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18/10/16 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 篠騎シオン 閲覧数:220
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おはよー!今日も一日頑張るよ彼氏がラインしてもぜんぜん捕まらないから、古風に留守電入れてやったぜそいえば、今日友達から怖い都市伝説のうわさ聞いたんだーまじ、彼氏反応ないのいらいらするんですけど。付き合ってるのに何でちゃんと返信してくれないわけ?最近の若者はってひとくくりにされること多いけど、昔と今とかそんなに変わってないじゃん。SNSとかやってるくらい?都市伝説の件、なんかめっちゃ反応きたから追記!その都市伝説、“伝言”っていってね、なんか伝言すると魂が吸われていつの間にか意識不明になっちゃうんだって。こわっ連絡ないと思ったらアイツ女と出かけてたんだってさ。友達が教えてくれた。ねえアイツにとってあたしってなんなの?都市伝説聞いてから“伝言”って言葉について調べた!なんでも、人に頼んで相手に要件を伝えること、らしい。ってことは、頼む相手は人じゃないとダメってことね。電話かけても出ないし、アイツほんと何やってんの?スマホの留守電に呪いの言葉吹きこんでやったwあ、そだ。留守電超入れ込んでるときに気づいたんだけど、留守電、なんちゃらーかんちゃら、伝言をどうぞ!みたいのしゃべるじゃん?で、あたしらしゃべる相手って機械なわけじゃん?じゃあ、伝言は人相手じゃなくっても成立するってこと。あたし天才!あー、もう、アイツまじ何なの。フォロワーのみんな愚痴ってばっかでごめん。でも、なんかここで吐き出すと楽になるんだよね。なんか、痛みが自分のものじゃなくなってく感じでちょっとはマシになる伝言が人伝いじゃなくていいってことは、あたしのこれも今、伝言ってことだよね。青い鳥に乗せて世界に放つ伝言。なんかかっこよくね?彼氏からの愚痴がうざいって反応が多いので、残りは裏垢作ってつぶやきますw「これが、被害女性のSNSですか」「そうだ。一連の事件の最初の犠牲者。体に異常はなくただ意識だけが戻らない。一人ならそれ自体はまあありえないことじゃない。だが」「都内だけで同様の事件が40件以上発生してますからね」「ああ、どう考えても異常だ」「怖いすよね。でもま、この子の話している都市伝説の仕業だなんて俺には信じられませんけど。ていうか、都市伝説の名前が”伝言”ってなんすか。聞いたこともないし、かっこ悪くないです?」 笑いながら言った俺の言葉に反応してか、先輩はふっと息を吐き出した。喫煙室の中が、タバコの煙で満たされる。「なあ、吉川。伝言っていうのは意外と重いものなんだぞ」「どうしてですか?」 自分の意見に反論された気がして俺は少しむっとしてしまう。 そんな俺を見て先輩はかすかに微笑んだ。そして灰皿にタバコを押し付け、こちらへと向きなおる。「例えばだぞ。死に目に、息子に伝えておいてくれって言い残して死んでしまう老人。そういう伝言に、重みがあるとは思わないか」「う」 言葉につまる。その通りだと納得してしまいそうになる。「でもまあ……そういう特殊な場合だけじゃないですか」「ま、かもしれないな。でもな吉川。どんな言葉にも魂は宿る。悩みを人に話して楽になるっていうのもそのおかげなんだぜ」「そんなもんなんですかね」 俺は自分の手元にある資料を見つめた。メインとは違うアカウント、通称裏垢で彼女が綴っていた言葉の数々。日に1000を超えるツイートをしていたという彼女の、最後の言葉が目に留まった。「でも、」 俺はそれを見つめながら、言葉を紡ぐ。「俺にはわかんないす。SNSとか、そういうものに逃避する人間の気持ちは」 彼女の言葉が俺の頭の中でぐるぐる、ぐるぐると回る。「まあ、お前は強いからなぁ。ただ、人間だれしもそうあれるわけじゃない。弱い心に付け込まれ、自分を消すことに救いを求めちまったんだな」 先輩の発言に俺は笑う。俺よりずっと強い先輩の言葉とも思えない。新人時代、先輩に励まされた日々が思い出された。「それ、先輩が言います?」 笑いながら顔を上げた俺の目に、一つの影が飛び込んでくる。 ゆっくりと傾いていくそれは、俺の世界をスローモーションにした。 手に握られたスマートフォン、画面の中の青い鳥。 倒れゆく、先輩—— どすんという鈍い音。「先輩!」 永遠とも感じられた時間をその音が打ち破る。俺は慌てて先輩へと駆け寄って呼吸を確認する。 息はしている。だがいくら呼びかけても反応がない。「先輩……」 画面の中には、青い鳥に託された一つの伝言。『みんなたくさん“伝言”しよう、一つに、なろう』 それは、彼女の最後の言葉と、全く一緒だった。
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おはよー!今日も一日頑張るよ
彼氏がラインしてもぜんぜん捕まらないから、古風に留守電入れてやったぜ
そいえば、今日友達から怖い都市伝説のうわさ聞いたんだー
まじ、彼氏反応ないのいらいらするんですけど。付き合ってるのに何でちゃんと返信してくれないわけ?
