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そらの珊瑚さん

🌼初めての詩集【うず】を上梓しました。  (土曜美術出版販売・現代詩の新鋭シリーズ30) 🌼小説や詩、短歌などを創作しております。 🌼作品を置いています。よろしかったらお立ち寄りくださいませ。 「珊瑚の櫂」http://sanngo.exblog.jp/14233561/ 🌼ツイッター@sangosorano 時々つぶやきます。 🌼詩の季刊誌(年4回発行)「きらる」(太陽書房)に参加しています。私を含めて10人の詩人によるアンソロジー集です。アマゾンでお買い上げいただけます。      ✿御礼✿「馬」のオーナーコンテストにご参加いただきました皆様、ありがとうございました。

性別 女性
将来の夢 星座になること
座右の銘 珊瑚の夢は夜ひらく

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明日世界が終わる

18/10/18 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 そらの珊瑚 閲覧数:149

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 白夜はいつも寝不足になる。夜になっても沈まない太陽のせいだ。こんなあたしでも人類の、はしくれ。太陽の光に含まれる活動エネルギーが、自律神経を乱れさせてしまうのだろう。
「おはよう、リンダ。また眠れなかったの?」
「おはよう。母さんはよく眠れたみたいね」
「それは私が年老いた証拠よ。睡眠と死は似ているの。肉体が死に近づいた分、夜はぐっすり。そして遠くない将来、永遠に目覚めない朝が来る」
「やめてよ。そんな話」
「いいえ。大事なことよ。そしたらあなたはひとりぼっち。あなたももう十八歳。クローニングしてもいい年だわ。大丈夫、心配ないわ。クローニングなんて簡単な事よ。指の先の皮膚をほんの少しこそげ取って、培養シャーレの中に入れるだけなんだから」
 便宜上、あたしが母と呼んでいるヒトは、私のクローンだ。
 大昔、地球に蔓延した殺人ウイルスによって、ほとんどの人類が死んだ。ただ、そのウイルスは寒さに弱く、よって南極と北極の基地にいた人々だけが生き残った。
「クローニングしなかった南極の人たちは、消滅したのよ」
「はいはい、知ってるわ。永い間に人間のオスは淘汰されたんでしょ」
「そう。北極も同じだった。メスだけで命をつなぐのには、男女の生殖を伴わないクローニングしていくしか選択肢はなかった」
 私たちは最初にクローニングしたその人を、イブと呼んでいる。この世界にはアダムは存在しないのだ。
「わかったわ。脈々とつないできたイブの命を私で終わらせることなんて、出来ないもの」
 クローニングを繰り返したせいか、あたしたちは短命だった。老いが駆け足でやってくる。三十五歳の母の顔には深い峡谷のようなしわが刻まれ、かつて黒かった髪はほとんど白い。
 あたしが産まれる前に存在していたという母の姉妹たちは、いずれもクローニングに失敗した。とうとうあたしと母は人類最後の二人となった。
「ありがとう、リンダ。じゃあ、朝食にパンケーキでも焼こうかしら」
「メープルシロップもかけてね」
「オッケー」
 テーブルに焼きたてのパンケーキが並べられ、今まさにそれにナイフとフォークを入れようとした時だった。コツコツと音がしたので、見れば八咫烏(やたがらす)のジョンがくちばしで窓を叩いていた。窓を開け、彼を迎え入れる。
「どうしたの、こんなに早く」
「あれ、お二人さん、これから朝食?」
「良かったら、一緒にどう? ジョン」
「ありがたい。一生懸命飛んできたんで、もう腹ペコで」
「何をそんなに急いでるの?」
「神様からの伝言を早く伝えなくちゃって思って。またいつブリザードになるかもしれないからね」
 母が、水を入れた硝子の深皿をジョンの前に置いた。それを2,3回飲んだあと、ジョンは口を開いた。
「明日、世界が終わるそうです」
「どういうこと? 地球が消滅するってこと? まさか太陽が爆発するとか?」
「さあ、詳しいことは知らない。おいら、ただの神様のメッセンジャーなんで」
「そんな……。神様はあたしたちを見捨てるっていうの。助けてはくれないの?」
「お言葉ですが、神様は一度だって誰かを助けたことなどありません」
「ああ、そうですか。それならこれ、返してもらうわ」
 頭にきたあたしは、ジョンに取り分けたパンケーキをフォークでぶっ差し自分の口に入れた。
「これこれ、リンダ、意地悪はおよし。ジョン、ご苦労だったわね。ありがとう。で、世界が終わったらあなたはどうするの?」と母が聞いた。
「おいらも終わる。ジ・エンドさ。神様だって同じ運命だと思うよ。神様は人間が作り出した概念みたいなもんだから、人間がいなくなったら消滅するんじゃないの?」
「ひとつだけ、生き延びる方法があるわ。ノアで宇宙へ飛び立つのよ」母の頬が一瞬薔薇色に輝いた。
「母さん、ノアって、あの伝説の宇宙船のこと?」
「ノアは工場棟に実在するわ。A.Iロボット達によってメンテナンスもされてるはず。リンダ、パンケーキを食べたらノアで地球を離れなさい」
「母さんは? 母さんは一緒に行かないの?」
「私はもう死期が近い。宇宙の塵になるより地球の最後を見届けるわ」
「だったらあたしも行かない。ここに残る」
 母は私の頬に流れる涙を優しく指でぬぐった。
「あなたは私よ。だからいつだって一緒。それでもさみしいなら、そうだ、ジョンを連れていけばいいわ」
「ええっ、おいら?」
「いいじゃない。どうせあなたも八咫烏の最後の一羽なんでしょ。ノアの中で、クローニングしながら生き延びればいいわ」
「あんまし気が進まないけど……毎朝パンケーキ焼いてくれる?」
「パンケーキくらい焼けるわよね、リンダ」
 あたしはうなずくしか他に選択肢はなかった。
 行先のない旅。
 だけどどこかに不時着する可能性はゼロではない。イブの末裔は案外しぶといのだ。
 
 


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