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本宮晃樹さん

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このメッセージ不要につき

18/10/14 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 本宮晃樹 閲覧数:92

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 植民星〈エスペランザ〉はよそに先んじて、ついにやらかした。超臨界知性を(意図せずとはいえ)作り上げたのである。
 これは地表に水爆の雨を降らされても忍従しなければならないほどの重罪だった。だがもはや事態は懲罰艦隊の迎撃作戦を立案する段階をとっくにすぎている。〈エスペランザ〉は間もなく機械どもに食い尽くされるのだ。
「諸君らは」脱出用恒星間飛行船の船長が厳かに宣言した。「〈エスペランザ〉の落とし胤である」
 選ばれた人びとは狭苦しい多目的ホール内にすし詰めにされている。しわぶきひとつ聞こえない。
「われわれは確かに愚かだった。だからこそいま、こうして母なる星へ報せを携えて馳せ参じようとしているのだ」
 誰もが反射的に眼下に浮かぶ惑星を見やった。いまや超臨界知性は増殖をくり返し、大陸の大部分が得体の知れない金属とプラスチックの塊に覆われている。彼らの町が、農地が、工場が、情け容赦なく飲み込まれていく。フロンティア精神にあふれた勇敢な先祖が築いた故郷がメタメタにされている。ほかでもない彼らのせいで。
「望郷の想いを振り捨てよ!」高らかに拳を掲げた。「メッセンジャーボーイに徹しようではないか。地球にこの事態を伝え、超臨界知性の襲撃に備えさせる。それがわれわれに課せられた義務なのだ」
 全員がいっせいにうなずいた。

     *     *     *

植民星政府代表 各位
超臨界知性の不用意な誕生にご配慮願います

 昨今、主に発展途上惑星で無思慮な計算機の増改築が無断で実施されています(右惑星では農地改革や効率的な社会運営のために、演算能力の高いコンピュータが求められていることは周知の通りです)。
 当同盟では使用可能な量子コンピュータの規格を厳密に規制しておりますが、一部の惑星で独自に研究開発を行い、飛躍的に演算能力を強化した無許可品を使用しているケースが散見されます。
 直近の例では惑星〈ガイア〉にて規格外量子コンピュータを並列接続し、間一髪で臨界を超えそうになった事例があります。各惑星代表のみなさまがたにおきましては、当同盟の定める統一規格品のみを使用していただくよう、再度お願いする次第です。

植民星同盟理事会 記

     *     *     *

 かくして恒星船は出発した。
〈オデッセイ〉号は光子帆船である。〈エスペランザ〉を周回する人工衛星から高出力のビームを受け、光圧から推進力を得るのだ。十分な時間をかければ最終的に、光速の七十八パーセントまで加速できる。
 減速の手間などを考えると、最寄りの植民星に寄り道している暇はない。残念だが〈エスペランザ〉周辺宙域は見捨てるしかないだろう。目指すは人類発祥の地、二十五光年離れた地球である。ここだけはなんとしても守り切らねばならない(もちろん地球へ向けて電波通信はなされた。とはいえ指向性を完璧に調整できたとしても、受信したかどうかが五十年後にしかわからないようでは確実性に欠けるだろう)。
 長い旅のあいだに船内で世代交代しながら、超臨界知性への対抗策を練る。連中は人間の頭脳などはるかに超越した存在にはちがいないが、指をくわえているよりはましだ。
 さまざまな苦難があった。幾度も反乱が起こり、鎮圧のたびに貴重な人材が失われた。船内のシステムは劣化していった。生命維持ルーチンにバグが見つかった。超臨界知性を崇め奉る珍妙な宗教が勃興した(教祖は絞首刑に処された)。初歩的なミスで、大切に保管されていた精子と卵子が深宇宙へ置き去りにされた。
 それでも〈オデッセイ〉号は光子を受けて進み続けた。地球へ重要な伝言を伝えるために。

     *     *     *

 出発から百二十七年後、〈オデッセイ〉号はついに木星の周回軌道を通過した。地球はもう目と鼻の先である。
「どうもようすがおかしいな」三代め船長はあごに手を添えた。「わたしの聞いた木星とずいぶんちがうぞ」
 観測ルームの全員が望遠モードで木星を注視した。確かにおかしい。安ピカのクリスマスツリーのようなのだ。
「疫病ですよ」とプログラマ。「すでに超臨界知性の魔の手がここまで伸びてたんだ」
 即座にパターン照合がなされた。結果は不一致。木星のありさまは〈エスペランザ〉がこしらえた悪夢のせいではないらしい。
「とてつもなく不愉快なことを思いついた」船長は目を固く閉じ、こめかみを揉んだ。「地球もやらかしてたんだよ」
 観測ルームは静まり返った。おそるおそるプログラマが、「どうします、これから」
「必要のなくなった手紙は黒ヤギさんに食べてもらうという故事があるのを知ってるかね。ちょっとばかり転進すれば白鳥座がこの先にある」
「そこにはなにが?」
 船長は肩をすくめた。「もちろん、ブラックホールだよ」


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