最近の若者はってひとくくりにされること多いけど、昔と今とかそんなに変わってないじゃん。SNSとかやってるくらい?
都市伝説の件、なんかめっちゃ反応きたから追記!その都市伝説、“伝言”っていってね、なんか伝言すると魂が吸われていつの間にか意識不明になっちゃうんだって。こわっ
連絡ないと思ったらアイツ女と出かけてたんだってさ。友達が教えてくれた。ねえアイツにとってあたしってなんなの?
都市伝説聞いてから“伝言”って言葉について調べた!なんでも、人に頼んで相手に要件を伝えること、らしい。ってことは、頼む相手は人じゃないとダメってことね。
電話かけても出ないし、アイツほんと何やってんの?スマホの留守電に呪いの言葉吹きこんでやったw
あ、そだ。留守電超入れ込んでるときに気づいたんだけど、留守電、なんちゃらーかんちゃら、伝言をどうぞ!みたいのしゃべるじゃん?で、あたしらしゃべる相手って機械なわけじゃん?じゃあ、伝言は人相手じゃなくっても成立するってこと。あたし天才!
あー、もう、アイツまじ何なの。フォロワーのみんな愚痴ってばっかでごめん。でも、なんかここで吐き出すと楽になるんだよね。なんか、痛みが自分のものじゃなくなってく感じでちょっとはマシになる
伝言が人伝いじゃなくていいってことは、あたしのこれも今、伝言ってことだよね。青い鳥に乗せて世界に放つ伝言。なんかかっこよくね?
彼氏からの愚痴がうざいって反応が多いので、残りは裏垢作ってつぶやきますw
「これが、被害女性のSNSですか」
「そうだ。一連の事件の最初の犠牲者。体に異常はなくただ意識だけが戻らない。一人ならそれ自体はまあありえないことじゃない。だが」
「都内だけで同様の事件が40件以上発生してますからね」
「ああ、どう考えても異常だ」
「怖いすよね。でもま、この子の話している都市伝説の仕業だなんて俺には信じられませんけど。ていうか、都市伝説の名前が”伝言”ってなんすか。聞いたこともないし、かっこ悪くないです?」
笑いながら言った俺の言葉に反応してか、先輩はふっと息を吐き出した。喫煙室の中が、タバコの煙で満たされる。
「なあ、吉川。伝言っていうのは意外と重いものなんだぞ」
「どうしてですか?」
自分の意見に反論された気がして俺は少しむっとしてしまう。
そんな俺を見て先輩はかすかに微笑んだ。そして灰皿にタバコを押し付け、こちらへと向きなおる。
「例えばだぞ。死に目に、息子に伝えておいてくれって言い残して死んでしまう老人。そういう伝言に、重みがあるとは思わないか」
「う」
言葉につまる。その通りだと納得してしまいそうになる。
「でもまあ……そういう特殊な場合だけじゃないですか」
「ま、かもしれないな。でもな吉川。どんな言葉にも魂は宿る。悩みを人に話して楽になるっていうのもそのおかげなんだぜ」
「そんなもんなんですかね」
俺は自分の手元にある資料を見つめた。メインとは違うアカウント、通称裏垢で彼女が綴っていた言葉の数々。日に1000を超えるツイートをしていたという彼女の、最後の言葉が目に留まった。
「でも、」
俺はそれを見つめながら、言葉を紡ぐ。
「俺にはわかんないす。SNSとか、そういうものに逃避する人間の気持ちは」
彼女の言葉が俺の頭の中でぐるぐる、ぐるぐると回る。
「まあ、お前は強いからなぁ。ただ、人間だれしもそうあれるわけじゃない。弱い心に付け込まれ、自分を消すことに救いを求めちまったんだな」
先輩の発言に俺は笑う。俺よりずっと強い先輩の言葉とも思えない。新人時代、先輩に励まされた日々が思い出された。
「それ、先輩が言います?」
笑いながら顔を上げた俺の目に、一つの影が飛び込んでくる。
ゆっくりと傾いていくそれは、俺の世界をスローモーションにした。
手に握られたスマートフォン、画面の中の青い鳥。
倒れゆく、先輩——
どすんという鈍い音。
「先輩!」
永遠とも感じられた時間をその音が打ち破る。俺は慌てて先輩へと駆け寄って呼吸を確認する。
息はしている。だがいくら呼びかけても反応がない。
「先輩……」
画面の中には、青い鳥に託された一つの伝言。
『みんなたくさん“伝言”しよう、一つに、なろう』
それは、彼女の最後の言葉と、全く一緒だった。