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吉岡 幸一さん

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神の伝言

18/10/13 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件 吉岡 幸一 閲覧数:131

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 国連事務総長は全世界の人々が見守る中、神妙な面持ちで言葉を発した。
「昨夜、神の使いの大天使が私の枕元にやってきて、神の意思を伝言されていきました。地球は明日の午後十二時、つまり今より二十四時間後に消滅します。人類は滅びることになりました」
 国連の会場は沈黙に包まれた後、風船が割れたように声が飛び交った。怒号と哄笑、立て続けにあらゆる言語で投げつけられる質問、無数のフラッシュがたかれ、各国の政府関係者や記者が壇上に立つ事務総長のそばに駆けよっていった。
 この日、国連から世界に向けて緊急発表があると通達されていた。全世界の人々はテレビの前やラジオの前、インターネットやスマートフォン、あらゆる通信機器の前で国連からの発表を待っていた。
 ここ数年の間、二つの大国が経済問題で争っていて関係が悪化していたため、ついに戦争が始まったのではないかと大半の人々は考えていた。二国間の戦争が始まればすぐに世界のすべてを巻き込んだ争いになることは必然だった。
「A国とB国の戦争が始まったので、人類はその影響で滅びるかもしれないと事務総長は世界に向けて注意喚起されているということでしょうか。核戦争の恐れがあるということですか」
 ある記者が必死に理解しようとして事務総長に質問を投げかけた。
「違います。明日、地球が爆発するのです。粉々になってしまうため逃げることもできません。皆死んでしまいます。どうか、皆さん、地球が消滅するまでの時間、思い残すことがないように過ごされてください」
 事務総長は目頭をおさえ嗚咽した。そして声にならない声を絞り出すように続けた。
「ただ、神は最後にこう伝えられたそうです。信じるものは救われると……」
 事務総長の声にかぶせるように一斉に周りから別の声が飛んできた。
「それは聖書に書いてある言葉じゃないか。もうそんな言葉は聞き飽きてしまったよ」
「馬鹿げている地球が爆発するなんてあるわけないだろう」
「神の言葉って何だ。いつ国連は神の存在を正式に認めたというのか」
「からかっているんだろう。それとも狂ってしまったのか。何を企んでいるんだ。世界を混乱に陥れることが国連の役割とでもいうつもりか」
「神を出せ。本当にいるのなら直接話をさせろ。大天使でもかまわない。お前じゃ駄目だ」
 会場は騒然とし続けた。事務総長はこういった反応が起こることをわかっていたのだろう。泣きながら首を振るだけで一つ一つの言葉に答えることはなかった。
「信じようが、信じまいが、私は神の意思を伝えました。後はあなたがたが信じて救われるか、信ぜずに滅びるかだけです」
 そう言うと事務総長はポケットから薬のようなものを出して飲み込んだ。細かく痙攣すると床に倒れ、すぐに息を引き取った。事務総長は二十四時間後を待つまでもなく人類の選択を確信しているようだった。
 世界に動揺がはしった。あらゆる国家、あらゆる組織、あらゆる個人の間で、信じるものと信じないものに別れた。
 信じるものは、信じないものを憐れみながら神に救いを求めて祈り、滅亡するまでの短い時間なすべきことをなそうとした。
 信じないものは、信じるものをあざ笑ながら何事もなかったかのようにいつもと変わらない日常を過ごそうとした。
 各国政府は人々に冷静さを呼びかけながら秩序が乱れないように街に軍隊を配置し治安を維持させた。
 時間はあっという間に経っていく。二十四時間なんてすぐにやってくる。事務総長が受けた神の伝言が真実ならば、滅亡の時間が近づいてくるほど大規模な地震や火山噴火などが世界各地で頻発してくると思われたが、地球はいたって穏やかで台風ひとつ発生するわけではなかった。
 時間が経つほどに、人々は国連事務総長の言葉を虚言だと断じていった。神からの伝言を疑った。半々であった信じるものと信じないものの数は、圧倒的に信じないものの数が上回っていった。残り一時間になるころには、すべての人々が地球滅亡の話を笑い話にさえしていた。誰一人として信じるものはいなくなった。
 午後十二時に向ってカウントダウンが始まった。村も街も華やかな装飾品で飾られ、花火の準備も整い、まるで世界は新年を迎える祭りの様相を呈している。
 十、九、八、七、六、五、四、三、二、一、〇……。
 ドッカアアア―ン!
 地球は神の伝えた通り爆発した。一瞬にして人類は滅んだ。

「あれほど信じるものは救われると伝えておいたのに、誰ひとり信じなくなるとは。やれやれ」
 神はため息をつきながら大天使に向って言った。
「神様、なくなった地球はどうしましょう」
「塵を集めてまた作ればよい」
 次は伝言ではなく直接伝えてみよう、と神は考えながら宇宙に散らばった塵を集め始めた。


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