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ムニミィ

18/10/09 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:0件  閲覧数:162

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真似をするのが得意だった。記憶のなかのその人をそのままに、同じ言葉を繰り返すだけ。
夜営のキャンプでも僕はよく仲間たちの真似をするように求められた。
娯楽の少ないソコでは重宝されて、うまくすると偉い人たちから食料のお零れがあったりしたからよかった。
「似ている」「そっくりだ」
隊長の真似をして命令すればみんな銃を構えるぞ、なんて軽口を叩くヤツもいた。
それは流石に言い過ぎだろう、と思ったけど、みんなが半ば本気だったのは後になってわかった。
戦争の途中で僕はどうしてか仲間の死に立ち会うことが多かったのだけれど、みんなそのことをよく覚えていて、頼み事をされたからだ。

いくつかの戦いが終わって、故郷に帰るよう言われたとき、仲間たちの多くは消えていて、その代わりに頼み事が溜まっていた。
僕にはもともと故郷なんてない。もらった給金も遣うあてがなかったのでまた旅をすることにした。その途中で、彼らの頼み事を叶えていければいいと思った。

初めに訪れたのはカモメと老人しか住んでいないような寂れた港町だった。
塩気でボロボロになった煉瓦の建物。どれがどれなのか見分けがつかなかったから町の人に何回も道を聞いた。
やっと目的の場所にたどり着いても、今度はどの人がそうなのかわからなかった。みんな寝たきりで目を瞑っていたからだ。

医者は常駐してなくて、話をできる相手はいなかった。 軋む階段を上って、いくつかの部屋を覗くと窓の開いた部屋があった。 青い景色が遠くに広がっているのが見える。
その際にはベッドがあって、茶色い肌の老婆がいた。この建物で唯一上半身だけでも起きている人だった。 窓から吹き込んでくる潮の匂いにつられるように僕は部屋に入ってみる。
いまにも抜けそうな床が、足を乗せると案の定、悲鳴みたいに大きな音をだした。

「お客さんかい、珍しい」
その人はこちらを振り返ったけれど、瞼は閉じたままだった。
「悪いがちょっと窓を閉めてくれないかい。風が肌寒いんだが手が届かなくてね」
せっかく良い匂いがするのに勿体ない、と思ったけど、僕は頼み事が断れないので黙って窓を閉めてあげた。
「ありがとう。で、何か私に用かい?」
老婆はひとりで笑う。よれた服の左胸には名札がかかっていて、這うような字で『サンタナ』と書かれていた。
「そんなわけはないか。まあ、暇なら話相手になっておくれよ。ここにいると退屈でね」

僕には余るほど時間はあるけど暇はなかった。 何故なら頼み事の途中だったからだ。

「名前は何て言うんだ」サンタナが聞く。

記憶をたどりながら、
―僕は仲間の一人の名前を答えた

「へえ、息子と同じだ」
サンタナはくしゃっと笑った。「今頃あいつもなにしてるのかねえ」
遠くを見るようにサンタナは窓の方に目を向ける。

喉を手を当て、レコードをかけたつもりで繰り返す。

―金を稼いで帰ろうと思ったんだ

ソレを伝えるのが僕の頼み事のひとつだった。
老人は乾いた唇を広げて、窓のほうに向けていた顔をこちらに向けた。

―親孝行じゃないけどさ、黙ってでていっちまったから見返してやりたくて

唇をわななかせ、サンタナは掠れた声を振り絞るように、仲間の名前で僕を呼ぶ。
「本当に?お前なのかい」

―金を稼げばもっと良い病院に移して、目だってまた見えるようになるかもしれない。それには漁師になるんじゃ全然足りなかったんだ

「馬鹿だよ」とサンタナは手で顔を覆って呟いた。「馬鹿な子だよ」

―もっとほかにやり方だってあったと思うけど、俺ホントに馬鹿だからさ。都会にでたからって仕事があるわけでもなくてさ

その後にも彼女は何か言ったけど、涙を流していたせいで聞き取れなかった。

―結局、見返してやるような仕事には就けなくて。金払いがいいところに流れ着いて。このひと仕事がすんだらもう故郷に戻ろうとも思ってて

彼は血を口に溜めながら、
―ああ、俺はあの海が好きだったんだって今頃になって気づくんだ。遅いよなあ。

「・・・遅くないよ」
サンタナは震える手を探るように伸ばす。
「こうして帰ってきたじゃないか」
枯れ木のように細く乾いた腕だった。

――本当に遅かったなあ。ごめん、母さん

彼女は何度か頷き、嗚咽を漏らした。
僕は黙ってその微かな温もりに抱かれる。伝えるべき言葉がもうなかった。

それからしばらくしてサンタナは泣き疲れたのか、薬が効いたのか、子供のように眠ってしまった。ベッドに寝かしたサンタナの手に、託されていた砂金の包みを握らせる。

――さよなら

病院をでる。懐かしい潮の匂いとカモメの声。でも僕は、この町にきてようやく初めて海を見たのだと思い出した。


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