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18/10/14 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 悠真 閲覧数:79

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 ランドセルを背負った女児が、一人で歩幅小さく歩いていた。
 その後ろから徐行運転で黒い車が近づく。
「本庄ミミカちゃんだね」開けた窓に肘をかけるようにして、車から半身を出す形で男は女児に声をかけた。「お母さんから伝言があるんだ」
「え?」女児はまだ小学校低学年。目線は車内の男よりも下になるので、顔を上げなければならなかった。「お母さんから……?」
「そう」男は気の良さそうな顔で頷く。「お母さん忙しいから、おじさんにご飯食べさせてもらいなさいって」
「おじさん?」
「僕のことね」男は右手で自分の顔を指差す。「おじさん、ミミカちゃんのお母さんとお仕事してて、頼まれたんだ」
「ホント?」
「本当だよ」言いながら、男は上着の内ポケットから名刺入れを出して、中から一枚差し出した。「ほら、お母さんと同じ会社だろう?」
「お母さんの会社、知らない」
「うーん、そっか、まいったなぁ」空笑いを交えつつ、男は名刺入れを仕舞う。「ミミカちゃんにご飯を食べさせないと、おじさんが怒られるかもしれないしなぁ」
「おじさんもお母さんに怒られるの?」その言葉は下り調子で、女児の顔も僅かに俯いた。
「そりゃぁ、仕事でポカやらかしたら怒られるさ。ミミカちゃんも、やらかしてるんだね」
「ううん」女児は相変わらず俯いたままだったが、その首を左右に振る動作は、どこか力強いものだった。「ミミカ、ちゃんとしてる。ちゃんとしてるのに、怒られるの……」
「ふうん」トントントンと、車体に人差し指で音を立てる。何事かを考えるようにしてから、男は言った。「例えば、どんな時に怒られるのかな?」
「いつも」女児は即答した。「お母さん、いっつも怒ってる」
「どうして、いつも怒ってるの?」
「ミミカが良い子じゃないから」
 また、男の人差し指がトントントンと音を立てる。
「そんなことないと思うけどなぁ。ちゃんとしてるんでしょ?」
「してるけど……、してるけど、もっとちゃんとしないと、お母さんは許してくれないから……」
「許してくれない、ね」男は独り言のように呟いた。「お母さんとは、よくお喋りする?」
「ううん。大変そうだから」
「まあ、確かに、ミミカちゃんのお母さんは忙しい人だからね。ミミカちゃんは、お母さんとお喋りしたい?」
「うん」と言うものの、女児の頷き方は控えめなものだった。そして、何かを言いたげな顔で目線を斜めにする。
 そんな気配を察して「どうしたの?」と男は問いかけた。
「この前、テストで百点取ったの」
「へえ、凄いじゃないか」
「それでミミカ、お母さんに見せたくて、帰って来るの待ってたの」
「ほう」女児が話しやすいように、男は適度に相槌を挟む。
「帰って来て、百点のテスト見せようと思ったら、なんでこんな時間まで起きてるのって」
「百点取ったことを言う暇もなかった?」
「ううん。テストも見せたけど、そんなのどうでもいいって……」
「それはそれは……」男は言葉を選んでいる様子だった。「ちょっとくらい、褒めてくれてもいいのにね」
「ううん。遅くまで起きてたミミカが悪いの。テストなんて、いつでも見せれるのに……」
「ミミカちゃんは、一人っ子だよね」
「うん」
「例えば妹がいたとしてさ。まだまだ赤ちゃんの妹ね。ヨチヨチ歩きしかできない」
「え……」急に何の話を始めたのか、女児は理解できていない様子だった。
「で、お母さんが仕事に行ってて、家にはミミカちゃんと赤ちゃんの二人だけ。で、赤ちゃんがお昼寝したのを見て、ミミカちゃんは宿題をするために二階の自分の部屋に行く。宿題をしてたら、部屋のドアを叩く音がした」
「怖い話?」
「違うよ。ミミカちゃんは何かと思ってドアを開ける。そしたら、一階にいたはずの赤ちゃんがいたんだ」話が終わったことを伝えるために、男は少し間を置いた。「そしたら、ミミカちゃんはどう思う?」
「びっくりすると思う」
「それは——」
「何してるんです!」二人の後方から高い声。声の主の女性は女児を男の目から隠すように、二人の間に割って入る。「この男の人、知ってる人?」
「知らない人」女児が応える。
 それを聞いた瞬間、女性は男をきっと睨むようにして口を開きかける。
 しかしそれより早く、男の口が動いた。
「この子の担任?」
「いえ、担任ではありませんけど——」
「じゃあ」と、女性が言い終わる前に男は差し込む。「この子の担任に伝えといて」男は女性を睨み返すように見上げる。「もっと子供一人一人とちゃんと向き合った方がいいよ」
 それだけ告げると、男はさっさと窓を閉めてアクセルを踏んだ。
「次は通報しますよ!」
 去って行く車に向かって声を飛ばす女性。その女性の後ろに隠れるようにしながらも、女児は顔を上げて手を振っていた。


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