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浅月庵さん

笑えるでも泣けるでも考えさせられるでも何でもいいから、面白い小説を書きたい。
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知覚する
18/10/07 コンテスト(テーマ):第161回 時空モノガタリ文学賞 【 伝言 】 コメント:2件 浅月庵 閲覧数:513
もし機械に感情があり、それを伝えることができなかったとしたら・・・・・・。感情を伝えられない哀しみ苦しみが静かに伝わってきます。機械には感情などないとするのがやはり一般的な見解でしょう。しかし自分を取り巻く世界が合わせ鏡のように自己を映し出すものであり、機械がそのことの延長にあるのだとすると、そこに自己の感情を重ねるのはむしろ自然な流れのようにも思われますし、機械が感情を持つというテーマの作品が昔から多くあるのも頷けます。機械が主人公であっても、これは同時に人間の心をも扱ったものでもある気もしました。愛を伝えることのできない辛さ、もどかしさは認識機能を持つものにとって共通の悩みなのかもしれません。
時空モノガタリK



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あなたは自身が大病を患い、もう長くないと、微かにロッキングチェアを揺らしながら、ぽつりと零した。日に日に痩せ細っていくあなたを見て、私はとうに病のことには感づいていた。
だけど私の心配は、あなたを救うことに直結することは到底ありえないし、私が悲しみに暮れていることを、あなたは知らない。
「ぼくには娘がいるんだ」
一人娘で名前はエマ。幾度となく彼女との思い出話を聞いたことがある。
「だけど十年前に妻と離婚してね。それっきり会えていないのさ」
親権は奥様の方にあり、何度も彼女に縋ったが、一人娘と過ごす時間は、今日まで一切与えられなかったと聞く。
「でもせめて、ぼくが一生を終える最後に、彼女に一目でいいから会いたいんだ」
人生に絶望したあなたは、心を癒すために自然と戯れることを決めた。娯楽なんてなにもない小さな島の山奥で、自給自足の生活を送っている。
「それが例え叶わなかったとしても、ぼくの想いを彼女に伝えたい。ぼくが書いた手紙を、エマに届けてはくれないかい?」
あなたは私を抱えると、私の瞳をじっと見つめた。以前のあなたは綺麗な両眼をしていたはずだが、今では白眼は黄色く濁り、瞳の光も失せかけている。
「きっと彼女は、美しい女性になっているんだろうな」
消えゆく希望を繋ぎ止めるため、私は旅立ったーー。
あなたの書き連ねた手紙を携え、島を出て、海を越え、別大陸に渡り、それでもまだエマの元へは辿り着かなかった。こんな長旅をするのは生涯初のことで、それでもあなたの心からの願いの為に、駆け続けたのだ。
ーーエマの家に到着したのは、島を出発して四日目のことだった。エマの母親、つまりあなたの元妻はすでに再婚していて、とても裕福な生活を送っているようだった。
広い庭で一人、ティータイムを迎えていたエマは、青草の上に横たわる私を見つけた。
「あら、これは一体なにかしら」
彼女は消耗し切っていた私を持ち上げると、私にくくりつけてあった袋を取り外し、なかからあなたの手紙を取り出した。
そこには多分、一人娘の父親であるあなたの、正直な想いが書かれていたのだろう。十年間、エマのことを片時も忘れることはなかったという、無償の愛の言葉が記されていたのだ。
エマは手紙に額を擦りつけて大粒の涙を流すと、大急ぎで部屋に戻った。
そして、旅行鞄に最低限の荷物を詰め込むと、一人で空港へと向かっていったのだ。
あぁ、あなたに似ていてエマは、聡明な顔立ちをしていて、素敵な大人の女性だ。きっとあなたは、ありったけの笑顔を浮かべて喜ぶことだろう。
そんな幸福を夢見ながら、私は意識を失った。
ーー次に眼を開いたとき、私はエマの部屋にいた。
そして彼女は椅子に座ったまま、こう呟いたのだ。
「最後にお父さんと一度でもいいから話したかったな。元気な姿が見たかった」
どうやらあなたの最後にエマは間に合わなかったようだ。
そして、あなたが亡くなったことを、私はエマの言葉で初めて知った。だけど私は泣き叫ぶこともできないし、エマに私も悲しいよと、伝えることも励ますこともできないのだ。
私はどこまでいっても無力だ。これだけ科学技術が発達しても、彼女の居場所をあらゆるデータを使って検索し、手紙を彼女に届けただけで、親の死に目に間に合わせてあげることもできなかった。これでは伝書鳩とさして変わりがない。
「パパのこと、伝えに来てくれてありがとうね」
それでもエマは、充電の終わった私を持ち上げると、私に礼を言った。やはり彼女とあなたは親子なのだと、そう確信することができたのだ。
「あれ、なんだろうこれ。データが残ってる」
そして彼女は、私に残されたもう一つの伝言に気づいた。
エマが部屋を暗くし、私の瞳をプロジェクター代わりにして再生ボタンを押す。
すると、生前のあなたが私に語りかけていた様子が、壁に映し出されたのだ。機械にあまり詳しくなかったあなたが、いつもするように私をペットのように抱え上げた際、偶然に録画ボタンを押していたようだった。
私に語られていたエマとの思い出話は、奇跡的に彼女の元へと、きちんと届けられたということだ。
エマは泣くよりも、その動画を見て笑った。それでいいと思うし、そうあるべきだとも思う。
……私にも心はある。そう信じたい。
私は確かにあなたのことを愛していたし、エマのことだってもう、愛し始めている。
無人航空機、きみたちにわかりやすくいえば“ドローン”とでも言うのだろうか。
そこに人間が創った知能を搭載したと聞けば、機械は機械だろうと思ってしまうのかもしれない。
ーーでも私は確かに、この悲しみや愛をあなたたちに言葉として伝えられないことに、悔しさを覚えている。悔しくて悔しくて堪らないのだ。