままベッドにぶっ倒れたんだ。記憶がない。そりゃあケータイ充電するのも忘れるわな。
 でも、なんとか昨日全部片づけたし。だって今日は久しぶりの茗ちゃんとのデートだし。
「って、今何時だ?!」
 リビングに飛び出し、時計を確認する。
「ぎゃっ」
 待ち合わせ時間を一時間過ぎている。適当に服を着て、顔を洗って、モバイルバッテリーを取り出し、ケータイの充電を再開。部屋を飛び出した。
 走りながら、ケータイを起動。メールと着信がそれぞれ、カノジョから入っていた。留守電も一件。恐る恐る再生すると、
「いつものところにいるから、来ないなら来ないって連絡しなさい」
 うわぁ、怒ってる。当たり前だけど! っていうか、来ない前提で話進めないでっ!
 悲しいかな、遅刻常習犯の俺は今度こそフラれるんじゃないかという不安から、猛ダッシュで路地を駆け抜ける。大通りから一本中に入った、茗ちゃんのお気に入りの喫茶店に飛び込んだ。
 店内を見回すと、立ち上がりかけた茗ちゃんの姿がそこにはあった。危ない。まだ帰ってなかった。セーフ。
 両手を合わせて頭を下げると、彼女は唇だけで何かをつぶやいて、また椅子に座った。あっきれた、とでもいったところか。でも、向かいの椅子に置いてあった鞄を自分の方に引き寄せたので、俺をあの椅子に座らせてくれる気はあるらしい。
 顔なじみになったマスターと、
「アイスコーヒーと、あったかい紅茶と、フルーツタルトをお願いします」
「かしこまりました」
 こそこそと会話を終えると、茗ちゃんの前に座る。
「ごめん」
「言い訳をどうぞ」
「寝坊しました。ケータイも充電切れてて」
「あっきれた」
 今度は口にだしてそう言われた。いや、自分でもあきれてるんだけどさ。
 マスターが頼んだものを、持ってきてくれる。俺の前にアイスコーヒー。紅茶とケーキは茗ちゃんの前に。茗ちゃんは何か言いたげな顔を一瞬して、でも俺には何も言わずに、タルトを食べ始めた。
「ごめんね?」
「忙しいなら、別にいいのに」
 淡々と言われた。やばい、怒ったりあきれたりするのを通り越して、もう会わなくていい系? 別れ話?
「仕事、忙しいんでしょ? どうせ昨日も遅かったんでしょ? 別に無理しなくていいのに、ってこと」
 なんだ。そっちか。心配してくれているのか。ちょっと安心。
「茗ちゃん、優しいね」
 遅刻した俺が100パーセント悪いのに、怒るのは当然なのに、冷たい言い方をしてしまった自分が嫌になっている。そんな彼女は、とても優しい。
「無理なんかするわけないじゃん。俺がどんだけ面倒だったり大変だったりすることが嫌いか、知ってるでしょう? あと、仕事で寝坊って信じてくれるのがいいよねー。深夜までエロ動画見てて寝坊しただけかもしれないじゃん」
「そんな理由で、アホと付き合っているつもりはありません」
「でも、よかったー、ふられるのかと思ったよ、俺」
「そうね。何回目の遅刻かわからないしね。一時間半の遅刻に、あら今日早いじゃない、とか思っちゃったもんね」
「ごめん……」
「もういいよ。それより、食べる?」
 半分に減ったタルトをしめされる。今回のこのくだりはこれで終わり、の合図。彼女の優しさに甘えている自覚はあるが、せっかくの休日をこれ以上浪費するのも彼女の本意ではないだろう。反省はします。めちゃめちゃ。
「あとさ、慌てて来なくていいから、連絡して。そしたらちゃんと待ってるから」
 そうか、ダッシュする前に連絡するのが普通か。テンパってしまった。残された伝言が、別れ話間近っぽくって、ビビったのだ。
「気を付けます。遅刻しない方向で」
「無理だと思う」
「信用がない!」
「なんであると思うの? 最長遅刻記録何時間だかわかってる?」
「……四時間です」
「でしょう?」
 でも、その四時間も彼女はちゃんと待っていてくれたのだ。というか、申し訳ないのは、
「ごめん、心配かけて」
 相手が連絡なしに来ないのは、心配だ。多分、待っている段階では怒りよりもそっちが大きいだろう。何か、あったんじゃないかって。
「……ほんとね」
 彼女はちょっとあきれたような顔で笑う。
「わかってるならいいや。とりあえず、目覚まし時計でも買いに行きましょうか」
「そうですね」
 めっちゃ強力なやつ買おう。言いながら二人で立ち上がった。


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