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18/10/21 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 ハナトウ 閲覧数:79

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「傷つけたかった訳じゃないんだ。」
目を伏せ眉を寄せ、ギュッと握っている力こぶしと同じくらい固い声で彼は言った。
「そうですか。……まあ、いくら貴方が後悔しようが私には関係ないので。」
伏せられていた目が上げられ私に向き、キッと睨まれる。
我ながら取り付く島もない返事をしたと思うから、仕方のないことだろう。
自分の不甲斐なさのせいで愛する者を傷つけたこの男にかけてやる情け、これっぽっちも持ち合わせていないのだから……


ある夜の深夜二時。二週間のインターンに疲れ切っていた私は、スーツ姿のままベッドで寝ていた。
もう風呂に入る気力も、着替える気力もなく、そのインターンさえ終わってしまえばしばらくの間、スーツを使うような用事もなかったから。
けれど泥のように眠っていた私の安眠は、
ピンッポーン。ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンポン、ピンッポーン。
けたたましく鳴るインターフォンのせいで妨げられた。
ベルの音に飛び起きた私はノロノロとドア越しに来客者の姿を確認する。
魚眼レンズのその先にいたのは、ぼろぼろになった幼馴染だった。

「なんかもう頑張るのに疲れちゃった。」

そう言って私の顔を通り越し、どこか遠くを見る彼女。
そんな彼女を静かに部屋に招き入れた。
彼女は大人しく部屋に入ると、ソファの上に座って窓の外を眺めだした。
そんな様子を見て、私はマグカップにあたたかい飲み物を注いで彼女に差し出し、何か言い出すのを待った。
およそ半分。マグカップの中の液体が消えた頃、彼女はぽつりぽつりと付き合っているはずの男について語り出した。

曰く、最近会えないと。

曰く、家にすら帰ってこないと。

曰く、他所の女と仲睦まじげに歩いている写真が同僚から送られてきたと。

「なんかもう頑張らなくて良いなって。」

どこか壊れてしまったように笑う彼女に、私は自分の胸を差し出した。


私は本当は知っていた。
彼はきちんと彼女を愛していたと。
本当に仕事が忙しいだけ、仲睦まじく歩いていたのは妹だって。
でも、伝えなかった。
あえて伝えなかった。
好きな子が自分のところへ堕ちてくるかもしれない、そんな機会。見過ごすわけにいかないから……


久々に会った彼女の元カレは少し痩せていた。
理由は考えるまでもないだろう。
私は注文したアイスティーを飲み干すと、さっさと彼女の待つ家に帰るため口を開いた。
「彼女から伝言を預かっています。」
今日はこれを言うためだけにここへ来た。
不安とほんの少しの期待。
目の前の男にはそんなものが見て取れた。

「私は幸せになれたから貴方も幸せになってね。だそうです。」

それを伝えた瞬間、彼の表情は絶望に彩られた。


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