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吉岡 幸一さん

性別 男性
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伝言タクシー

18/10/17 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:182

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 駅の西口からタクシーに乗り込んできた中年の男はどこか嬉しそうな顔をしていた。
「ご乗車ありがとうございます。どちらまでですか」
 運転手が尋ねると、男はポンと膝をたたいた。
「駅の東口までお願いします」
「東口ですと、歩かれた方が早いと思いますが・・・・・・」
「ええ、わかっています。かまいません。どうか東口までお願いします」
 運転手は怪訝な顔をしながらもすぐにタクシーを走らせた。5分もかからずに駅の東口まで着いた。
 西口から東口まで歩けば3分とかからない距離だ。車とはいえ、駅前は道が混んでいるため車だと徒歩よりも時間がかかるのだった。
「次に乗る人に2番と伝えてください」
 男はワンメーター分の代金を支払いながら言うと、タクシーを降りて駅舎へ入っていった。
 運転手はそのまま駅の東口で客を待っていると若い女が乗り込んできた。
「ご乗車ありがとうございます。どちらまでですか。あ、お客様に伝言がございます。2番だそうです。」
 運転手が伝えると、若い女は頬を摩りながら頷いた。
「駅の西口までお願いします」
「西口ですと、歩かれた方が早いと思いますが・・・・・・」
「そうでしょうね。歩いた方が早いですよね。でも乗せていってくださいね」
 運転手は首を傾げたが、余計な事を聞いてはいけないと思い車を走らせた。
「あとの人に3番と伝えてくださいね」
 そう言うと女はワンメーター分の代金を支払い降りていった。
 次に乗ってきた客も前の二人の客と同じだった。東口まで乗って行き、その次の客は西口まで乗っていった。タクシーは駅の西口と東口をぐるぐると円を描くように回る続けた。
 客は降りる度に次に乗る人に伝言を残していった。3番です。4番です。5番です。6番です・・・・・・10番です・・・・・・。客は乗る度に次の番号を運転手に伝言を頼んでいった。
 偶然にしてはおかしいと思った運転手は西口から乗り込んできた老人に口早に尋ねた。
「なあに、人生にはそういうこともあるということですよ」
 笑いながら老人は答えた。老人が誤魔化しているのか、知らないのかはわからなかった。
 運転手は何人かの客に同じ事を尋ねたが、どの客も運転手が納得するような答えを言わなかった。
 ワンメーターとはいえ、きちんと金を払い乗ってくれている客だ。客を探して街中を彷徨必要もないのだから、迷惑どころか、感謝をしなければならないくらいである。運転手は疑問を感じながらも客を乗せ駅の周りを回り続けた。
 これが一日だけの出来事ならば、そんなこともあるかもしれないと無理に思い込むこともできたのかもしれない。
 次の日も次の日もタクシーは駅の周りだけをひたすら回り続けた。そしてそれは次の年もその次の年もとなっていった。ただただ駅を周り、客を乗せて回り続ける人生、客は残していく伝言はついには14年後、10万番までになってしまった。
「ご乗車ありがとうございます。お客様に伝言がございます。10万番です。ええ、お客様がちょうど10万人目になります。おめでとうございます」
 10万番目の客は1番目の客と同じだったが、運転手は気づかなかった。黒髪が白髪になっていたせいというよりも、あまりに多くの客を乗せてきた運転手に客の顔を覚えることは不可能だったのだ。
「ずいぶん客を乗せてきたのですね」
「毎日毎日、ひたすら駅の西口と東口をぐるぐると回っています。以前は、タクシーなんですから、駅から離れて遠くへお客さんを運んで行きたいと思っていたのですが、今ではすっかり慣れてしまいましてね。お客さんも東口までお運びすればよろしいんですよね」
「はい、ここは西口ですから、東口までお願いします」
「かしこまりました。徒歩のほうが早く東口には着くのですが、もうそんなことはどうでもよくなりましたよ」
「運転手さんは毎日毎日同じことを繰り返す生活をどう考えていますか。つまらない人生だと思っていますか」
「そうですね、つまらないと思ったこともありますが、今では同じことを繰り返すことができる毎日に感謝しています。なんと言うか、これも幸せっていうのでしょうかね」
「これからも同じように回り続けられたらいいですね」
「ええ、そう願っています。はい、駅の東口に着きました。わかっています。次のお客さんには10万1番と伝えておきますね」
 男は嬉しそうに微笑みながらタクシーを降りていった。
 すぐに髪の長い女が乗り込んでいた。
「ご乗車ありがとうございます。西口までですね。お客様に伝言がございます。10万1番です。」
 運転手はゆっくりとアクセルを踏むとタクシーを走らせていった。



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