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繭虫さん

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うるせぇ、と書き足して帰る。

18/10/19 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 繭虫 閲覧数:132

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『アホ』
『うざい』
『ひろくん だいすきだょ』
『トーテムポール・マッカートニー』

大きなタコの遊具の中で、夜空の星のように天井いっぱいに広がるラクガキを少女は真顔で見つめていた。
スマホのライトで照らした落書きたちは字体も大きさもバラバラで、アラビア文字のようなものが混じってたり、かと思いきやよく見るとミミズが這ったような汚い平仮名だったり。

まるでちょっとした宇宙、ちょっとした混沌。
ちょっとしたきっかけではあるものの、何となく家に帰りたくなくて。
少女はこの深夜の公園に不時着した。
しかし寂しさが呼吸器官を圧迫しているのだろうか、先程から息をするのが下手になった気がしている。
眠ることもままならないので、暫く遊具の中のしょうもない落書きを目で追っていた。
どこの誰に宛てたかは知らない、言葉にするにはあまりにくだらない。
そのなかのひとつ、一際小さな落書きに少女の目は吸い寄せられた。

『ボクからの挑戦』

そのすぐ下に、『@パンダをさがせ!』と更に小さく書いてある。
不意に叩きつけられたその小さな挑戦文に、少女はニヤリとしてしまう。
公園の落書きに、話し掛けられたような気がしてしまったのだ。
少女はタコの腹部をくぐり抜け、パンダを探すことにした。

そうして真夜中の公園の外気に触れると、冷たい夜風と一抹の寂しさが少女を襲う。
けれども、少女は家にいてもどうせ寂しいと感じていたので、寂しくても闇のなかを歩いた。
スマホの小さなライトだけが何よりも頼もしい相棒だ。
火の点いた花火を振り回すようにして辺りを照らしていると、そんなに広い公園ではないのですぐにパンダらしきものに行き当たる。
下にバネの着いたパンダの遊具。頭にハンドル代わりの棒が貫通していて、だからなのか、どこか思考を諦めたような無気力な表情をしている。
そして可哀想なことにそのやる気のない脳天に、『Aつぎはジャングルジムのテッペン』と書き添えられていた。
少女の顔に、発見の喜びと次の挑戦への躊躇による曖昧な笑みが浮かぶ。
ジャングルジムはパンダの目と鼻の先にあるので問題ない。躊躇されるのは、テッペンという部分である。
登れるだろうか、この真夜中の暗さで。

ジャングルジムを掴み、足を掛けたところで少女は立ちすくんだ。
足元が暗闇に溶けて、見え辛い。心許なかった。
スマホを持ち替えながら、足場を照らして片手で登れないこともないだろうが、この規則的に交錯した鉄のジャングルの中で変な落ち方をしてしまったら大惨事になるのではないだろうか。
そう思い至ったが、それでも少女は恐る恐るジャングルジムを登り始める。
この不確かな足場も、自らを取り巻く現実に比べればいくらか不確かではないと感じたのだ。
少女の孤独に、怖いものなど無かった。
時間は掛かったものの、長い夜は少女がジャングルジムのテッペンまで登り詰めるのを見守っていてくれる。

『Bつぎでさいご!ブランコを立ってこげ』

ジャングルのテッペンに当たる鉄の立方体をくまなく照らして、やっと姿を現した落書き。
胸いっぱいに吸い込んだ夜の空気と、粗末な達成感。
登りには時間が掛かったが、下るのは早かった。足元は相変わらず暗くてよく分からない。しかし、なんとなく大丈夫だと思う高さで彼女は地面に向かってダイブした。足がじんとしたが、意外と綺麗に着地できるものだ。
もう暗闇に飛び込んで行くことは恐ろしくなかった。

ブランコはジャングルジムに比べると可愛いものだ。少女はブランコに立ち、地面を蹴って闇夜へ漕ぎ出す。
反動が増していく度に、冷たい夜風が全身を弄ぶ。大きく振りかぶって、また大きく前に振れる時のフワッとした感覚は一抹の寂しさに似ている。
しかし、今はこの冷たさも寂しさも心地よかった。
この孤独が今は楽しくて堪らない。
少女は孤独と初めて友達になった。

とはいえ、落書きの通りブランコに揺られてはいるものの、どうということもない。
ブランコから見えるものにも、目ぼしいものは無さそうだった。
これで最後だというので落書きも無いのだろうか、せめて別れの挨拶くらい有れば良いのに。そう思っている最中にも、風は彼女を擽る。少女は、はっとしてブランコを止めた。
この冷たい風のおかげで、頭が少し冴えたかもしれない。

ブランコから降りて、緊張と期待を込めて椅子部分を裏返す。

「はぁ?」

目に飛び込んで来た文字に、少女は怒気を含んだ声を上げた。

『C早く帰れバーカ。おれはホームレス。』

ブランコの裏側に今までより乱雑に書き殴られた文字には、その主が大人か子供かも判別がつかない。
信じていた友人に裏切られたような気分であったが、同時に全てがバカバカしく思えた。

そろそろ帰ろう。少女には帰る家がある。

寂しくとも。


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