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さようなら

18/10/21 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 ハナトウ 閲覧数:70

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皆が騒ぐ中央のドーナツ型のカウンターからこっそり離れて、遠巻きにその様子を見ている人の所へ行く。
近づいてきた私に気がついたその人は、隣の席に座るように示すけれど私はそれを断った。
私の意志が変わらないうちに、でもやっぱり勇気が出なくて、持っていたグラスからピニャコラーダを一口分飲んだ。
「どうしたの?」
暗にあっちで騒がなくて良いの?と伝えてくるその人に曖昧に微笑んで、私はやっと口を開いた。

「私、とある女の子から貴方への伝言を預かっているんです。聞いてくれますか?
……先生。」

嗚呼、これで貴方とさよならだ。


同窓会の知らせが届いた時、「ああ、終わりにしなきゃいけないのか。」何よりもまず最初にそう思った。
ずっと、ずっと。
私は中学三年生の時の担任に片思いをしていた。
担任をしてくれたのはその一年間だけだったけれど、教科としては三年間見てくれて。
卒業式のあの日に告白しようと思った。
応えてくれないのは分かっていたから、自己満足のためだけに。
でも、結局私は告白しなかった。
告げなければ自分の中に閉じ込めたまま、ずっと想っていられるのか。そう思って。
でも、そのせいで囚われ続けた。
高校三年間は他所に見向きもできなかったし、大学生になっても何となく似てる人を選んで勝手に比べて……
でも、ある時。
そんな私でも良いと言ってくれる酔狂な人が現れた。
ゆっくり。ゆっくりと、私の中に自分の存在を落とし込んでいった彼はいつの間にか私の中でとても大きくなっていた。
それに気がついた時、「嗚呼、彼のためにも終わらせないといけないな。」そう思った。
でも、自分から行動する勇気はなくって、なあなあにしようと思っていたら同窓会の知らせが届いた。
これはもう神様がくれたチャンスだな。
そう思って私は今日、ここに来た。
久しぶりにみたその人に「どうしてこんな人が好きだったんだろう?」なんて気持ちこれっぽちも浮かばなくて、むしろ「ああ、そりゃ好きになっちゃうわ。」そんな事ばかり。
だから少し、あの頃の私が顔を出してしまったけれど、私はそれを必死に振り払った。
今、目の前にいる先生は私の言葉を聞いて、ほんの少し困ったように笑った後、「いいよ。」そう優しく言った。
私は「ありがとうございます。」と小さく告げ、大きく息を吸うと彼女の気持ちを素直に告げた……
「先生の事が大好きです。どうしてそうなったのか分からない。けれど、本当に本当に。貴方が担任をしてくれた三年生はもう、本当に毎日が楽しくて。貴方に会うためだけに学校に行ってました。貴方はきっとそんな私に気がついていたのでしょう?それでも下手に離れたり、近寄ったりしないで……ずっと先生でいてくれてありがとうございました。おかげで私は……わたしは……」
言いかけたことを頭を振って追い出し、先生に向かって頭を下げた。
「貴方を好きになってよかったと今なら言えます。本当にありがとうございました。」
暫くそうして頭を下げていたが、意を決して頭を上げた。
先生はとても穏やかに笑っていた。
「彼女からの伝言なのに、途中から君の言葉になってたね。」
先生はわざと茶化すように言うと、手元にあったソルティドッグを一口飲んで、
「じゃあ僕も。彼からの伝言だ。」
殊更穏やかに笑って言った。
「こんな僕のこと好きななってくれてありがとう。でも、沢山苦しませることしかできなくてごめんね。僕ができなかった分……幸せになれよ。」
最後、先生の目がそれまでのそれと少し変わった。
もし……もう少し早く思いを伝え、引く気はないと言っていたらもしかしたら……
思わず考えてしまったが、それは仮定のはなしだ。
私は大きく頷いて、先生の元を去った……


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