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せーるさん

クリエイティブなことは、なんでも好きです。

性別 男性
将来の夢 学校をつくりたい
座右の銘 八百万の国らしく、八百万の方法論を持ちたい。

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夢言荘

18/10/21 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 せーる 閲覧数:80

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「おまえをここに置いておけない」
 父親の言葉に雄介は、とうとう来たかと思った。人間関係で中学校を不登校に、その後ひきこもり続け、普通に進学していれば今は高校二年生といったところか。最近、両親はコソコソと、ひきこもりを集団生活させる施設へあの子を入れようなどと話していた。僕に何の相談もなく──
「……わかった」
 
 町外れの、その施設までは母親が車で送ってくれた。
「そこでは人と話さなくても生活できるって噂よ、そうしたい人が集まっているって。あなたにも合うんじゃないかってお父さんと話したのよ」
 人と目も合わせられず、誰からも必要とされないやっかいものを追い出したいだけじゃないのか。
 施設につくと門の前で降ろされた。二階建てだが、とても広く、お屋敷という言い方がしっくりくる建物だ。
「ここからは入居者のみで入るってことになっているのよね、ごめんね」
 そう言い残し、驚くほどあっけなく車は去っていった。

 門をあけ、扉の前に立つ。
『勝手に入ってくれて結構』
 扉のプレートにそんな文字が書かれている。
 雄介は一瞬躊躇するが、深呼吸をし覚悟を決めてゆっくりと扉を開ける。
 まず目の前に見えたのは、旅館のロビーのような場所だった。
 そこに学校の教室で使うような、大きな黒板がひとつ。
 壁に貼り付いているのだが、異様な存在感がある。
『ようこそ、夢言(むこと)荘へ』
 黒板にはチョークで大きくそう書いてあり、その下には雄介の部屋番号と、生活必需品や食事のこと、夢言荘のルールなど箇条書きで書いてある。最後に米印で──
『※ここでは声を出して会話をする必要はありません。要件や質問は横の机の上にある付箋に書いてこの黒板に貼ってください。(チョークは特別なときにしか使いません)伝言板として皆使っていますのでお気軽に。』
 黒板の横を確認すると小さな机が置いてあり、そこには黒板の内容をさらに詳細に書いたA4のプリント、ボールペン数本と四角い大きめの付箋が山積みになっている。
「本当に、なにも話さなくていいんだ……」
 そうして、雄介の夢言荘での生活が始まった。

 入ってから知ったのだが、夢言荘は自治体から補助金をもらって運営されていて、金銭面や生活品は比較的自由が効いた。一人一部屋で基本的なものはなんでも揃っているし、ネットも普通に使えるので、欲しいものは配達してもらえる。はっきり言ってとても心地いい環境で、親に恨み言を言う気さえなくなる。
 ロビーには漫画、ゲームの共有スペースというのもあって、住民それぞれのオススメが置いてある。それに加えてこの施設には、ボランティア募集のチラシが壁に貼ってあり、外で誰かと話したくなれば人のためになる活動をいつでも出来るという環境のようだ。
『この新しいボランティアどうよ?』
『↑それ、前回募集されてたとき行ったけど、おっちゃんが優しくて良かったよ』
『←まじ? いこーかな……』
 住民は伝言板の思い思いの場所に付箋を貼り、会話するときは矢印を添えている。
『共有スペースに新しく漫画シリーズ置いたやつ誰だよ。めっちゃくそおもしろいやん!』
 あっ、ぼくが置いたやつだ。付箋とボールペンを手に取り、返答を書き込んでいく。
「↑ありがとう。次はオススメのゲームを置いとくよ」
 そうして自分の部屋に帰る。ここの人たち、結構マニアックなものでも面白さ分かる人たちだから、オススメするとしたらこれかなー。そんなことを考えながら、部屋にあるゲーム棚を物色していく。

 次の日、ゲームを置きにロビーへ行くと、黒板に貼った自分の付箋に矢印して付箋が貼ってあった。
『←まじで? 楽しみだわ!』
『↙実は私も楽しみ……』
『↖この漫画のセンスな人が、どんなゲームをオススメしてくるか楽しみだわ(プレッシャー与えていくーw)あと、まじで漫画おもしろかったっす。』
 雄介の貼った付箋を中心に、熱く会話が弾んでいる。胸の内に暖かさが広がっていく。すぐに付箋を数枚手に取り、ペンを走らせる。
「ゲーム置いといた。期待していいよ」
「あとさ……関係ない話だけど、今まで近くにだれかいるってだけで落ち着かなくて、でもここじゃそんなの感じなくてさ……。つまり、なにが言いたいかと言うと」
「夢言荘っていいとこだよね」

『↑それ言えてる』
『↖どーかん』

『でも、黒板を伝言板の代わりにしてるのウケるよなwww』
『↑廃校になった小学校から譲ってもらったらしいぜ』
『←へぇ〜』

『あとさ、夢言荘って、「無言荘」の間違いだろっってツッコミたくなるよなw』
『↑それな』

ぼくは──
「夢言荘でいいと思う」

『←どうして?』

「この伝言板に書かれていることは、ぼくが欲しかった“夢の言葉”ばかりだから」


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