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クナリさん

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将来の夢 絵本作家
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消し炭になった畑中君はゴミじゃない

18/10/22 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:4件 クナリ 閲覧数:524

時空モノガタリからの選評

テーマをうまく生かしながらいじめにあった者たちの内面を丁寧に描き出していて、強い印象を残す作品でした。焼却炉の炎と熱が彼らの怒りと悲しみを代弁しているようで、さらにそれが「ゴミ」というあだ名とも重なっているために、説明的ではなく読み手に直接訴えてくるものがあると感じます。登場人物の発言にもそれぞれリアリティを感じました。「生きていたいけど死にたい」という、矛盾した感情を抱かざるを得ない状況には胸がいたみます。悲惨な状況であるはずなのに、不思議とどこかエンターテイメント性やユーモアさえも漂わせているようでもあり、そのためか重くなりすぎず読後感がサラリとしているのが印象的でした。

時空モノガタリK

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 私の高校一年の冬は、中学までとあまり変わらなかった。
 つまり、迫害はされても友達はいない状態だ。

 十二月一日の放課後、関東ならでは穏やかな寒さの中、私は校舎の裏にある焼却炉を目指した。
 ゴミの残り火がくすぶっている間は、その真後ろにいると、人目にもつかず暖かく過ごせる。
 しかし、寒風の中焼却炉に着くと、いつもと様子が違った。
 焼却炉は私の胸くらいの位置に開口部があり、その下部は石でできている。石に載った鉄製の窯のサイズはそこそこ大きく、開口部をくぐれば人間の二三人は入れそうだ。
 その開口部から、人間の頭が出ている。
 私は短い叫び声をあげた。
 人が窯の中に入っていて、首だけを出しているのだ。
「やあ。君は同じクラスの飯島クチカさんだね!」
 首が朗らかに喋った。確かに同じクラスの、畑中キタロウという男子だった。
「畑中君は……なぜ焼却炉に入っているの?」
「僕はいじめられっ子だからね! これもいじめの一環さ! 君はなぜここに?」
「ひとりになれると思って」
「なぜひとりに?」
「友達がいないから」
「いないのか。なぜ?」
「いじめられっ子だし」
 少しの間、私たちは沈黙した。
「飯島さん。お互いの中学の時のあだ名を一斉に言おう」
「ばい菌」
「ゴミ」
「そう」
「君の今のクラスでの立場は?」
「ほぼばい菌」
「僕もほぼゴミ。この有様だ。いじめのリーダーは不良の郷田君だ。誰も文句が言えないし、たとえば彼が油断したところを後ろからトンカチでこめかみに全力殴打し、結束バンドと猿轡でもかまさない限り無力化できない」
「そう」
 また沈黙。
「……飯島さん。嘘をついたり、答えないということが、できないんだね。また、興味のないことで会話することもできない」
 その通りだった。
 そして私のその性質は、小学校の頃から、クラスのおもちゃにされる理由として充分だった。

 中学生の時、私がされている行為はいじめではないかと、破れたスカートにずぶぬれの教科書を持って教頭先生に相談した事がある。
 教頭先生は、「いじめっ子がいてクラスを取り締まるというのは社会の縮図であり、ひとつの社会勉強なのだ。君の役割にも意味がある」と教えてくれた。
 私は、自分が「最下位役」として教室の秩序を守っているということを初めて知り、誇りに思った。
 人とは違う役割でも、皆違って、皆いいのだ。
 でもなぜか、その日の夜は胸がどきどきして眠れなかった。
 高揚のためではなく、心臓が動いていることが妙に物悲しくなるような、不思議な動悸だった。
 そのような誇りと動悸を胸に抱いた私の誤算は、いじめが中学で終わりではなく、高校でも続いたことだった。

「私、一生こうなのかしら。生きてるって、死ぬよりずっと辛いのね。私、生きていたいけど死にたい」
「……変えたい?」
 今までどこかヘラヘラとしていた畑中君が、急に真顔になった。
「何を?」
「運命」
「変えたい」
 私は即答した。
「僕は変えた。でも、その方法は君にはお勧めしない」
 それはどんな方法? と聞こうとした時、大ぶりな焼却炉と、そこから延びる煙突が、やけに不気味に見えた。
 黄昏前の夕焼けが、赤黒くそのシルエットを映している。
「さよなら、飯島さん。今日はもうお帰りよ」
 その時、悲鳴が聞こえた。
 猿轡でもされているかのように、妙にくぐもっている野太い叫び。
 そしてその声は、畑中君の方――焼却炉の中から聞こえている。
「帰るんだ、飯島さん」
 そう言って、畑中君が奥へずるずると引っ込んだ。
 つられるように焼却炉の扉が閉まる寸前、その向こうに、赤い揺らめきが覗く。
 ますます高まる悲鳴の間を縫って、畑中君の静かな低い声が、黒い扉の向こうから響いた。
「僕はゴミになるが、君はばい菌ではない」
 焼却炉の熱が私の頬に伝わってくる。
「僕らは同じではない。同じようでも皆違う。同じような君と僕も、違う」
 煙突から煙が出始めた。更に大きくなる悲鳴。
「君はばい菌ではない」
 それきり、悲鳴も畑中君も、静かになった。

 彼らが燃え尽きる頃、学校は大騒ぎになった。
 先生たちが鎮火させた後、私は焼却炉の中のふたつの焼死体のうち、畑中君を引きずり出した。
 炭化し、脆くなってちぎれた首を両手で掲げた。
 そして、
「畑中君はゴミじゃない!」
と叫ぶ。
 これだけは学校に知らしめなくてはならなかった。
 しかし、凄まじい形相をした先生がこの手から畑中君をもぎ取り、私を突き飛ばした。

 私は地面の上を転がった。
 悔しくてうめいた。
 誰も私の話を聞いてくれそうにない。
 畑中君がいてくれたらよかったのにな――と、転んだせいで切った唇についた砂を払いながら、私は思った。
 宵闇の中、指先の血が赤かった。


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このストーリーに関するコメント

18/10/23 タック

拝読しました。
どこかコミカルな会話と情景から希望の残るエンドになるのかな……と予想していましたが、思いがけない展開でした。
明るさから暗さへ。
その二千字での空気の転換がとても自然で、見事だと感じました。
面白かったです。

18/10/25 クナリ

タックさん>
ご無沙汰しております!
相変わらずのひどい話なのですが(^^;)、こうと決めたらやり切ってしまう変人が、拙作には多いような気がします…。
コメント、ありがとうございました!

18/10/27 雪野 降太

拝読しました。
主人公の歪み具合が空恐ろしくもありました。また、この経験こそが彼女の内奥に渦巻いている鬱屈とした何かを引きずり出すきっかけになるのだろうという予感がひしひしと伝わってきました。飯島さんがこの先選ぶことになる、運命の変え方があるいはより凄惨な結末を向かえるのかもしれません……
学校にあった焼却炉が懐かしいです。

18/10/28 クナリ

凸山▲さん>
最近ではあまり使用されなくなってきたという焼却炉ですが、私は結構作中で活用してしまいます(^^;)。
奇妙な二人の出会いと別れでしたが、これからまた別の邂逅により、運命は変わっていくことと思います。
コメント、ありがとうございました!

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