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本田栞さん

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伝えなければならない想い

18/10/16 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 本田栞 閲覧数:122

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 一月一日の朝、寂れた神社に天使が現れた。純白の衣に真っ白な翼を生やした男は、賽銭箱の真上で浮いている。あっけに取られて立ち尽くす青年――青葉を、真紅の瞳が見澄ました。

「伝言はないか?」

 高圧な口調で語りかけられて、余計に青年の混乱を煽る。

「恋人と別れたお前は、よりを戻したいと考えた。そのために祈りを捧げ、我を呼び出したのではないか?」

 自分の悩みを言い当てられて、青葉の瞳が揺らぐ。

「どうして?」
「我は縁結びの神ゆえな」

 堂々と天使あらため、神が語る。

「確かにあなたの言ったことは合っています」

 うつむいてから、もう一度顔を上げる。

「夏の話です。恋人の名前は火燐といって、あいつはいつもパシリをやらされていました。断ったほうがいいと言ったんです。そしたら『自分は好きでやってるんだ』と主張してきて、ケンカになりました。結局別れて、あいつとは……」

 青葉は眉間にシワを寄せる。

――『言い残したことはないの?』

 熱のこもった眼差しを向けた少女に向かって、彼はなにも言えなかった。

『私にはあるのよ』

 澄んだ声を耳の奥で再生する。

『さよなら』

 火燐は去る。廊下に伸びた彼女の影は、遠ざかっていった。

 意識を現実に戻す。
 昔話を語り終えた青葉は、神と目を合わせた。

「今思えば誰かのために尽くすことが彼女の生き方だったです。それを、分かってあげられなかった」

 唇を噛む。
 最後に見た火燐の顔が脳裏をよぎった。彼女は目を真っ赤にして、雫をこぼしながら逃げた。
 過去の出来事を口に出すと自分の無責任さを痛感して、心に後悔がにじむ。今からでも、やり直すことはできないだろうか。

「俺には伝えたい想いがあるんです。だから、どうか」

 相手が本物だと分かるや否や、胸に手を当てて訴える。
 しかし、神は頑なな表情で答えた。

「我は叶えるのは一つだけ。恋人との再会だ」
「なぜ?」

 相手は無慈悲に告げる。

「大切な想いを伝言で済ますなど、認められぬ。ましてやそれを他人にゆだねるとはなにごとか?」
「そんな」

 言葉を失う。

「肝心な想いはおのれの口から伝えるべきだ」

 淡々と言い残したあと神は溶けるように、賽銭箱の上から消えた。
 青葉はぼうぜんと立ち尽くしてしまう。

 七日間、彼は待った。
 彼女がまだ自分に想いを寄せるのなら、こちらから気持ちを伝える。青葉は心の中で賭けをした。
 ドキドキと鼓動が高まる。彼の中では告白をする決心はついておらず、胸が張り裂けそうになった。

 そして一月七日の朝、チャイムが鳴る。玄関に駆けつけて扉を開けると、ピンクのコートを着て赤いマフラーをつけた少女が、外に立っていた。
 彼女は気まずそうに目をそらしたあと、真っ赤に充血した瞳を青葉に向ける。つづいて少女は紅色の唇を開いた。

「ずっと、元に戻りたかったのよ。自分から去ってしまって、申し訳無さと後悔がよぎったの。バカなまね、するんじゃなかったって思った。でも、自分から離れておきながらどんな顔で歩み寄ればいいのか、分からなくて」

 少女――火燐は早口で言うと、ふたたび目をそらす。

「ごめん。今さら、こんなこと言ったって、どうしようもないって分かってるのに。助言を拒んだあたしを、あんたはきらいになったはず。だから」

 背を向けて、駆け出す。
 彼女が庭の出口まで足を踏み出す前に、青葉は細い腕をつかんだ。

「離してよ」

 振りほどこうとする火燐に向かって、青年は言う。

「決心が、ついたんだ」

 いままで、逃げてきた。気持ちを押し殺して、過去の思い出を記憶から消そうとすらした。だけど、そんな甘い考えは彼女の泣き出しそうな表情と、真っ赤に充血した目を見て、吹き飛んだ。

「好きだ」

 大きな口を開けて、勢いのままに想いを繰り出す。
 途端に彼女が動きを止めた。
 火燐が振り向くと同時に、青年は口を開く。

「謝りたかったのはこっちだって同じなんだよ。ずっと、気持ちを分かってあげられなかった。悪いのは、俺だったっていうのに」

 真摯に訴える。
 少女の目から雫があふれ出して、頬ほおを伝った。


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