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田辺 ふみさん

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伝言板

18/10/21 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 田辺 ふみ 閲覧数:97

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「一体、何段あるの、これ?」
 目の前には延々と続く石段。
 みゆきに誘われて、神社に来たけれど、登ってまで行く価値があるのだろうか。
「八百段。と書いてある」
 みゆきが案内板を指差した。
「えー」
「でも、すごいんだって。本当のパワースポット。結花だって、興味あるでしょ」
「あるけど」
 はっきり言って、体力、運動能力には自信がない。
「試練を乗り越えてこそだよ」
 みゆきの言葉にわたしは登り始めた。
 あっという間に息がきれる。
 頑張るために願い事を考える。
 島田君。島田進也君。進也君。
 ごめんなさい。
 この間、学校で仲がいいなって、からかわれたとき、ありえない、彼氏にする対象じゃないって言っちゃったけど、噓です。
 照れ臭かっただけです。
 好きです。
 ひどい言い方しちゃったから、謝りたいけど、今さら、何と言えばいいの?
 誰か、わたしの代わりにこの気持ちを伝えてください。
 神様、仏様、誰か、お願いします。
 願い事を唱えながら、必死に登る。
「結花、振り返ってごらん。すごい景色」
 みゆきは楽々と登っている。三年生になって引退したとはいえ、さすが、元バスケ部。
「振り返ったら、おしまいだって」
 足を止めたら、もう、二度と歩き出せない。つらくても、黙々と登り続ける。
 みゆきに励まされながら、やっと、登り切った。
 ふらふらと本殿へお参りをした。もちろん、ご縁があるようにとお賽銭は五円玉だ。
「それで、パワースポットって、どこ?」
「この絵馬を吊るしてあるところ」
「絵馬に願い事って、普通じゃない?」
「それがね、願い事じゃないの。ここは伝言板。上半分に伝えたいことを書くと、下半分に返事が来るんだって」
「返事?」
「そう、どんな相手でも大丈夫だって。ほら、これを見てよ」
 みゆきが吊るされている絵馬の一つを指差した。
『パパへ
 お星様になっても僕のことを見ていますか?
 智へ
 もちろん、いつもお前のことを見守っているよ』
「天国から返事が来るって、すごくない?」
「えー、これって、誰か他の人が返事を書いているだけじゃないの」
「まあ、そう言わずにやってみようよ」
 みゆきと一緒に絵馬を買った。みゆきがさらさらと書くので、のぞくと、『周平へ 将来、みゆきと結婚したい?』なんて、書いていた。周平君はみゆきの彼氏で、大学に入ったら遠距離になる。
「すごいこと書くね」
「結花は?」
 わたしは自分の絵馬を見せた。
『未来のわたしへ 幸せですか?』
「結花の方こそ、すごいこと書いてるじゃん」
「これでいいの」
 島田君への本当の気持ちはまだ、みゆきにも伝えていない。だから、これでいい。
 帰る前に、もう一度、自分の絵馬をひっくり返して見た。
 下半分が埋まっている。
 まさかと思ったが、返事の字はわたしと同じような筆跡だ。
 そして、書いてある内容はわたしの願望そのものだ。
「みゆき、いたずらは止めてよ」
「何?」
「ほら、これ」
 みゆきに見せると、絵馬は元と同じように下半分は空白のままだった。
 ついさっき、見た返事は幻だったのか。
 わたしは絵馬をただ見つめ続けた。


「結花が神頼みするなんて、意外だな」
「今、頼みたいことなんてないんだけどね、やらなくちゃいけないことがあるから」
 夫と一緒に神社に登った。
「この中に八年前に書いた絵馬があるの」
 わたしは自分の絵馬を探した。
「これかい? 結花の字みたいだけど」
 見つけたのは夫が先だった。
「そう、これ」
 絵馬の下半分は空白のままだ。八年前、みゆきと帰る直前に一瞬だけ、目にした文字はない。なくて当たり前だ。あの時に返事があった方がおかしいのだ。
「こんなこと書いてたんだ」
 夫はおかしそうに笑った。
「いろいろ、不安だったから」
 それでも、八年前、絵馬に書かれた返事を見たわたしは勇気を出して、島田君に謝った。おまけに勢い余って告白までした。
 だから、幸せなのはこの絵馬のおかげだ。
 夫が見守る中、わたしはあの時、見たのと同じ言葉を慎重に書いた。
 過去のわたしへの伝言。
『幸せです。大好きな人と結婚しました。だから、勇気を出して、謝ってね。 島田結花』


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