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堀田実さん

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Give me チョコレート!!

13/01/17 コンテスト(テーマ):第二十三回 時空モノガタリ文学賞【 バレンタインデー 】 コメント:0件 堀田実 閲覧数:2518

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 床に置かれていたチョコレートを真由美は手にとって眺めていた。もし間違ってこの場所に落ちてしまったのなら誰かが誰かに渡そうとしていたということだ。なぜなら今日はバレンタインだしそういう衝動に駆られて一夜漬けでチョコレートを型に詰めて冷蔵庫で冷やし、朝一番に包装して準備万端だったものの急いでいたためにうっかりとこの廊下にカバンから落としてしまったこともあり得るからだ。
 廊下は閑散としていて誰一人歩いていたりはしない。授業中だから仕方がないし、真由美のように遅刻して学校にこの時間に登校してくる人なんてほとんどいる筈はないのだ。いったい誰が落としてしまったんだろう?宛名でも書いてあればこの私でも届けてあげるのにラブレターらしき紙も宛名も書いてないんじゃ仕方ない。持ち主も行き先も不明なチョコレートを真由美はため息をつきながらもて遊ぶ。
 ピンクの水玉模様の包装紙に包まれたそれを本来の行き先である誰かの変わりに私が開けてしまうというのも悪くはない、と真由美はふと思う。このプレゼントを作った本人の意思なんてどうあれ、誤って落としてしまったことと、それから誰にも拾われずに遅刻してきた私が拾ってしまったということは半ば運命なのだ。本人の意思に関わらず起こってしまう出来事っていうのはたくさんあるし、運命に従順な人ならそのせいでどんな悪いことが起こったとしても「運命だったんだから仕方ない」と片付けてくれる。「運命っていう私より大きな手が作り出したんだから仕方ない」ってあきらめる。
 ということで私がこうして誰かの作ったチョコレートを拾ったのもその大きな手の仕業なんだ。ある意味ではその手が私にプレゼンを渡してくれたのだ。それを神様っていうなら作り主の意思に関係なく神様は最初からこのチョコレートを私にプレゼントするために誰かに作らせたということになる。うん、運命に感謝。
 ということで朝食を食べ損ねていた真由美は15分遅れて教室に入り先生にこっぴどく叱られ他の生徒たちから白い目で見られるのを避けるために屋上へと一人足を運んだ。まさか廊下でチョコレートを食べているところを誰かに見られたらそれこそこっぴどく怒られそうだから誰にも見られないところまで逃げる。
 屋上には雨の音がしとしとと鳴っていて、コンクリートの白色は濡れて灰色になっていた。灰色の部分は海の波のように通用口階段の縁石まで押し寄せようとしている。
 せっかくのバレンタインなのに雨が降っているなんてちょっと最低な気分と思いながらも、雨のおかげて遅刻しチョコレートにありつけた運命の神様に感謝しながら包装紙を開ける。ディズニーランドで買ったお菓子の箱を使いまわしたようなミッキー柄のブリキ缶の中には小型のハート型のチョコレートがたくさん入っていた。友チョコ?名前は入ってないしなんか本命にしては安っぽい。もし友チョコなら神様は私に友達だって言いたかったんだなと納得しながら彼女は食べた。もし本命なら神様は私に対して本命ってことだよね?それも変だしその前に運命の神様は女だったのか。
 ふぅと真由美はため息をつく。今日も特別何もない。良い事もないし特別悪いこともない。高校に入ったらもっと運命的な楽しいことが待っていると思っていたのに、思っていたよりも高校生活っていうのは単調で取るに足らない些細なことばかりなのだ。今日だって遅刻したって特に何もありはしないし、こうして幸運にもチョコレートにありつけたけど、それはこうして食べ終えてしまえば何もなかったようにちょっとした幸せな時間は過ぎ去ってしまう。まるで雨がすべて排水溝に流しちゃうみたいに黒い穴に向かって私の人生に起こる出来事はするすると渦を作って消えてしまう。
 せめて私に本命の人だけでも寄越してよ。別にその人が男でも女でも猫でもいいから私の人生に花を添えてくれるような、もっと大きな変化を与えてくれるような運命的な何かが欲しい。そう呟きながらバッグの中に入っている誰に渡す宛てもないチョコレートを取り出すと屋上から放り投げた。誰かが拾ってくれるのを期待しながら、その人が将来の運命の人であればいいと思いながら彼女はそそくさと階段を下りる。雨なのに?と頭の中で誰かが囁いたが彼女は何も気にするそぶりを見せなかった。


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