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風宮 雅俊さん

テーマに沿った物語を、どのくらいのレベルで書けるかな? と言う事で登録してみました。 アマゾンの電子書籍キンドルで作品出してます。こちらも宜しくお願いします。 ツイッター: @tw_kazamiya

性別 男性
将来の夢 世界一周の船旅で、船室に籠って小説を書く事
座右の銘

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ひみつ

18/10/22 コンテスト(テーマ):第162回 時空モノガタリ文学賞 【 あだ名 】 コメント:1件 風宮 雅俊 閲覧数:140

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 休日で賑わう、ショッピングモール。行き交う親子連れもみんなウィンドウショッピングを楽しんでいる。

 !

 ベビーカーを押しながら来る夫婦・・・・。そう、あの時はまだ子供だった。他に説明出来る言葉はなかった。


     〜 ・ 〜


 中学校の生活に慣れてくると、小学校の時と女子との距離感が違う事に誰もが気付くようになっていた。
 クラスの中では相変わらず男子グループと女子グループがあり反目をしていた。掃除の時は別々に、一緒にした方が早いと分かっていても一緒に掃除をしてはいけない。それがお互いの掟だった。
 グループでの掟はそうだった。でも、先輩が女子と肩を並べて帰る後ろ姿にいつかは自分も同じようになれるのかと憧れを持って見ていた。同じように女子も先輩の後ろ姿を見ていたのだった。
 そして、僕は先輩に近づいたと思った。そう思えた相手は同じクラスの女子だった。

 彼女を意識したのは一学期だった。身内の不幸と言う事で一週間ほど学校を休んだからだった。そして、僕の中で彼女は遠い席に座る別の班のクラスメイトになっていった。
 次に彼女を意識したのは、席替えで隣の席になってからだった。ただ、僕が彼女を意識するようになったのは、隣の席になったからではなかった。時折見せる寂しそうな眼差しに気がついてしまったからだ。多分、他のクラスメイトは気づいていない。なぜなら、彼女は普通に振る舞っていたからだ。普通にお喋りをして、普通に笑い、普通に冗談を言っていたからだ。
 だから僕も・・・・、だから僕は、何気ないお喋りの時も家族の話にならないように細心の注意を払っていた。

「そんなに気を使わなくても大丈夫だよ」
 あまりにも唐突だった。そう言う流れのお喋りはしていなかった。だから、彼女に言われた時にはショックだった。僕のぎこちない気遣いが彼女を傷つけていたのだった。
 でも、それからだった。彼女との距離感が変わったのは。

「ねー、ニックネームをつけない?」
 彼女からの提案だった。名前からつける在り来りではなく、他の人が分からないつけ方がいい。と彼女は付け加えた。
「いいよ。それじゃ、星座は?」
「蟹座よ」
「そっか、それなら蟹座だからカニさんだね」
 ちょっと不満そうだった。
「それなら、何座なの?」
「天秤座だよ」
「え、私が海のものでカニなら、イカさんね」
 お互いに、ちょっと不満。でも嬉しかった。


 二学期も中ぐらいを過ぎていたけど、相変わらず男子グループと女子グループの反目は続いていた。まだ小学生気分が抜けないクラスだったからだ。
 僕たちもグループから抜けられないでいたものの、後ろの方で彼らを見ている事が多くなっていた。そして、クラスメイトの隙間を抜けるように、一言呟くとアイコンタクトをした。
 廊下ですれ違う時も、
「カニさん」
「イカさん」
 お互いに一言呟くと、アイコンタクトをした。周りにいるクラスメイトは気がつかない、二人だけの『ひみつ』だった。
 あの頃は、そんな二人だけの時間を過ごす事で嬉しかった。


 二人だけの時間は、三学期の席替えとともに終わった。新しい席での人間関係が全てのものを上書きしていく。クラスが別々になると、また上書きされていく。
 そして、僕は転校した。彼女も彼女のニックネームも思い出す事はなくなっていた。


     〜 ・ 〜


 そして今、十年が過ぎても彼女を見間違う事はない。僕の中には確信しかなかった。

「カニさん」
 ベビーカーを押す 女性の歩みが一瞬止まった。刹那のアイコンタクト。
「イカさん」
 ただ、すれ違うだけ。他の人が気づく事はない。
お互いの足音が遠のいていく。

「あなた、カニが食べたいの?」
 妻がキョトンとしている・・・。
「あ、そうだね。たまには豪華な外食でもしようか」
 手を握ると、半ば引っ張るように歩き始めた。
 倒れそうになりながらも小走りについてくる。
「わぁ うれしい」
 妻は素直に喜んでくれている。

 僕は妻の肩を抱き寄せた。


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このストーリーに関するコメント

18/10/27 入戸月づきし

拝読しました。
すれ違いざまのひと言、という演出はいつの時代もグッとくるものだと改めて感じさせられました。
一行が感嘆符のみの作品を初めて見たかもしれません。

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