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待井小雨さん

待井久仁子というペンネームで「小説&まんが投稿屋」というサイトで、童話やホラーやよくわからない物語を投稿しています。 ご興味を持っていただけたら、よろしくお願い致します。

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メッセンジャー

18/10/21 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 待井小雨 閲覧数:168

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 神は大いなる力で天地を作り、命を地上に置いて天上には楽園を創られた。
 地上にて稀な魂を見出すとその威光によって刺し貫いた。神の印を受けたものは天で神に仕える僥倖に恵まれる。

 ――であるというのに。
 私は逃亡者である少年と少女を空から見下ろした。
「あなた方に神から言葉を授かりました」
 二人は強く睨んでくる。
「即刻天上に来るように、との仰せです」
 少年が何かを叫んだが、そよ風ほどの音にも聞こえない。地上の小さき者たちは、その声さえも天上の蝶の羽ばたきの音よりもか細い。
 神に選ばれた少女に言葉を向ける。
「神の娘。その魂は神の元にあるよう定められている。糸よりも細い縁など絶っておいでなさい」
 ――嫌です――。
 ――僕も嫌だ。
「……そうですか。お二人の言葉は伝えておきます。けれどその願いが叶うことはないでしょう」
 地上を離れようとしてふと思い立ち、振り向く。
「私の意思に背くなら」
 告げるつもりのなかった言葉を口にする。
「相応の罰があることを覚悟せよ。……そう仰っていましたよ」
 ――構わない。
 神の不興をかう愚かさを思い知るべきと考えたのだが、無意味だったようだ。
「愚かな方たちだ」
 呆れたような、苛立つような心地があった。不快を示しそうになる表情を手で隠す。
「またお会いしましょう」
 安らかなる無を顔と心に纏い、地上を離れた。

 再び地上に使わされた時、二人は森に逃げ込んでいた。神の目から逃れることなど出来ないというのに。
「あなたは稀有な存在であるという自覚はありますか」
 少年から離れて水汲みをする少女に言う。
 ――ありません。
「神に選ばれるのがどれほどのことか、なぜ理解できないのでしょう」
 ――小さい頃から神の娘だと言われて育ちました。家族からすらも距離を置かれていたけれど、私の何が他と違うのか分からず、寂しいばかりでした。
「魂の資質は表面に出るものではありません」
 ――私はずっと私のままでした。寂しいばかりの私でしかありませんでした。
 娘は瞳を閉じる。
 ――意味のなかった私を変えてくれたのはあの人です。初めて心が解かれた。自分の意思で、一緒に生きたいと思ったのです。――大事な人に出会えるのがどれほど尊いことか、分かりませんか。
「何を……」
 ……言うのだ、この少女は。神に見出されることよりも幸福なことだとでもいうのか。
 ありもしない心臓に鼓動を感じ、胸を押さえる。――「自分にだけの何か」に出会えることが、どれほど尊く、かけがえのないことか――。
 ――どうしたの……?
 少女の声に「いえ――いいえ」とその場を逃れた。すぐに少年を見つけて叫ぶ。
「あなた方は本当にこのままでいられると思っているのですか!」
 ――何を怒ってるんだ。
 訝しげに問われて自分の声が苛立ちを帯びていることに動揺する。
「……神の手が下るのはもうすぐです。地上を逃げ惑ったところで無意味だ」
 ――あの子への好奇の視線は避けられる。
 天上に向かったはずの娘が地上にいれば人々は奇異の目で見るだろう。
「神の怒りを買うというこの時に地上の煩いなど……っ」
 ――辛い思いをさせたくないから。……だからやっぱり、彼女を行かせるわけにはいかない。
「神は大いなる方です。それでもですか」
 ――それでもだ。
 その返答に瞑目した。愚かなものたちに心が傾くなど。
「永劫を……、娘が天に来た後は、永劫閉じ込めるよう仰せでした」
 ――僕は?
「地上でただ生きろと。娘のいない人生をただ生きて死ぬよう仰せです」
 ――そんな。
 雷の音が近づいてきた。不穏な気配が立ち込め、少女が少年の元に駆けてくる。稲妻は天より伸ばされる神の腕だ。焦燥が私の心を駆り立てる。
「ほんの一瞬です。光が閃いた時にはもう、あなたは神に掴まれている」
 自分の心の示すものは何だ。私の見つけた「何か」は何だ。
 轟音を立てて雷が空を貫いた。
 ――え……?
 瞬間、二人が目を見開く。二人の代わりに私が稲妻を受けていたからだ。
「――逃げて!」
 神の目から神の手から――逃げて自由のものとなれ! それが望みだ。それが自分の心を動かす願いだ。
 ――でも、神の目からは。
「逃げられません。そのままのあなた方では」
 天のものは次に得る命があらかじめ定められており、天を飛ぶ鳥となることを赦されていた。
 その来世を二人に渡そうと羽根で包み込む。
「……小さな鳥になりなさい。刺し貫かれた魂を捨て、次の命になるのです。つがいとなって共に生き、命を使い果たすまで共にありなさい」
 握りしめるように羽根で守る。
 数度目の雷を身に受けて身がほろぶ一瞬、小鳥の囀りを翼の中に聞いた。

 ……二羽の鳥が空を行く。無を纏っていたはずの顔が安堵に綻ぶのを感じた。


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